俺と私の公爵令嬢生活

桜木弥生

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2話 俺と私の自己紹介を始めましょう

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 三人を見送ったユーリンが部屋に戻り、「大丈夫ですか!?」「大丈夫よ」という会話を、メイド長に「いい加減お嬢様をお休みさせなさい!」とユーリンが叱られるまで繰り返され、やっと開放された。

 時刻は…多分夜23時とか?体感的にそのくらいの時間だと思う。

 この世界には細かい時刻がないので、日が昇ったら朝。
 日が沈んだら夜となっている。
 なので、実際の細かい時間というのはないので、体感的に…としか言えない。

 日が昇ったら起きてご飯を食べ仕事に行く。
 日が沈みかけたら、家に戻るという暮らしだ。


 さて。やっと一人になれたし、ちょっと整理をしよう。
 整理ついでにメモでも取っとくか…と思ったけど、そんなメモ、万が一誰かに見られたらおしまいな気がするのでやめておくことにする。


 とりあえず前世の事から整理を。

『俺』の名前は桐谷悠馬。
 17歳の高校三年生だった。
 自称中肉中背。姉から言わせたら「ガリガリのもやし野郎」と言われていたが、断固中肉中背だと言わせて頂く。

 17歳の夏。
 17歳の誕生日を3日程過ぎた日曜日。

 1歳上の姉が車の免許を取得して中古の車を買った。

 まだ免許取りたてで慣れていない姉に、「誕生日プレゼントの代わりに海に連れてけ!」と強請った。

 姉も買ったばかりの車を走らせたいからと了承して、二人で海に行く為に高速に乗って、次のインターチェンジで降りてすぐ海だねーなんて言って、無事これたねーなんて笑ってた。

 あとちょっと。
 あとちょっとでインターチェンジの降り口という所で、対向車線を走っていたトラックがガードレールを突き破って来た。

 そこで『桐谷悠馬』の人生は終了した。

 そしてこの世界に生まれたようだ。

 悪役令嬢『アンリエッタ・グレイス』として。


『私』の名前はアンリエッタ・グレイス。
 3日前に17歳になったばかり。
 グレイス公爵家の第二子にして長女。

 自慢の青銀髪はたてロールにきつめに巻かれて腰まであり、動くと軽やかに揺れる。
 瞳は父譲りの少し吊り上った眼に、色は母譲りの鮮やかなエメラルド色。
 唇は何も塗らなくても艶やかな桜色。
 肌は白く肌理細やかで細身な肢体。
 容姿端麗なだけでなく、頭もそこそこに良く、運動も…まぁ、普通程度にはできる。

 そして、第一王子の第一王妃予定。

『予定』というのは、まだ婚約をしていないから。

 この国では、王族は5人まで正妃として迎えられる。
 生まれたのが姫だった場合も5人まで夫を選べ、その内の一人が王になる。

 貴族は3人までだが、それはその貴族の懐具合によって変わる。
 そして双方の重婚は禁止されている。

 例えば、貴族A男が貴族B子・貴族C子・平民D子を嫁に貰った場合、貴族B子が他に旦那を作る事はできない。
 でも貴族A男の嫁が貴族B子だけだった場合、貴族B子は他に2人まで夫に迎えることができる。
 大体は爵位の高い方が多夫もしくは多妻になる。

 うちはお父様もお母様もラブラブで、伴侶はお互いのみと決めたらしく、幸い子供も2人生まれている為、父も母も一人づつだ。

 そしてアランという兄が一人いるが、これまた優秀。

 頭脳明晰、運動神経抜群、眉目秀麗という、この国の王子達を抜かしたら、『お婿さん』にしたい男ダントツNo1!
 そして性格も良いから男女問わずにモテる。
 しかも若くして王宮を守る、王宮騎士団の副団長というある意味チートなお兄様だ。

 ただ如何せん、妹激ラブで過保護。
 ちょっとした妹の我侭なら笑顔で叶えてくれるのは、明らかに甘やかしすぎだと思う。


 どうせならこっちに生まれ変わりたかったと思うのは、俺の我侭でしょうか…


 そして前世での記憶の中の『ゲームのアンリエッタ』について。
 姉がハマっていたゲーム『愛と友情の円舞曲』のライバルにして親友。
 街にお忍びで出ている際に人攫いに合い、主人公のサラ・リーバスに助けられる。
 そしてサラに「親友になってちょうだい」と言って親友になる。

 でも良く考えたら、立場上男爵より上の公爵令嬢に「親友になってちょうだい」なんて、明らかに断れない。
 つか「親友になりなさい」と命令しているも同然なんだよな…


 んで、ゲーム内のアンリエッタは第一王子の第一婚約者で、第一王子を愛している。

 その為、第一王子ルートだと第一王子に見初められたサラを途中から憎み、嫌がらせをして最終的に王子の怒りを買い、公爵家取り潰し。
 元凶のアンリエッタだけは死刑ということで、国民の前でのギロチン処刑。

 うん。乙女ゲームってコワイネ。


 さて、ここでちょっと気になることが出てきた。

 現在の『私』であるアンリエッタの記憶ではそこまで我侭娘ではなかった。
 そして公爵令嬢という立場から、王子に第二・第三の后が選ばれる事も容認できるはず。
 いくら自分の家が一夫一婦制であっても、法律は変えられないというのも理解できている。

 なのに何故『ゲームの中のアンリエッタ』は、醜い嫉妬に駆られて嫌がらせをしたのか。


 …はい。考えるまでもないですね…
 偏に『王子への愛』と『独占欲』だろう。

 ってことはだ、これ、結構簡単じゃね!?
 俺としては、男との結婚なんて絶対に嫌だし、王子とサラをくっつけてしまえば万事OKじゃね!?

 しかも、『私』としてだけだったら確かに王子を愛して暴走というのはあったかもしれないけど、今は『俺』も中にいる状態だからそれは絶対に無いと断言できる!
 よし!今後の方針は、『王子とサラをくっつけよう!』作戦で行こう!そうしよう!!


 さて。ついでに今の状況も整理すると、現在『アンリエッタ・グレイス』の身体中に『桐谷悠馬』と、『アンリエッタ・グレイス』の二人の人格がある。
 ただ、優先順位としては、『俺』の人格が9割に対して、『私』の人格は1割。

『私』の人格はゲーム内のアンリエッタの末路を知ってしまった事が思いの他ショックが大きかったらしく消えかけている。
 けれども『私』の意地なのかまだ若干残っている。

 むしろずっと残ってくれないと俺が困るんだけど。

 マナーや立ち振る舞い等の記憶や行動は、『私』が9割、『俺』が1割。

 流石に17年前の男としての立ち振る舞いよりも、新しい17年間のお嬢様の振る舞いの方が勝ったらしい。
 なので、この先の生活は特に支障はないだろう。

 あれだ。これってあれだ。
『身体はアンリエッタ・心は桐谷悠馬』ってやつだ。
 前世で見た漫画とかアニメっぽいやつだ。

 まぁとりあえず現状整理はできたし、メイドさん達が整えてくれたふっかふかのベッドに横にでもなって、明日に備えますかね…ちょっと色々ありすぎて、疲れたよ…

 とりあえず明日からの対策は、明日にしよう…
 ってことで、分厚いくせに軽い掛け布団を身体に掛けて、おやすみなさい…
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