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クーっと一気に飲み干したまなちゃんは一息ついて、思い出したように背筋を伸ばした。

「新木まな、小学3年生です!」

相変わらず目の前には大きな狐や立派なしっぽの生えたおばあちゃんがいる。その他にも、部屋の隅に目をやるとカサカサと何か・・が動いていた。しかしそれよりも何よりも、自己紹介が先だ。
相手を知りたい時はまず、自分が先に自己紹介するのが保育園から教えられているお約束なのだ。

「そうかい、まなちゃんっていうんだね。本当によく来たねえ。」

しっぽが生えたおばあちゃんはにこにこまなちゃんを歓迎してくれた。
まなちゃんもにこにこしながら狐を撫でた。

「俺ァ弥彦ってんだ。今回は撫でさせてやるが、毎回毎回気安く撫でようと思うんじぇねえぜ」

憎まれ口をたたきながらも、気持ちよさそうに目を瞑る弥彦に、ほっこりあたたかな気持ちになった。

「それでまなちゃん。今日は学校はどうしたんだい?」

おばあちゃんの優しい問いかけに、心がサッと冷たくなった。さっきまで勝手に動いていた口も、ぴったり縫い付けられたようにくっついてしまっていた。
まなちゃんが黙ってしまったことから察したのであろう、おばあちゃんは気づかわしげに微笑み、また問いかけた。

「…まなちゃんは学校が嫌いなのかい?」

おばあちゃんの大きな手のひらに撫でられ、視界がゆがんだ。今までため込んでいた気持ちがすべて、出たい、出たいと体の中で暴れまわって、ぐるぐるまわった。

「あのね、えっとね、私ね、学校で嫌なこと言われてるの。仲間外れにされたり…それでね、」

しゃくりあげながら必死に言葉を選ぶまなちゃんのあたまを撫でつつ、おばあちゃんはゆっくり話を聞いてくれた。お母さんにも言えなかったことが、初めて会ったおばあちゃんには話そうと思えた。
おばあちゃんが真剣に話を聞こうとしていることが、まなちゃんに伝わったからだ。弥彦も、まなちゃんの膝の上で目を瞑ってはいるものの耳がぴくぴくと動いているので、話を聞いているようだった。

「私ね…どこでも、独りぼっちなんだ。 学校でも、おうちでも。私ね、…話すスピードが遅いみたい。だからみんな、私の話待ちきれなくて…。 お母さんも、お父さんも話聞いてくれないし、…えっと、先生も、しっかりしゃべりなさいって。 私がふざけて喋ってるっていうの。…だからお友達がいなくて独りなんだって。 学校も楽しくないし、おうちも、楽しくないの。」

ゆっくりだけど一生懸命、まなちゃんは思っていたことを伝えた。話す順番がごっちゃだったりしたけれど、最後まで話を聞いてくれたのはおばあちゃんが初めてだった。おばちゃんは終始、うんうんと頷きながら話を聞いてくれた。
話終わるころには、涙が止まらなくなっていた。

「まなちゃん。まなちゃんが独りなわけないじゃないか。ほら、おばあちゃんもいるしねえ。周りを見てごらん。泣いてるまなちゃんを心配して、いろんなたちが様子を見に来てくれたよ。…弥彦も心配しているよ。皆、まなちゃんの話をしっかり最後まで聞いて、心配してくれてるんだよ。
まなちゃんが笑顔になれば、全部が明るくなる。そんで、全部がうまくいくようになるからねえ。」

まなちゃんが顔をあげ、周りを見ると、黒いもじゃもじゃに手足が生えたナニか・・・や、大根のような体に大きな一つの目をくっつけたナニか・・・など、たくさんの不思議がまなちゃんを取り囲んだ。みな、純粋にまなちゃんを心配し、駆けつけたのである。

弥彦は照れ臭いのか、まだ寝ているふりをしているらしいが、しっぽをゆらりと浮かせ、まなちゃんの涙をぬぐった。

「ほんと…?私、ひとりじゃないの?」

「当り前じゃないか。一生独りぼっちな人間なんて、存在しないからねぇ。」

おばあちゃんはやっぱり笑って、頭を撫でてくれた。
『まなちゃんが笑顔になれば、全部が明るくなる。そんで、全部がうまくいくようになるからねえ。』
本当かどうかはわからないけど、まなちゃんは明日、学校で笑顔で挨拶してみようと思えるようになった。

「元気だそうねぇ、まなちゃん。明日も学校の後にでも来ていいから。」

その言葉に、まいちゃんは飛び上がって喜んだ。

「ほんと?明日も,来ていいの?!やったぁ!」

まなちゃんは目や鼻を赤くしたままニカっと笑った。周囲の不思議が、ホっと揺らめいた。

「さぁ、まなちゃん。晩飯、食べていくかい?」

外を見るととっぷりと暗くなっていた。お母さんのことをすこし思い出したが、すぐに消して、大きな声でうん!と返事をした。

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