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21話 俺と私のおしのび大作戦④
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「お待ちしておりました。アンリエッタ様。
お連れ様は『ローズ』にお越しになっております」
菓子屋リルドのオーナーである夫人が綺麗なお辞儀で先にサラが着いている事を教えてくれた。
二階の部屋は6室あり、『ローズ』『カサブランカ』『アイリス』『オーキッド』『アマリリス』『リリー』と全て花の名前になっている。
その中でも『ローズ』と『カサブランカ』が一番良い作りになっていて、公爵や侯爵が使う事が多い。でも一番下のランクであるリリーの部屋でもかなり良い作りだったりする。
オーナーに先導されてローズの部屋の前に着くと扉の前にいる部屋番に名前と生年月日と暗号と合言葉を伝える。
セキュリティが厳しいこの店は伯爵以上の爵位持ちしか入れないけど、予約の時に『その部屋に入る人の名前』『合言葉』の二つを伝えておけば他の人でも入れるようになっている。それが公爵家の連れが例え平民であっても。
「~で、暗号は『0805』、合言葉は…ふ…『ふじょしのふはふはいのふ』…ですわ…」
合言葉を考えたのはサラだ。…めちゃくちゃ恥かしい言葉にしやがって!!
赤くなりながらも合言葉を答えると部屋番の男は「どうぞ」と部屋の扉を開けてくれた。
「こちらはご連絡されている方のみとなります。お付きの方々は手前の『ダンデライオン』の部屋でお待ち下さい」
俺の後に続いて入ろうとしたロイとおっさんは部屋番に止められ、別の部屋に案内されていった。
うん。予約してたの俺とサラの名前だったからな。二人は入れてなかった。
部屋に入るとサラは優雅に白地に青の花柄のティーカップを傾けていた。
「遅くなってごめんなさい。サラ様」
「いえ。全然待っていませんわ」
俺の後ろでパタンと小さくドアが閉まる音がして、俺はサラの正面の豪奢な椅子に腰を下ろした。
「すみません。アンリ様。先にお茶だけ頼んでしまいました」
部屋には俺とサラの二人だけなのにお嬢様口調のままのサラ。
「うん。ここ防音だから、別に普通に話して大丈夫だよ。流石に大声出したらアウトだけど」
外だから外用の喋り方なんだろうなとサラに防音だと伝えると、足を広げて腰を椅子の前の方にずらしてだらしない格好になった。
「そーゆーのは先に言ってよー」
「とりあえず女なんだから足は閉じとけよ」
良く前世の姉もしていた格好なので、見た目がサラでももうなんとも思わなくなってきた。馴れって怖い。
テーブル横にあるトレーの上に置いてあるメニュー表を取り中を確認していく。
「おすすめはー?ケーキーけーきー」
「ここのオススメは、この部屋だけでしか食べれない『ローズプレムアム』かな。
あとスフレ系も美味い。『レモンと紅茶のスフレ』と『ミルクと紅茶のスフレ』は喫茶スペースでしか食べれないやつな」
「じゃあそれ。二つづつ頼んで。私が二つ食べるから、あんたも食べるなら三つ頼んで」
メニュー表の載っていたトレーに置いてあるうっすらと薔薇の模様が入った紙を取る。
紙には各ケーキの名前とその隣に枠が書かれており、その枠に個数を記入する仕組みになっている。
紙と同じ場所にあったペンでローズプレミアムとレモンと紅茶のスフレ、ミルクと紅茶のスフレの枠の全てに3と、紅茶の欄に1と記入してトレーの横にある取っ手を掴み開けると紙より二周りくらい大きな隙間がある。その隙間に書いた紙をそっと投入した。
「え?何今の?」
サラはきょとんとしながら書いた紙を投入した隙間と俺を交互に見ている。
「注文は書いた紙をここに入れると厨房に行くようになってるんだよ。ってか、紅茶、先に注文したんじゃないのか?」
「え…出入り口の人に頼んだ…」
今度は俺がぽかーんとした顔をしてしまった。
「そっそう言うのは普通先に言うんじゃないの!?説明とか!」
逆ギレしたサラは羞恥で真っ赤になりながらテーブルをバンバン叩く。
「壊れるから叩くな。んで、普通は予約を入れた人が来るまで説明とかは来ないし、予約入れた人が注文を入れるまでは注文入れないもんだろ」
この辺りは前世でも同じで主役になる人が来るまでは食べる事はもちろん、注文することもしないだろうに。例えば誕生会を外食でするときとかさ。
「あーもー恥かいた!ってか何ドヤ顔で説明してんのよ!悠馬のくせに!」
『壊れる』と言ったせいかテーブルを叩くのは辞めたが、椅子に座ったまま地団駄を踏むように足をバタつかせている。
てか前世の名前を呼ぶなと。
「サラ様?そろそろ給仕が来ますから大人しくしてくださいな」
その俺の声と同時にコンコンと軽いノックが響いた。
ケーキとかその場で作るわけではなくて、下で販売しているのをトレーに入れて持ってくるか作り置きしてあるものを持ってきてくれるから、注文してから持ってくるのが早いんだよね。
サラは慌てて椅子に座りなおして背筋を正し、捲れていたスカートの裾を直した。
◆◆◆◆◆
「で、どうだったの?」
給仕のメイドが注文したケーキや紅茶を置いて部屋から下がるとサラはいつもの如くケーキを食べながら聞いてきた。
うん。主語を飛ばすのも姉貴だなぁと思う。まぁ通じるんだけど。
「結局借りれなくて、強制的に拝借した」
「あぁ。盗んだのね」
わざと言わなかった言葉をさらりと言われた。
ちょっとはオブラートに包んでくれ。
「で?いつ決行?」
「今日、これから」
ニヤリと笑う俺をサラは面白そうに見ている。
「驚かないってことは予想してた?」
「まぁなんとなく?じゃなければこんなもの持ってこないわよ」
サラは椅子から腰を上げて荷物を置いている壁際に行くと、サラが持って来たであろう布の包みを渡してきた。
「これは?」
「開ければわかるわよ」
包みの大きさは1メートルくらいの長さで両手で抱えられるくらいの太さ。
外側を巻いている布を捲ると四角い木箱。その木箱の蓋を開けるとその中には大輪の百合と薔薇、あと名前のわからない色とりどりの花々が入っていた。
「それ後ろ側からも開けられてね。後ろ側に少し余裕を作ってあるから買った剣を中に入れて持ち帰りなさい。どうせそこまで考えてなかったんでしょ」
図星です…お姉さま…
剣を買うつもりではいたけど持ち帰る術までは考えてなかった…
「じゃあ私はここであんたが戻るのを待てばいいのね?」
「あぁ。装備屋はそんなに遠くなかったはずだからすぐ戻る。その間は何食べててもいいよ。後で俺が払うから」
とりあえず急いで出ようと、持って来た籠を開くとふんわりと甘い香りが部屋に広がった。
「あ。忘れてた」
開いた籠の中からもう一回り小さい籠を取り出す。
中にはサラ宛のお菓子だ。
「うちの料理長からサラにって」
籠を渡すとサラは瞳を輝かせた。あまりに嬉しそうなその様子にふとずっと疑問だった事を口にしてみる。
「…そんなにお菓子食べたっけ?…」
前世ではお菓子とか全然食べてなかった気がする。それこそ半年とか一年に一回とかだったはずだ。
なのに何故今世ではそんなに食べてるのか。
「お菓子はね。前世から好きだったのよ。
でも、前世では空手やってたじゃない?
あれ、太れなかったのよ。太ったらそれだけ鈍くなるもん。強くなる為には細くなきゃいけなかったのよね…腹も…胸も…」
「胸は元からじゃ「何か言った?」
ギロリと鋭い視線で睨まれた。
「ナンデモナイデス」
「でもね、今世はゲームの中の世界だからかわからないんだけど、どれだけ食べても太らないのよ。運動もしていないのに。だから、ずっと我慢してた大好きな物を食べれるのよ」
嬉しそうに瞳を輝かせるサラ。
確かに前世の姉貴は甘いものは勿論だけど、脂っこいものとか全然食べなかったなと思い出す。
俺や他の家族は夕飯に唐揚げとか食べてても姉貴だけササミ肉のサラダとか。てっきり嫌いだから食べないんだと思ってた。
「とりあえず、さっさと着替えて行って来たら?遅くなったらあんたの従者達が変に思うわよ?」
昔に思いを馳せていた俺を見ながら俺の頼んでいた分のケーキにまで手を出しているサラと視線が合った。うん。まぁいいや。俺の分も食っとけ。
部屋の片隅にある衝立…これはドレスを直したり食べすぎた時にコルセットを緩める為にあるんだけど、そこに持って来たロイの服と一緒に隠れるように入った。
お連れ様は『ローズ』にお越しになっております」
菓子屋リルドのオーナーである夫人が綺麗なお辞儀で先にサラが着いている事を教えてくれた。
二階の部屋は6室あり、『ローズ』『カサブランカ』『アイリス』『オーキッド』『アマリリス』『リリー』と全て花の名前になっている。
その中でも『ローズ』と『カサブランカ』が一番良い作りになっていて、公爵や侯爵が使う事が多い。でも一番下のランクであるリリーの部屋でもかなり良い作りだったりする。
オーナーに先導されてローズの部屋の前に着くと扉の前にいる部屋番に名前と生年月日と暗号と合言葉を伝える。
セキュリティが厳しいこの店は伯爵以上の爵位持ちしか入れないけど、予約の時に『その部屋に入る人の名前』『合言葉』の二つを伝えておけば他の人でも入れるようになっている。それが公爵家の連れが例え平民であっても。
「~で、暗号は『0805』、合言葉は…ふ…『ふじょしのふはふはいのふ』…ですわ…」
合言葉を考えたのはサラだ。…めちゃくちゃ恥かしい言葉にしやがって!!
赤くなりながらも合言葉を答えると部屋番の男は「どうぞ」と部屋の扉を開けてくれた。
「こちらはご連絡されている方のみとなります。お付きの方々は手前の『ダンデライオン』の部屋でお待ち下さい」
俺の後に続いて入ろうとしたロイとおっさんは部屋番に止められ、別の部屋に案内されていった。
うん。予約してたの俺とサラの名前だったからな。二人は入れてなかった。
部屋に入るとサラは優雅に白地に青の花柄のティーカップを傾けていた。
「遅くなってごめんなさい。サラ様」
「いえ。全然待っていませんわ」
俺の後ろでパタンと小さくドアが閉まる音がして、俺はサラの正面の豪奢な椅子に腰を下ろした。
「すみません。アンリ様。先にお茶だけ頼んでしまいました」
部屋には俺とサラの二人だけなのにお嬢様口調のままのサラ。
「うん。ここ防音だから、別に普通に話して大丈夫だよ。流石に大声出したらアウトだけど」
外だから外用の喋り方なんだろうなとサラに防音だと伝えると、足を広げて腰を椅子の前の方にずらしてだらしない格好になった。
「そーゆーのは先に言ってよー」
「とりあえず女なんだから足は閉じとけよ」
良く前世の姉もしていた格好なので、見た目がサラでももうなんとも思わなくなってきた。馴れって怖い。
テーブル横にあるトレーの上に置いてあるメニュー表を取り中を確認していく。
「おすすめはー?ケーキーけーきー」
「ここのオススメは、この部屋だけでしか食べれない『ローズプレムアム』かな。
あとスフレ系も美味い。『レモンと紅茶のスフレ』と『ミルクと紅茶のスフレ』は喫茶スペースでしか食べれないやつな」
「じゃあそれ。二つづつ頼んで。私が二つ食べるから、あんたも食べるなら三つ頼んで」
メニュー表の載っていたトレーに置いてあるうっすらと薔薇の模様が入った紙を取る。
紙には各ケーキの名前とその隣に枠が書かれており、その枠に個数を記入する仕組みになっている。
紙と同じ場所にあったペンでローズプレミアムとレモンと紅茶のスフレ、ミルクと紅茶のスフレの枠の全てに3と、紅茶の欄に1と記入してトレーの横にある取っ手を掴み開けると紙より二周りくらい大きな隙間がある。その隙間に書いた紙をそっと投入した。
「え?何今の?」
サラはきょとんとしながら書いた紙を投入した隙間と俺を交互に見ている。
「注文は書いた紙をここに入れると厨房に行くようになってるんだよ。ってか、紅茶、先に注文したんじゃないのか?」
「え…出入り口の人に頼んだ…」
今度は俺がぽかーんとした顔をしてしまった。
「そっそう言うのは普通先に言うんじゃないの!?説明とか!」
逆ギレしたサラは羞恥で真っ赤になりながらテーブルをバンバン叩く。
「壊れるから叩くな。んで、普通は予約を入れた人が来るまで説明とかは来ないし、予約入れた人が注文を入れるまでは注文入れないもんだろ」
この辺りは前世でも同じで主役になる人が来るまでは食べる事はもちろん、注文することもしないだろうに。例えば誕生会を外食でするときとかさ。
「あーもー恥かいた!ってか何ドヤ顔で説明してんのよ!悠馬のくせに!」
『壊れる』と言ったせいかテーブルを叩くのは辞めたが、椅子に座ったまま地団駄を踏むように足をバタつかせている。
てか前世の名前を呼ぶなと。
「サラ様?そろそろ給仕が来ますから大人しくしてくださいな」
その俺の声と同時にコンコンと軽いノックが響いた。
ケーキとかその場で作るわけではなくて、下で販売しているのをトレーに入れて持ってくるか作り置きしてあるものを持ってきてくれるから、注文してから持ってくるのが早いんだよね。
サラは慌てて椅子に座りなおして背筋を正し、捲れていたスカートの裾を直した。
◆◆◆◆◆
「で、どうだったの?」
給仕のメイドが注文したケーキや紅茶を置いて部屋から下がるとサラはいつもの如くケーキを食べながら聞いてきた。
うん。主語を飛ばすのも姉貴だなぁと思う。まぁ通じるんだけど。
「結局借りれなくて、強制的に拝借した」
「あぁ。盗んだのね」
わざと言わなかった言葉をさらりと言われた。
ちょっとはオブラートに包んでくれ。
「で?いつ決行?」
「今日、これから」
ニヤリと笑う俺をサラは面白そうに見ている。
「驚かないってことは予想してた?」
「まぁなんとなく?じゃなければこんなもの持ってこないわよ」
サラは椅子から腰を上げて荷物を置いている壁際に行くと、サラが持って来たであろう布の包みを渡してきた。
「これは?」
「開ければわかるわよ」
包みの大きさは1メートルくらいの長さで両手で抱えられるくらいの太さ。
外側を巻いている布を捲ると四角い木箱。その木箱の蓋を開けるとその中には大輪の百合と薔薇、あと名前のわからない色とりどりの花々が入っていた。
「それ後ろ側からも開けられてね。後ろ側に少し余裕を作ってあるから買った剣を中に入れて持ち帰りなさい。どうせそこまで考えてなかったんでしょ」
図星です…お姉さま…
剣を買うつもりではいたけど持ち帰る術までは考えてなかった…
「じゃあ私はここであんたが戻るのを待てばいいのね?」
「あぁ。装備屋はそんなに遠くなかったはずだからすぐ戻る。その間は何食べててもいいよ。後で俺が払うから」
とりあえず急いで出ようと、持って来た籠を開くとふんわりと甘い香りが部屋に広がった。
「あ。忘れてた」
開いた籠の中からもう一回り小さい籠を取り出す。
中にはサラ宛のお菓子だ。
「うちの料理長からサラにって」
籠を渡すとサラは瞳を輝かせた。あまりに嬉しそうなその様子にふとずっと疑問だった事を口にしてみる。
「…そんなにお菓子食べたっけ?…」
前世ではお菓子とか全然食べてなかった気がする。それこそ半年とか一年に一回とかだったはずだ。
なのに何故今世ではそんなに食べてるのか。
「お菓子はね。前世から好きだったのよ。
でも、前世では空手やってたじゃない?
あれ、太れなかったのよ。太ったらそれだけ鈍くなるもん。強くなる為には細くなきゃいけなかったのよね…腹も…胸も…」
「胸は元からじゃ「何か言った?」
ギロリと鋭い視線で睨まれた。
「ナンデモナイデス」
「でもね、今世はゲームの中の世界だからかわからないんだけど、どれだけ食べても太らないのよ。運動もしていないのに。だから、ずっと我慢してた大好きな物を食べれるのよ」
嬉しそうに瞳を輝かせるサラ。
確かに前世の姉貴は甘いものは勿論だけど、脂っこいものとか全然食べなかったなと思い出す。
俺や他の家族は夕飯に唐揚げとか食べてても姉貴だけササミ肉のサラダとか。てっきり嫌いだから食べないんだと思ってた。
「とりあえず、さっさと着替えて行って来たら?遅くなったらあんたの従者達が変に思うわよ?」
昔に思いを馳せていた俺を見ながら俺の頼んでいた分のケーキにまで手を出しているサラと視線が合った。うん。まぁいいや。俺の分も食っとけ。
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