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33、依頼のこと
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黒いネズミにもピンキリいるという回です。
単にクロードとコンラッドの覚悟が決まり過ぎているという説もあります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やっぱまずは目的かな。僕を狙って来たんだったらまだ良いけど、メアリたちまで依頼範囲なら放っとけないから」
聞くこと、というと、やはりまずはこれが出てくるだろう。どうかな? と男の方を見る。そろそろコンラッド様の魔術は効果が切れる頃だ。私の魔術もそこまで強くはないし、全く反応できないことは無いだろう。
男はふいと顔を背けて、さすがにまだ答えようとはしない。ただ、こういうことに慣れている様子の私たちを気味悪げに横目で見ただけだ。
「諢滄崕」
「ぃッ……」
分かりやすく指を向け、バチリと首に一撃。大きく跳ねた男は、立派なことに口を割らなかった。金で雇われただけのチンピラなら、何発か見舞ってやればあっさり全部話すんだけども。
「……今回わりとえらい奴かな?」
「っぽいですねぇ。コンラッド様の初撃で倒れなかったの久々じゃないです?」
「うん。なー、僕たち眠いんだけど。何が目的でここに来たのかくらい話してくれないかな」
くるり。丈夫で重ための杖を片手でバトンのように回して、コンラッド様は男へ近付いた。魔導具や補助道具の類は1つも無かったので、魔術師ではないと判断したようだ。
「僕は知る権利あるだろ。暗殺対象なんだからさ」
すん、と表情の落ちた美形の顔は、作り物のようでどこかおそろしい。深い緑の瞳はじいっと男を見つめている。男の方は気まずげに顔を逸らしたままで、ただ、どこかやりにくそうだった。
もしかしたら、詳しいターゲット像を聞いていなかったのかもしれないな。ここにいる奴を殺せと言われてきたか、金髪の男子を殺せと言われてきたか、そんなところだろう。それがまだ12の幼子だったものだから……ついでに妙な魔術を使う従者までオマケで付いていたものだから……戸惑っているのかもしれない。
深い翡翠の瞳は宝石のように美しい。天窓からの僅かな月明かりしかない中、天使のように整った容姿の少年が、見透かすように自分を見つめるのはさぞ具合が悪かろう。
「…………クロード、こいつ駄目だ。なんにも話さないから殺そう」
しばらく無言で男を見つめていたコンラッド様は、ふと目を逸らし、穏やかな口調で言った。
「左様ですか。分かりました。……物置きで良いですか?」
「うん」
「…………」
私も意識して淡々と返事をした。男はきっと私たちを、ただの貴族の子供だと思っている。甘やかされてきたお坊っちゃんだと。……人を殺せる訳など無い、と思っているに違いない。
「ああ、どうせならご自分のナイフを使ってあげましょう。解体は手間が掛かりそうですけど、灰にするより疲れないでしょうし」
「入れるとこ空けてくるな」
「はい、お願いします」
並べていた武器を取って吟味する。良い品だ。手入れもしっかりしてあり、刃こぼれや錆は1つもない。コンラッド様が物置きへ向かったので、入れ替わりで私が男の前に立つ。
「何か喋った方が楽だと思いますけど」
「知らねぇな」
「……繝阪ぜ繝溘?縺医&縺ィ繧」
私の方が従者だと見て気を抜いたのだろう。吐き捨てるように口を開いた男へ、指輪の付いた手をかざす。逃げる顔を追って両の瞼に触れ、最近組んだ魔術を発動。……これ私以外で実験してないけど、まあ良かろう。
「ぎゃあ!? なん、なにっ……ぅわあああ!?」
「お、成功」
記録の魔導具を作るにあたって、当然映像記録と再生の魔術も習い覚えたので、ちょっと改造してみたものだ。現存の魔術だと『記録・再生』は同じ道具を使う必要があるけれど、私は前世の知識があるので。触れた手と指輪を起点に、魔力で擬似プロジェクターを作成。それを相手の瞼へ投影しているという寸法だ。ちょっと追加で発光だの可視化だのとややこしい回路を組み込むことになったけれど、結構上手く出来たと思う。瞼の裏側に強制投影されるから、目を閉じれば鮮明に見え、開けても視界の端で延々とチラつく凶悪仕様である。
ちなみに、今流しているB-2は、貧民街へ行った時に撮ってきた『ドブネズミたちが残飯に群がる様子』の超至近距離映像だ。私は一度自分で確認したが、指輪が食われないかとはらはらしたかいあって迫力満点に仕上がっている。
「っひ、うぁ!? おい! なんだこれ止めろ!」
「おや、言葉遣いがなっていませんね? 縺九∪縺ゥ縺ョ轣ォ縺ョ荳ュ」
「ぎゃああああ!? 燃え、ひ、火が!」
Bシリーズは迂闊に試せない分、こういう時に良い反応をしてくれると嬉しくなる。なお、3は竈の中に火箸で指輪を突っ込んで作ったものだ。私は、瞼への投射では二度と見たくない。
「わかった、分かった! 喋るからこれ消してくれ! 頼む!」
「おや……蜀咲函蛛懈ュ「。お話ししてくれるんです? ありがとうございます」
投射を止め、手をどけて微笑んで見せる。男はおばけでも見たような顔で私を見た。……失敬な、私は主人を守りたいだけの小市民だというのに。
単にクロードとコンラッドの覚悟が決まり過ぎているという説もあります。
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「やっぱまずは目的かな。僕を狙って来たんだったらまだ良いけど、メアリたちまで依頼範囲なら放っとけないから」
聞くこと、というと、やはりまずはこれが出てくるだろう。どうかな? と男の方を見る。そろそろコンラッド様の魔術は効果が切れる頃だ。私の魔術もそこまで強くはないし、全く反応できないことは無いだろう。
男はふいと顔を背けて、さすがにまだ答えようとはしない。ただ、こういうことに慣れている様子の私たちを気味悪げに横目で見ただけだ。
「諢滄崕」
「ぃッ……」
分かりやすく指を向け、バチリと首に一撃。大きく跳ねた男は、立派なことに口を割らなかった。金で雇われただけのチンピラなら、何発か見舞ってやればあっさり全部話すんだけども。
「……今回わりとえらい奴かな?」
「っぽいですねぇ。コンラッド様の初撃で倒れなかったの久々じゃないです?」
「うん。なー、僕たち眠いんだけど。何が目的でここに来たのかくらい話してくれないかな」
くるり。丈夫で重ための杖を片手でバトンのように回して、コンラッド様は男へ近付いた。魔導具や補助道具の類は1つも無かったので、魔術師ではないと判断したようだ。
「僕は知る権利あるだろ。暗殺対象なんだからさ」
すん、と表情の落ちた美形の顔は、作り物のようでどこかおそろしい。深い緑の瞳はじいっと男を見つめている。男の方は気まずげに顔を逸らしたままで、ただ、どこかやりにくそうだった。
もしかしたら、詳しいターゲット像を聞いていなかったのかもしれないな。ここにいる奴を殺せと言われてきたか、金髪の男子を殺せと言われてきたか、そんなところだろう。それがまだ12の幼子だったものだから……ついでに妙な魔術を使う従者までオマケで付いていたものだから……戸惑っているのかもしれない。
深い翡翠の瞳は宝石のように美しい。天窓からの僅かな月明かりしかない中、天使のように整った容姿の少年が、見透かすように自分を見つめるのはさぞ具合が悪かろう。
「…………クロード、こいつ駄目だ。なんにも話さないから殺そう」
しばらく無言で男を見つめていたコンラッド様は、ふと目を逸らし、穏やかな口調で言った。
「左様ですか。分かりました。……物置きで良いですか?」
「うん」
「…………」
私も意識して淡々と返事をした。男はきっと私たちを、ただの貴族の子供だと思っている。甘やかされてきたお坊っちゃんだと。……人を殺せる訳など無い、と思っているに違いない。
「ああ、どうせならご自分のナイフを使ってあげましょう。解体は手間が掛かりそうですけど、灰にするより疲れないでしょうし」
「入れるとこ空けてくるな」
「はい、お願いします」
並べていた武器を取って吟味する。良い品だ。手入れもしっかりしてあり、刃こぼれや錆は1つもない。コンラッド様が物置きへ向かったので、入れ替わりで私が男の前に立つ。
「何か喋った方が楽だと思いますけど」
「知らねぇな」
「……繝阪ぜ繝溘?縺医&縺ィ繧」
私の方が従者だと見て気を抜いたのだろう。吐き捨てるように口を開いた男へ、指輪の付いた手をかざす。逃げる顔を追って両の瞼に触れ、最近組んだ魔術を発動。……これ私以外で実験してないけど、まあ良かろう。
「ぎゃあ!? なん、なにっ……ぅわあああ!?」
「お、成功」
記録の魔導具を作るにあたって、当然映像記録と再生の魔術も習い覚えたので、ちょっと改造してみたものだ。現存の魔術だと『記録・再生』は同じ道具を使う必要があるけれど、私は前世の知識があるので。触れた手と指輪を起点に、魔力で擬似プロジェクターを作成。それを相手の瞼へ投影しているという寸法だ。ちょっと追加で発光だの可視化だのとややこしい回路を組み込むことになったけれど、結構上手く出来たと思う。瞼の裏側に強制投影されるから、目を閉じれば鮮明に見え、開けても視界の端で延々とチラつく凶悪仕様である。
ちなみに、今流しているB-2は、貧民街へ行った時に撮ってきた『ドブネズミたちが残飯に群がる様子』の超至近距離映像だ。私は一度自分で確認したが、指輪が食われないかとはらはらしたかいあって迫力満点に仕上がっている。
「っひ、うぁ!? おい! なんだこれ止めろ!」
「おや、言葉遣いがなっていませんね? 縺九∪縺ゥ縺ョ轣ォ縺ョ荳ュ」
「ぎゃああああ!? 燃え、ひ、火が!」
Bシリーズは迂闊に試せない分、こういう時に良い反応をしてくれると嬉しくなる。なお、3は竈の中に火箸で指輪を突っ込んで作ったものだ。私は、瞼への投射では二度と見たくない。
「わかった、分かった! 喋るからこれ消してくれ! 頼む!」
「おや……蜀咲函蛛懈ュ「。お話ししてくれるんです? ありがとうございます」
投射を止め、手をどけて微笑んで見せる。男はおばけでも見たような顔で私を見た。……失敬な、私は主人を守りたいだけの小市民だというのに。
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