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哀れな王子

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「あたしは聞かなかったことにしてあげますから。くれぐれも言葉には気を付けてくださいね」

 自らを「未来の国王」と称する身の程知らずの妾腹の王子に親切心で忠告すると、殿下はまるで幼児のように瞳を潤ませて叫んだ。

「孤児風情が……お前まで俺を無能扱いするのか!? どうせ俺なんかに国王は務まらないと思ってるんだろう!?」

「別に無能扱いなんかしてませんけど。立太子してないのは、また別の話ですよね」

 そう。リーベル殿下が王太子にならないのは能力よりも、むしろ血筋の問題なんだよね。
 もちろん、リーベル殿下が血筋の問題をものともしないほど優秀かと言えば、全然そうじゃないんだけどさ。

「うるさい! どいつもこいつもソスランにばかり期待して! どうせ俺なんか……」

 あたしの不安をよそに、殿下はヒステリックに言い募ったかと思うと、今度はいじけ始めた。

「あたし、ソスラン殿下と比べてなんかいませんけど……」

 どうやらまた第二王子殿下へのコンプレックスをこじらせてるみたい。たしかに誰にも期待されないのはかわいそうだけど……

 彼の半年後に産まれた第二王子のソスラン殿下は王妃殿下の子。
 血筋の正しさに加え、文武両道に秀でているとの評判で、国の内外から大いに期待を集めている。
 何しろ、五歳で大人の騎士に混じって鍛錬を始め、日常会話なら七歳の誕生日を迎える前に三か国語を操るようになってたんだ。周囲の期待が集まるのも無理ないよね。

 一方のリーベル殿下は決して劣等生ってわけじゃないんだけど、あまりにも平凡。三か国語どころかエセンチ語の読み書きが充分にできるようになったのが六歳になってから。
 もちろん、平民の多くは文字の読み書きができないし、貴族の子弟だって充分に読み書きができるようになるのは五~六歳。決して遅いわけじゃないけれど、早いわけでもないんだよね。あくまでごく普通ってだけ。

 周囲の大人が比べて育てたわけじゃないんだけど、比べられることすらなかったってことが、余計に「弟にはかなわない」という事実をつきつけたみたい。
 ちっちゃい頃から植え付けられた劣等感は彼の人格形成に大いに悪影響を与えたみたい。
 ソスラン殿下が何かで結果を出してほめられるたびに、対抗心を燃やしたリーベル殿下がそれに挑戦するんだ。結局、意地になってやってみたもののうまくいかなくて殿下が荒れ狂う、ってことがこの宮中の日常茶飯事となっている。

 そんなこんなの積み重ねで、十六歳を迎えたリーベル殿下は態度だけは高圧的だけど、すっかり卑屈で幼稚な少年になってしまった。

 ソスラン殿下に対抗意識を燃やすだけじゃなくて、何か得意なことを磨いて人から認められるように努力すればいいのに。いじけたり八つ当たりしたって、何の解決にもならない。
 全ての面で優秀な第二王子に勝とうとするのが間違いなんだ。本人の特性を見極め、得意なところを精一杯伸ばせば、何か一つくらいは弟よりも秀でたものが見つかるはずなのにね。

 ちっちゃな子供みたいに目にいっぱい涙をためてこっちをにらみつけてる王子を見て、あたしは深々とため息をついた。
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