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悪の王妃10
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「そういえば王妃様は本当に罪を犯したのですか?」
猫足の白いバスタブに入れたお湯に浸かったわたくしの髪を洗いながら侍女が不思議そうに言ってきた。
「怖いもの知らずね、貴女…」
「王妃様のかわいらしい姿も拝見させて頂きましたし、聞いてもお怒りになる方ではないと思いましたので」
今朝のわたくしを思い出したらしく、くすくすと笑いながら優しく頭を洗ってくれる彼女を小さく睨むと「怖くありません」と言われてしまった。
わたくしの罪…
-婚約していた公爵家次男への身勝手な婚約破棄、そして旦那様との婚約に関する事-
わたくし達貴族は、王家であっても貴族家であっても子供の頃からの婚約者が決まっていて、それは中には王命で決められる事もあった。
当時のわたくしの婚約者も、わたくしが生まれた時に王命で決められた婚約者で、王の子はわたくししかいないから王配として彼が国王になることも決定していた。
そんな婚約者はわたくしが15の時…当時21歳だった婚約者とお茶の日に彼から紹介されたのが、当時侯爵家長男であった現国王…わたくしの旦那様の元婚約者であった伯爵令嬢だった。
あの日も、今日みたいな天気の良い日で、薄いピンクのドレスが似合う女性だった事を覚えている。
二人は手を取り合って、一緒になれなければ死ぬことより辛く苦しいから、二人でこの国から逃げる、とわたくしに言った。王命で決められた婚約は、いくら侯爵家であっても覆す事はできない、と。
『もしその前に見つかったらどうするのです?』
そう聞くと二人は悲しそうに微笑んで『死国で共に生きようと思う』と…心中すると言っていた。
ならば話は簡単で、わたくしの我儘で婚約解消をすればいいだけの事だと思った。
お父様にお願いして、国王の命令でわたくしは婚約解消できたけれど、相手の伯爵令嬢はそうはいかなかった。
伯爵令嬢の相手は侯爵家。しかも、侯爵家長男である旦那様は跡取りというだけではなく、伯爵令嬢を好いていたらしく婚約解消ができないと言われた。
ならば、空いてしまったわたくしの婚約者に据えればいいとお父様にお願いして、わたくしと旦那様の婚約は成された。
-暗殺者を雇っての伯爵令嬢の暗殺未遂-
当時伯爵令嬢を慕っていた男性は多くいたらしい。
とても美しい人だったから、旦那様との婚約が王命で解消され、お相手がいなくなったと同時に色々な家門の方からの婚約申し込みがあったそうだけれど、全て断ったと。
それに対して逆恨みをし、殺害予告を出す愚か者も多かったと聞く。
-国税を使用しての豪遊。宝飾品等の無駄な買い物-
否定はしない。事実、無駄と言われたら無駄な買い物はしていた。
王女たるもの、流行りを作るべく常に新しいもの、高価な宝飾は必要であったから常に買い物はしていたし、それは国庫から出ていた。
-王妃として・貴族としての務めの拒否-
これも否定はしない。
王命で伯爵令嬢との縁を切ったわたくしの褥に、旦那様は一度もいらっしゃらなかった。
王妃として、貴族女性の務めは『子を成す事』だから褥を共にせずに子を宿す事はできず、わたくしは務めを果たせなかった。
-気に入らない貴婦人への嫌がらせや気に入らない侍女の辞職申請-
これについては一切心当たりがない。
リリアンヌから『あの侍女はサボってばかりで仕事をしない為、辞職させました』とは聞いてはいたけれど、わたくしから命令したことはない。
貴婦人への嫌がらせも、記憶にはない。まず、誰からそういう話が出たかすら明確ではないから、きっとわたくしに恨みを持つ誰かがここぞとばかりに進言したのかとも思う。
そこまで考えて、わたくしは問いかけてきた侍女に小さく微笑んだ。
「そうね。罪を、犯したわ」
実際に犯した罪はいくつ、とは言わない。だって、罪は数ではなく犯したか犯してないかだけだもの。
猫足の白いバスタブに入れたお湯に浸かったわたくしの髪を洗いながら侍女が不思議そうに言ってきた。
「怖いもの知らずね、貴女…」
「王妃様のかわいらしい姿も拝見させて頂きましたし、聞いてもお怒りになる方ではないと思いましたので」
今朝のわたくしを思い出したらしく、くすくすと笑いながら優しく頭を洗ってくれる彼女を小さく睨むと「怖くありません」と言われてしまった。
わたくしの罪…
-婚約していた公爵家次男への身勝手な婚約破棄、そして旦那様との婚約に関する事-
わたくし達貴族は、王家であっても貴族家であっても子供の頃からの婚約者が決まっていて、それは中には王命で決められる事もあった。
当時のわたくしの婚約者も、わたくしが生まれた時に王命で決められた婚約者で、王の子はわたくししかいないから王配として彼が国王になることも決定していた。
そんな婚約者はわたくしが15の時…当時21歳だった婚約者とお茶の日に彼から紹介されたのが、当時侯爵家長男であった現国王…わたくしの旦那様の元婚約者であった伯爵令嬢だった。
あの日も、今日みたいな天気の良い日で、薄いピンクのドレスが似合う女性だった事を覚えている。
二人は手を取り合って、一緒になれなければ死ぬことより辛く苦しいから、二人でこの国から逃げる、とわたくしに言った。王命で決められた婚約は、いくら侯爵家であっても覆す事はできない、と。
『もしその前に見つかったらどうするのです?』
そう聞くと二人は悲しそうに微笑んで『死国で共に生きようと思う』と…心中すると言っていた。
ならば話は簡単で、わたくしの我儘で婚約解消をすればいいだけの事だと思った。
お父様にお願いして、国王の命令でわたくしは婚約解消できたけれど、相手の伯爵令嬢はそうはいかなかった。
伯爵令嬢の相手は侯爵家。しかも、侯爵家長男である旦那様は跡取りというだけではなく、伯爵令嬢を好いていたらしく婚約解消ができないと言われた。
ならば、空いてしまったわたくしの婚約者に据えればいいとお父様にお願いして、わたくしと旦那様の婚約は成された。
-暗殺者を雇っての伯爵令嬢の暗殺未遂-
当時伯爵令嬢を慕っていた男性は多くいたらしい。
とても美しい人だったから、旦那様との婚約が王命で解消され、お相手がいなくなったと同時に色々な家門の方からの婚約申し込みがあったそうだけれど、全て断ったと。
それに対して逆恨みをし、殺害予告を出す愚か者も多かったと聞く。
-国税を使用しての豪遊。宝飾品等の無駄な買い物-
否定はしない。事実、無駄と言われたら無駄な買い物はしていた。
王女たるもの、流行りを作るべく常に新しいもの、高価な宝飾は必要であったから常に買い物はしていたし、それは国庫から出ていた。
-王妃として・貴族としての務めの拒否-
これも否定はしない。
王命で伯爵令嬢との縁を切ったわたくしの褥に、旦那様は一度もいらっしゃらなかった。
王妃として、貴族女性の務めは『子を成す事』だから褥を共にせずに子を宿す事はできず、わたくしは務めを果たせなかった。
-気に入らない貴婦人への嫌がらせや気に入らない侍女の辞職申請-
これについては一切心当たりがない。
リリアンヌから『あの侍女はサボってばかりで仕事をしない為、辞職させました』とは聞いてはいたけれど、わたくしから命令したことはない。
貴婦人への嫌がらせも、記憶にはない。まず、誰からそういう話が出たかすら明確ではないから、きっとわたくしに恨みを持つ誰かがここぞとばかりに進言したのかとも思う。
そこまで考えて、わたくしは問いかけてきた侍女に小さく微笑んだ。
「そうね。罪を、犯したわ」
実際に犯した罪はいくつ、とは言わない。だって、罪は数ではなく犯したか犯してないかだけだもの。
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