悪の王妃

桜木弥生

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悪の王妃6

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塔に入って二日目。

いつもより早い時間に目覚めた。

『王女なのですから、侍女が来る前に起きてはなりません』

早くに目が覚めてしまっても、朝の準備の侍女が来るまではじっとベッドにいなくてはいけなくて…
けれど、今は叱る人はいないから、起きてもいいわよね?

昨日の侍女だって、今日は来るかもわからない。
昨日『また明日、お茶の美味しい入れ方をお教えしますね』と言って去って行ったけれど、罪状の出ている処刑待ちの女なんて、いくら王妃と言えど世話をしたがる事はないでしょう。
きっとあの後に侍従長にでも配置換えを頼んでいるはず。

けれど、わたくしが何をしても咎めなかった彼女に、もう一度会いたいと希望を持ってしまっている。
そのせいで早く起きてしまったなんて、まるで子供のようね。

そうね。リリアンヌは来ないよう伝えたし、彼女も来ないのならば、代わりの侍女が来るのは朝の食事を持って来る時だけでしょう。
ならば、もう起きてもいいわよね。

どうせなら…と、バサッとシーツを思いっきり蹴り上げて、勢い良く飛び起きる。
お行儀が悪いけれど、誰も見ていないもの。
自分のお行儀の悪さに笑いながらベッドから降りようとすると、大きな瞳が落ちそうなくらいに目を見開いた彼女と目が合った。


しばしの沈黙。


「おはよう…ございます?」
「!!!」

朝の挨拶をする彼女に慌ててシーツに潜り込む。
何故?何故いるの?

「えっと…朝ですので…朝のお仕度をしに参りました」

口に出していなかったのに、わたくしの心を見透かしたようにそう言う彼女は、ワゴンにお湯の入った桶とタオルを持って来ていた。

「……見た…?」
「……えぇ。失礼ながら…ばっちりと」

そっとシーツから顔を覗き見れば、小さく小刻みに揺れる彼女の肩が見えた。

「…笑っても…いいわよ…咎めないから笑いなさい…」
「すみません…とても可愛らしくてつい…」

耐えきれなくなったように笑みを含んだ声で言われて、心を決めてシーツから出ることにした。
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