16 / 69
使者の道
蛇
しおりを挟む
人影はシュートだった。
「大丈夫!?」
「お…おう。おれは大丈夫だ。それよりラズは?俺を引っ張って前にぶん投げてくれたんだ。」
シュートのすぐ後ろからカラカラと小石が転がる音がした。
「誰の心配をしている?貴様が無事で俺が無事でないわけがないだろう。」
土埃を払いながらラズが歩いてきた。このくらい毒が吐けるなら大丈夫そうだ。
ベルとディルは?
「おーい!!」
壁の向こうから声がした。
「シュートとラズと私、ミックは無事だよー!大丈夫ー!?」
大声で叫び返した。分断されてしまったようだった。ミック達は左側の通路にいる。
「俺たちも無事だ!クリフも一緒にいる!右側の通路にいる!」
ディルとベル、それにクリフは右側の通路。
声が届くということは、壁はあまり厚くなさそうだ。しかし、今崩れたばかりの所に大きな衝撃を与えるのは賢いやり方ではない。シュートの氷で崩れそうなところを凍らせては…とも思ったが広範囲すぎる。
「マルビナの大図書館の隣に宿屋があったはずだ!そこで落ち合う!いいな!」
ラズはそう叫び返し、剣を抜いた。
「わかったわ!無事を祈ってる!」
こちらの通路は真っ暗なので、シュートがまた篝瓶(かがりびん)を取り出した。
「ディルに返さないで自分で持っててよかったぜ。」
明かりはシュートしか持っていないので、シュートが先頭を歩いた。その次をミック。ラズが殿だ。
「弓矢は構えているか?」
ラズが鋭く聞いた。
「うん、ラズが剣を抜いた音がしたから、念の為。」
「あの揺れは地震ではなく、何か生き物が起こしたものかもしれない。油断するな。」
かもしれない、とは言っているが、ラズの張り詰めた声色からは確信している気配がした。
「わかった。ところで、ラズはマルビナには遠征で行ったの?」
振り返って質問すると目があったが、ラズはそっぽを向いてしまった。聞いてはいけないことだったのだろうか。
「…調べ物をしに行ったことがある。」
ボソリと答えてはくれたが、これ以上は触れてほしくなさそうだったので、何を調べたの?と喉まで疑問が上がってきたが飲み込んだ。
その日はずっと歩き続けた。その後何者かに襲われることはなく、前の道よりは少ないが所々明り取りの窓もあったが、出口らしきところは見つからなかった。
「明日、もしも出口らしきところがなければ、どうにかして窓から外へ出た方がいいかもしれない。」
ラズが残り少ない保存食の夕食を取り終わり、真上にある窓がどのくらいの高さか確かめるかのように立ち上がった。ミックはドライフルーツをもぐもぐと噛み締めながら頷いた。
「おい!お前右足首見せてみろ。」
突然いつもよりやや鋭い声でシュートが言った。ラズは舌打ちをしつつ座り込みブーツを脱ぎズボンをまくり上げた。シュートは反対側の足も見せるよう言い、篝瓶を輝かせて左右を見比べ触った。
「やっぱり、捻挫してるじゃねぇか!」
「このくらい、放っておいても平気だ。」
ラズはふんっと鼻を鳴らした。ミックには足がどのくらい悪い状態なのか見えない。しかし、捻挫している足で歩くのが良くないことくらいは、流石に知っている。
強がらないで固定してもらった方が絶対良い。プライド…?ラズが突っぱねる理由が分からなかった。
「本当に平気か?」
シュートが軽くラズの右足首を捻った。
「…っつ!!」
「平気じゃねぇじゃねぇか。」
突然何をする!と怒るラズを無視して、シュートはリュックから包帯を取り出し、右足首を固定し始めた。
「俺をかばった時か…。すぐ言えよな。先頭歩いてたから、全然気付かなかった。」
なぜラズが隠していたのか分かったような気がした。シュートに負い目を感じさせないためではないだろうか。ミックもラズの捻挫には全く気付かなかった。
「私もだ、ごめん。シュート今よく気付いたね。」
「座り方がいつもと違ったし、立ち上がるとき右足を庇ってたからな。」
よく見ている。仲間の不調にいち早く気付くことは兵士としても必要な能力なのだが、とても敵わない。シュートは優秀な医者なのだろうなとミックは思った。
「悪いな、怪我させちまって…。」
シュートはハサミでちょきんと包帯を切り、しっかりと端を処理し固定した。
「なぜ謝る?あの時どう動くか判断したのは俺だから、この怪我は自分の責任だ。貴様の行動で俺が何らかの影響を受けるなど、思い上がりも甚だしい。」
ラズはズボンを戻しブーツを履き直した。
「だってさ!シュートは変に気にしないでいいよ。でも、ラズは怪我したらすぐ言うべきだよ!次からは教えてね。」
ラズはまたふんっと鼻を鳴らした。シュートはいつもより、少し弱々しい笑みをミックに返した。
次の日、三人は簡単な朝食の後また歩き始めた。また窓がしばらくない道が続いた。最悪の場合、昨晩野宿したところまで戻らなくてはならないかもしれない。しかし、しばらく歩くと前方がぼんやりと明るくなってきた。
「お、出口か!?こっちが当たりの道だったのか?」
シュートが篝瓶の明かりを消した。トンネルのような道が終わったと思ったら、ホールのように開けた場所へ出た。
「うわぁ…きれい!」
ミックは思わず呟いた。とても広い地底湖だ。水面は鏡のようで、直径は百メートルはありそうだ。ちょうど反対側にまたトンネルのような道が続いているのか、壁に穴が開いている。天井はドーム型になっており中央は空いていて、地上の明かりが入ってきている。
地底湖は円形で、泳いで突っ切るには大きすぎるし水は冷たいと思われるので、反対側へ行くにはぐるりと壁際を歩いていかなくてはいけないようだった。
「こんなところあるんだな。」
シュートは壁沿いに水際を歩きながら、キョロキョロと見回した。
「よそ見をするな。」
「うおっ!冷てー!!」
ラズに言われたそばから、シュートは小石に躓き片足をジャポンと湖に突っ込んだ。水際は水深が浅いので足が濡れただけで済んだ。
シュートの足が入ったところから鏡面のような湖に波紋が広がった。すると、湖全体の水面が揺れだした。
水面だけでなく、ホールのような洞窟全体が揺れだした。昨日の揺れと似ている。立っているのがやっとだ。段々と湖の真ん中が盛り上がって来た。
嫌な予感がする。
三人とも湖を見つめた。ザーっと滝のよう水音を立て、真っ黒な巨大な蛇が湖の真ん中に顔を出した。シャーッと威嚇し口を大きく開けた。人間を簡単に丸呑みできそうなサイズだ。体は巨木のように太くヌラヌラと光っている。ミックたちを睨んでいる。
「走れ!!」
ラズの声で蛇から目を離せなかった二人は我に返り、反対側の穴へとダッシュした。しかし、蛇のほうが速かった。猛スピードで移動し、ミックたちの進行方向を遮るように立ちはだかった。
ミックが、矢をつがえるより速くラズが動いた。跳び出してシュートより前に出て、容赦なく斬りつけ、蛇の首を切り落とした。
ドサッと首が落ち、首がなくなった胴体がそれより大きな音を立てて地面へと倒れた。
なんて決断力、そしてスピード!
予備動作が殆ど無い。首だから他の部分より若干細いとはいえ、あの太い体を両断するパワーも常人のものではない。ラズのおかげで全員丸呑みにされないで済んだ。
これで大丈夫かと思いきや、切り落とされた頭がチリのように消えていった。その次には、胴体から頭が再生されていった。
「え…ガラ!?」
よく見ると影がなかった。考えている暇はない。ミックは蛇の目を目掛けて矢を放った。一本は刺さったが、もう一本は首のあたりに当たり、刺さらずに弾かれてしまった。皮膚がかなり硬い。矢でとどめを刺すことは難しそうだ。ラズの剣に頼るしかない。しかし、あのスピードだ。おまけに心臓がどこかもわからない。
「おい、医者は人以外の生き物の心臓の場所も知っているのか?」
ラズが叫んだ。とりあえず距離を取るため、もと来た方へ全員走った。
要するに、逃げた。
「んなわけねーだろ!俺が知ってんのは、蛇は肉食ってことと変温動物で体温が低いと動けねぇってことくらいだ。」
「では、貴様、あれを凍らせろ。」
「触るか氷の塊当てなきゃいけねぇんだぞ!そもそも当てたところで、あんなの凍らせられねぇ…その前に俺が食われるわ!」
蛇が体当たりしてきたのをかろうじて避けながら、シュートが叫び返した。確かにあれに直接触れるのは無理だ。氷玉を投げてもあの速さで動かれては当たらないかもしれない。
ん?当てればいいなら、もしかして…ミックは振り返ってシュートを見た。
「凍らせられなくても、体温が下げられれば動きは鈍くなるよね?」
ミックは早口でシュートにきいた。シュートは短く、ああ!と答えた。恐怖のせいか顔が青い。
「あのさ、私の矢の先に氷つけられないかな?」
「それなら多分できるけど…なるほど、それなら当たる!」
シュートはミックの考えがわかったようだ。
「一気に凍らせられなくても、きっと体温は下がるはず。そこをラズが…。」
「わかっている。さっさとやれ!」
ラズが蛇の猛攻を剣でいなしながら答えた。
蛇のスピードは尋常ではなく、全力で逃げているミックたちにすぐ追いついてきた。殿のラズに余裕はなさそうだ。シュートはミックの矢の先を握り、あまり重さや形状が変わらないよう薄く氷を張った。
「いくよ!」
パシュッと風を切る音を立て飛んでいく氷の矢。蛇の胴に当たった。当たった部分が凍った。使える!ミックは次の矢を構えた。
「シャー!!!」
蛇は苦しそうだが、攻撃を緩めない。早くしないとこちらまで攻撃が来ないよう蛇の気を引いているラズがやられてしまう。
ミックは出来上がった氷の矢を次々とうった。シュートは緊張と魔力の消耗からか額に汗をかいている。矢を十本当てたところで、大分蛇の動きが鈍くなってきた。攻撃の威力も落ちている。
「覚悟しろ!」
うおおおーっと雄叫びを上げ、ラズが蛇の口から尻尾めがけて胴体を開くように斬り裂いていった。凍っているところも構わず突き進んでいく。最後まで駆け抜け、尻尾の先まで切り開いてしまった。
「大丈夫!?」
「お…おう。おれは大丈夫だ。それよりラズは?俺を引っ張って前にぶん投げてくれたんだ。」
シュートのすぐ後ろからカラカラと小石が転がる音がした。
「誰の心配をしている?貴様が無事で俺が無事でないわけがないだろう。」
土埃を払いながらラズが歩いてきた。このくらい毒が吐けるなら大丈夫そうだ。
ベルとディルは?
「おーい!!」
壁の向こうから声がした。
「シュートとラズと私、ミックは無事だよー!大丈夫ー!?」
大声で叫び返した。分断されてしまったようだった。ミック達は左側の通路にいる。
「俺たちも無事だ!クリフも一緒にいる!右側の通路にいる!」
ディルとベル、それにクリフは右側の通路。
声が届くということは、壁はあまり厚くなさそうだ。しかし、今崩れたばかりの所に大きな衝撃を与えるのは賢いやり方ではない。シュートの氷で崩れそうなところを凍らせては…とも思ったが広範囲すぎる。
「マルビナの大図書館の隣に宿屋があったはずだ!そこで落ち合う!いいな!」
ラズはそう叫び返し、剣を抜いた。
「わかったわ!無事を祈ってる!」
こちらの通路は真っ暗なので、シュートがまた篝瓶(かがりびん)を取り出した。
「ディルに返さないで自分で持っててよかったぜ。」
明かりはシュートしか持っていないので、シュートが先頭を歩いた。その次をミック。ラズが殿だ。
「弓矢は構えているか?」
ラズが鋭く聞いた。
「うん、ラズが剣を抜いた音がしたから、念の為。」
「あの揺れは地震ではなく、何か生き物が起こしたものかもしれない。油断するな。」
かもしれない、とは言っているが、ラズの張り詰めた声色からは確信している気配がした。
「わかった。ところで、ラズはマルビナには遠征で行ったの?」
振り返って質問すると目があったが、ラズはそっぽを向いてしまった。聞いてはいけないことだったのだろうか。
「…調べ物をしに行ったことがある。」
ボソリと答えてはくれたが、これ以上は触れてほしくなさそうだったので、何を調べたの?と喉まで疑問が上がってきたが飲み込んだ。
その日はずっと歩き続けた。その後何者かに襲われることはなく、前の道よりは少ないが所々明り取りの窓もあったが、出口らしきところは見つからなかった。
「明日、もしも出口らしきところがなければ、どうにかして窓から外へ出た方がいいかもしれない。」
ラズが残り少ない保存食の夕食を取り終わり、真上にある窓がどのくらいの高さか確かめるかのように立ち上がった。ミックはドライフルーツをもぐもぐと噛み締めながら頷いた。
「おい!お前右足首見せてみろ。」
突然いつもよりやや鋭い声でシュートが言った。ラズは舌打ちをしつつ座り込みブーツを脱ぎズボンをまくり上げた。シュートは反対側の足も見せるよう言い、篝瓶を輝かせて左右を見比べ触った。
「やっぱり、捻挫してるじゃねぇか!」
「このくらい、放っておいても平気だ。」
ラズはふんっと鼻を鳴らした。ミックには足がどのくらい悪い状態なのか見えない。しかし、捻挫している足で歩くのが良くないことくらいは、流石に知っている。
強がらないで固定してもらった方が絶対良い。プライド…?ラズが突っぱねる理由が分からなかった。
「本当に平気か?」
シュートが軽くラズの右足首を捻った。
「…っつ!!」
「平気じゃねぇじゃねぇか。」
突然何をする!と怒るラズを無視して、シュートはリュックから包帯を取り出し、右足首を固定し始めた。
「俺をかばった時か…。すぐ言えよな。先頭歩いてたから、全然気付かなかった。」
なぜラズが隠していたのか分かったような気がした。シュートに負い目を感じさせないためではないだろうか。ミックもラズの捻挫には全く気付かなかった。
「私もだ、ごめん。シュート今よく気付いたね。」
「座り方がいつもと違ったし、立ち上がるとき右足を庇ってたからな。」
よく見ている。仲間の不調にいち早く気付くことは兵士としても必要な能力なのだが、とても敵わない。シュートは優秀な医者なのだろうなとミックは思った。
「悪いな、怪我させちまって…。」
シュートはハサミでちょきんと包帯を切り、しっかりと端を処理し固定した。
「なぜ謝る?あの時どう動くか判断したのは俺だから、この怪我は自分の責任だ。貴様の行動で俺が何らかの影響を受けるなど、思い上がりも甚だしい。」
ラズはズボンを戻しブーツを履き直した。
「だってさ!シュートは変に気にしないでいいよ。でも、ラズは怪我したらすぐ言うべきだよ!次からは教えてね。」
ラズはまたふんっと鼻を鳴らした。シュートはいつもより、少し弱々しい笑みをミックに返した。
次の日、三人は簡単な朝食の後また歩き始めた。また窓がしばらくない道が続いた。最悪の場合、昨晩野宿したところまで戻らなくてはならないかもしれない。しかし、しばらく歩くと前方がぼんやりと明るくなってきた。
「お、出口か!?こっちが当たりの道だったのか?」
シュートが篝瓶の明かりを消した。トンネルのような道が終わったと思ったら、ホールのように開けた場所へ出た。
「うわぁ…きれい!」
ミックは思わず呟いた。とても広い地底湖だ。水面は鏡のようで、直径は百メートルはありそうだ。ちょうど反対側にまたトンネルのような道が続いているのか、壁に穴が開いている。天井はドーム型になっており中央は空いていて、地上の明かりが入ってきている。
地底湖は円形で、泳いで突っ切るには大きすぎるし水は冷たいと思われるので、反対側へ行くにはぐるりと壁際を歩いていかなくてはいけないようだった。
「こんなところあるんだな。」
シュートは壁沿いに水際を歩きながら、キョロキョロと見回した。
「よそ見をするな。」
「うおっ!冷てー!!」
ラズに言われたそばから、シュートは小石に躓き片足をジャポンと湖に突っ込んだ。水際は水深が浅いので足が濡れただけで済んだ。
シュートの足が入ったところから鏡面のような湖に波紋が広がった。すると、湖全体の水面が揺れだした。
水面だけでなく、ホールのような洞窟全体が揺れだした。昨日の揺れと似ている。立っているのがやっとだ。段々と湖の真ん中が盛り上がって来た。
嫌な予感がする。
三人とも湖を見つめた。ザーっと滝のよう水音を立て、真っ黒な巨大な蛇が湖の真ん中に顔を出した。シャーッと威嚇し口を大きく開けた。人間を簡単に丸呑みできそうなサイズだ。体は巨木のように太くヌラヌラと光っている。ミックたちを睨んでいる。
「走れ!!」
ラズの声で蛇から目を離せなかった二人は我に返り、反対側の穴へとダッシュした。しかし、蛇のほうが速かった。猛スピードで移動し、ミックたちの進行方向を遮るように立ちはだかった。
ミックが、矢をつがえるより速くラズが動いた。跳び出してシュートより前に出て、容赦なく斬りつけ、蛇の首を切り落とした。
ドサッと首が落ち、首がなくなった胴体がそれより大きな音を立てて地面へと倒れた。
なんて決断力、そしてスピード!
予備動作が殆ど無い。首だから他の部分より若干細いとはいえ、あの太い体を両断するパワーも常人のものではない。ラズのおかげで全員丸呑みにされないで済んだ。
これで大丈夫かと思いきや、切り落とされた頭がチリのように消えていった。その次には、胴体から頭が再生されていった。
「え…ガラ!?」
よく見ると影がなかった。考えている暇はない。ミックは蛇の目を目掛けて矢を放った。一本は刺さったが、もう一本は首のあたりに当たり、刺さらずに弾かれてしまった。皮膚がかなり硬い。矢でとどめを刺すことは難しそうだ。ラズの剣に頼るしかない。しかし、あのスピードだ。おまけに心臓がどこかもわからない。
「おい、医者は人以外の生き物の心臓の場所も知っているのか?」
ラズが叫んだ。とりあえず距離を取るため、もと来た方へ全員走った。
要するに、逃げた。
「んなわけねーだろ!俺が知ってんのは、蛇は肉食ってことと変温動物で体温が低いと動けねぇってことくらいだ。」
「では、貴様、あれを凍らせろ。」
「触るか氷の塊当てなきゃいけねぇんだぞ!そもそも当てたところで、あんなの凍らせられねぇ…その前に俺が食われるわ!」
蛇が体当たりしてきたのをかろうじて避けながら、シュートが叫び返した。確かにあれに直接触れるのは無理だ。氷玉を投げてもあの速さで動かれては当たらないかもしれない。
ん?当てればいいなら、もしかして…ミックは振り返ってシュートを見た。
「凍らせられなくても、体温が下げられれば動きは鈍くなるよね?」
ミックは早口でシュートにきいた。シュートは短く、ああ!と答えた。恐怖のせいか顔が青い。
「あのさ、私の矢の先に氷つけられないかな?」
「それなら多分できるけど…なるほど、それなら当たる!」
シュートはミックの考えがわかったようだ。
「一気に凍らせられなくても、きっと体温は下がるはず。そこをラズが…。」
「わかっている。さっさとやれ!」
ラズが蛇の猛攻を剣でいなしながら答えた。
蛇のスピードは尋常ではなく、全力で逃げているミックたちにすぐ追いついてきた。殿のラズに余裕はなさそうだ。シュートはミックの矢の先を握り、あまり重さや形状が変わらないよう薄く氷を張った。
「いくよ!」
パシュッと風を切る音を立て飛んでいく氷の矢。蛇の胴に当たった。当たった部分が凍った。使える!ミックは次の矢を構えた。
「シャー!!!」
蛇は苦しそうだが、攻撃を緩めない。早くしないとこちらまで攻撃が来ないよう蛇の気を引いているラズがやられてしまう。
ミックは出来上がった氷の矢を次々とうった。シュートは緊張と魔力の消耗からか額に汗をかいている。矢を十本当てたところで、大分蛇の動きが鈍くなってきた。攻撃の威力も落ちている。
「覚悟しろ!」
うおおおーっと雄叫びを上げ、ラズが蛇の口から尻尾めがけて胴体を開くように斬り裂いていった。凍っているところも構わず突き進んでいく。最後まで駆け抜け、尻尾の先まで切り開いてしまった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる