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54、生活基盤のこと
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新しい朝が来た回です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おはよー、クロードさま!」
「おはよう。一緒に朝ごはん作っても良い?」
「いいよー!」
固い床で毛布にくるまって眠り、壁の隙間から差し込む朝日で目を覚ます。あまり良い目覚めとは言えなかったけれど、気分は良かった。早起きな子たちが朝食を用意していたので仲間に入れてもらう。
彼らの世間話に相槌を打ちつつ、簡単に食べられる朝食を作成。使って良いよと言われてはいるが、あまり白ネコたちの備蓄を消費したくない。資金繰りが上手くいくまで、コンラッド様たちには保存食で我慢して貰おうと思う。
「コンラッド様ー、朝ですよー」
慣れないことをして慣れない場所で眠って、ついでに監禁から逃れられた安心もあったのだろう。皆さまは朝食の準備が整ってもまだすやすや眠っていた。みんなでむぎゅっと抱き合って眠っている様子は天使か妖精の類だと言われても良いくらいだ。うちの子たちがこんなにもかわいい。
「んん……クロード……?」
「おはようございます、コンラッド様」
ぽやっと開いた翡翠の瞳に声をかけた。何度か目を擦って起きだしてきた彼は数周視線を巡らせて、ここが屋敷でも、廃砦でもないと気が付いたらしかった。
「おはよう、クロード。朝ごはん何?」
ふにゃ、と笑う姿は久しぶりに気を抜いていて、いくら気丈に見えてもストレスが溜まっていたんだなと思う。予定より早く出られて良かった。最悪1年くらいは閉じ込められる予測だったから、今回はなかなかに良い働きができたんじゃなかろうか。もちろん運が良かったのも十二分にある。本編ではこれからが大変だったことだし、油断は禁物だ。
「簡単な物ですがオープンサンドを」
「いいね。身支度してくる」
私の弟は1人で身支度の出来るよい子である。貴族としては間違っているが私的には有難い。ついでに弟妹さま達を起こして世話をしてくださるので、本当にもったいないお方だ。幸せになって貰わなければ。
そのうちに、日中働く子供たちも起きてきた。少し申し訳ないと思いつつ、寝床として区切っていた区画をそのまま食卓に使わせてもらった。白ネコたちには多少のマナーを仕込んであるが、弟妹さま方が受けた教育には及ばない。公爵家へ戻った時、苦労はさせられないからな。寂しいかもしれないが我慢してもらわねばならないと思う。
「おはようございます、クロード様」
「おはよう、トルク」
「あの、表にいるおっさんどうしますか……?」
「ああ。適当に食料持ってってちょっと話してくるよ。ありがとう」
ディーンおじさんの処遇も考えなければならない。大人だから少々放っておいても生き延びてくれるだろうが、彼は暗殺の仕事を放棄してこちらに付いてくれている。敵に見つかれば排除対象だと思って間違いなかろう。彼を使う時には気を付ける必要がありそうだ。
朝食の残りを見繕って外へ持って行く。ディーンさんは昨日の場所にそのまま座っていた。見目は完全によくいる浮浪者といった風体で、どこから調達したのか昨日とは違う襤褸を被っている。
「おはようございます、おじさん。権利と富を擁する義務を私に果たさせてくださいな」
「あ? ……ああ、どうも。有難く頂戴させていただきます、小さな旦那様」
多大な権力と富を有する貴族には、領民たちを養う義務がある。形式的な口上として知られる私のセリフは、ただし今では物語の中くらいでしか見られなくなったものだ。一瞬訝し気に眉を寄せてこちらを見上げたおじさんは、私がふざけて声をかけただけだと気付いてこれまた大袈裟に食事を受け取った。へら、と少し無邪気に笑う顔は、安心しているようにも見える。
「今日は物資の調達と情報収集に行こうと思ってます。おじさんどうしますか?」
「んー……下手に見つかると殺されそうな気がするんだよな。サボってて良いなら見つからないよう大人しくしてるよ」
「ふむ。……ああ、でしたら、コンラッド様に作法の指導でもして貰ったらどうです? ちょうど、大人の人出が足りないなと思ってて」
丁稚か普通の町人くらいにでも作法が出来ていれば、少なくとも屋敷に招いて警護させるくらいのことはできる。ともかく我々に足りないのは味方とマンパワーだ。廃砦の掃除で、大人の手が有難いというのは嫌というほど学んだからな。コンラッド様たちを外に出すわけにはいかないし、ちょうど良い。
「聞いてみますよ、話すくらいなら出来る窓はあるでしょ」
「なあ、俺は……、いや。やっぱり良い。好きにしてくれ」
おとなしく朝食を齧る彼は、どこか呆れた顔で私を見上げていた。
拠点内に戻り、出掛ける支度をする。普段から街に下りているので服や仕草に問題はないはずだ。古物商に行って金を作って、まず食材を買い込もう。それからヘンウッド卿かシシリー卿に手紙を出して、迎えに来てもらう。そしたらゴードン伯父にされたことを証拠付きで告発して、適切な後見人を付けてもらえばいい。それで解決だ。
建物のすき間から除く、晴れた空を見上げて、それから狭い入り口を潜って拠点に戻った。
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「おはよー、クロードさま!」
「おはよう。一緒に朝ごはん作っても良い?」
「いいよー!」
固い床で毛布にくるまって眠り、壁の隙間から差し込む朝日で目を覚ます。あまり良い目覚めとは言えなかったけれど、気分は良かった。早起きな子たちが朝食を用意していたので仲間に入れてもらう。
彼らの世間話に相槌を打ちつつ、簡単に食べられる朝食を作成。使って良いよと言われてはいるが、あまり白ネコたちの備蓄を消費したくない。資金繰りが上手くいくまで、コンラッド様たちには保存食で我慢して貰おうと思う。
「コンラッド様ー、朝ですよー」
慣れないことをして慣れない場所で眠って、ついでに監禁から逃れられた安心もあったのだろう。皆さまは朝食の準備が整ってもまだすやすや眠っていた。みんなでむぎゅっと抱き合って眠っている様子は天使か妖精の類だと言われても良いくらいだ。うちの子たちがこんなにもかわいい。
「んん……クロード……?」
「おはようございます、コンラッド様」
ぽやっと開いた翡翠の瞳に声をかけた。何度か目を擦って起きだしてきた彼は数周視線を巡らせて、ここが屋敷でも、廃砦でもないと気が付いたらしかった。
「おはよう、クロード。朝ごはん何?」
ふにゃ、と笑う姿は久しぶりに気を抜いていて、いくら気丈に見えてもストレスが溜まっていたんだなと思う。予定より早く出られて良かった。最悪1年くらいは閉じ込められる予測だったから、今回はなかなかに良い働きができたんじゃなかろうか。もちろん運が良かったのも十二分にある。本編ではこれからが大変だったことだし、油断は禁物だ。
「簡単な物ですがオープンサンドを」
「いいね。身支度してくる」
私の弟は1人で身支度の出来るよい子である。貴族としては間違っているが私的には有難い。ついでに弟妹さま達を起こして世話をしてくださるので、本当にもったいないお方だ。幸せになって貰わなければ。
そのうちに、日中働く子供たちも起きてきた。少し申し訳ないと思いつつ、寝床として区切っていた区画をそのまま食卓に使わせてもらった。白ネコたちには多少のマナーを仕込んであるが、弟妹さま方が受けた教育には及ばない。公爵家へ戻った時、苦労はさせられないからな。寂しいかもしれないが我慢してもらわねばならないと思う。
「おはようございます、クロード様」
「おはよう、トルク」
「あの、表にいるおっさんどうしますか……?」
「ああ。適当に食料持ってってちょっと話してくるよ。ありがとう」
ディーンおじさんの処遇も考えなければならない。大人だから少々放っておいても生き延びてくれるだろうが、彼は暗殺の仕事を放棄してこちらに付いてくれている。敵に見つかれば排除対象だと思って間違いなかろう。彼を使う時には気を付ける必要がありそうだ。
朝食の残りを見繕って外へ持って行く。ディーンさんは昨日の場所にそのまま座っていた。見目は完全によくいる浮浪者といった風体で、どこから調達したのか昨日とは違う襤褸を被っている。
「おはようございます、おじさん。権利と富を擁する義務を私に果たさせてくださいな」
「あ? ……ああ、どうも。有難く頂戴させていただきます、小さな旦那様」
多大な権力と富を有する貴族には、領民たちを養う義務がある。形式的な口上として知られる私のセリフは、ただし今では物語の中くらいでしか見られなくなったものだ。一瞬訝し気に眉を寄せてこちらを見上げたおじさんは、私がふざけて声をかけただけだと気付いてこれまた大袈裟に食事を受け取った。へら、と少し無邪気に笑う顔は、安心しているようにも見える。
「今日は物資の調達と情報収集に行こうと思ってます。おじさんどうしますか?」
「んー……下手に見つかると殺されそうな気がするんだよな。サボってて良いなら見つからないよう大人しくしてるよ」
「ふむ。……ああ、でしたら、コンラッド様に作法の指導でもして貰ったらどうです? ちょうど、大人の人出が足りないなと思ってて」
丁稚か普通の町人くらいにでも作法が出来ていれば、少なくとも屋敷に招いて警護させるくらいのことはできる。ともかく我々に足りないのは味方とマンパワーだ。廃砦の掃除で、大人の手が有難いというのは嫌というほど学んだからな。コンラッド様たちを外に出すわけにはいかないし、ちょうど良い。
「聞いてみますよ、話すくらいなら出来る窓はあるでしょ」
「なあ、俺は……、いや。やっぱり良い。好きにしてくれ」
おとなしく朝食を齧る彼は、どこか呆れた顔で私を見上げていた。
拠点内に戻り、出掛ける支度をする。普段から街に下りているので服や仕草に問題はないはずだ。古物商に行って金を作って、まず食材を買い込もう。それからヘンウッド卿かシシリー卿に手紙を出して、迎えに来てもらう。そしたらゴードン伯父にされたことを証拠付きで告発して、適切な後見人を付けてもらえばいい。それで解決だ。
建物のすき間から除く、晴れた空を見上げて、それから狭い入り口を潜って拠点に戻った。
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