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31、侵入者のこと
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侵入者がやって来る回です。
意外とのんびり監禁されている回でもあります。
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さて、あれから数日が経ち、私たちは至って平和に……というのもおかしな話だが、何事もなく監禁生活を過ごしている。多少の意地悪やら、暗殺未遂やらがあるかと身構えていたのだけど、本当に何事もなくただただ監禁されている。
食べ物やら水やら、いちいち毒が無いか調べているのだけど、それもなく。至って普通の、原材料だ。いや従者が私でなければ詰んでた可能性はあるな。12年ぶりに誰に憚ることなく好きな物が作れて正直楽しい。
「クロード、明日の朝ごはん何?」
「明日はフレンチトーストとサラダですよー」
「かけるやつやる!」
「ではお願いできますか」
「わたしもやるー」
「ええ、お2人にお願いしますね」
明日はフレンチトーストを焼くので、夜のうちから仕込んでおく。ちょっと楽しくなってきているのでここから出た時に気を付けねば。こないだ見つけた蜂蜜をかけるのはジョン坊ちゃんとジェーンお嬢様の役目だ。とても大切である。
「さ、もう寝ませんと。おやすみなさい」
「はーい」
「はぁい」
寝ないと大きくなれませんよ、と声をかけ、おやすみなさいと口々に言って寝室へ向かうジョン坊ちゃんとジェーンお嬢様を見送る。今日はもう少し夜ふかしをして、コンラッド様と一緒に物置きの整理を終わらせなくてはいけない。
液に浸したトーストは、埃が入らないよう布巾を掛けて暗所へ保管。残念ながら冷蔵庫なる魔導具は無いので、代わりに魔術をかけておく。明日が楽しみだ。
「メアリも寝た。……美味そうだなそれ」
「お疲れ様です。いけませんよ、明日の分です」
しばらく経ち、ひょこりと寝室からコンラッド様が顔を出した。弟妹様たちの寝かし付けは、最近もっぱらコンラッド様のお役目だ。1番参っているらしいメアリお嬢様も、お兄様にあやされると比較的すぐに寝てくれる。
「……そろそろ、連絡来るかな」
「どうでしょう……見つかれば必ず来るはずです。最悪ロープでも伸ばしてあの窓から下りましょう」
「うん」
トルクたちと約束した日は過ぎている。彼らはきっと私たちを見つけてくれるはずだ。
「よし! じゃあ今のうちにあの魔導具整理して、…………!」
封鎖されているはずの出入り口から音がした。気分を変えるように伸びをしたコンラッド様が、ぴたりと動きを止める。私も思わず手を止めた。
「……開いたか」
「そのようです。……コンラッド様、杖を」
「ん」
2人して家具の影へ入り、出入り口から身を隠す。腰にいつでも携えた杖を抜くコンラッド様は険しい顔でそちらを睨んでいる。私も補助用の指輪を確認し、魔導具に改造した屑魔石を取り出した。急いで床へ投擲しておく。
ガコン、と音が鳴り、扉が開かれる。入って来たのはあからさまに怪しげな風体の黒ローブだ。成人のようだが、体格は隠されて見えない。きょろ、とあたりを見回し、誰もいないと見て歩を進めた。
こういう時の段取りは決めてある。声をあげないということは、奴は友好的な人物では無いだろう。……コンラッド様たちを、害しにやって来たと見て間違いない。
ゆっくり慎重に進む黒ローブは、そこそこ綺麗にされたリビングに驚いているようだった。コンラッド様と視線を合わせ、頷きあって前を向く。
静かに指を立て、順に折る。3、2、1、0。カウントと合わせて、私が魔石に込めた魔術を発動させる。ぎゅっと瞑った瞼の向こうで強い光が見え、低い悲鳴が聞こえた。
さあ、情報源を引っ捉えよう。
意外とのんびり監禁されている回でもあります。
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さて、あれから数日が経ち、私たちは至って平和に……というのもおかしな話だが、何事もなく監禁生活を過ごしている。多少の意地悪やら、暗殺未遂やらがあるかと身構えていたのだけど、本当に何事もなくただただ監禁されている。
食べ物やら水やら、いちいち毒が無いか調べているのだけど、それもなく。至って普通の、原材料だ。いや従者が私でなければ詰んでた可能性はあるな。12年ぶりに誰に憚ることなく好きな物が作れて正直楽しい。
「クロード、明日の朝ごはん何?」
「明日はフレンチトーストとサラダですよー」
「かけるやつやる!」
「ではお願いできますか」
「わたしもやるー」
「ええ、お2人にお願いしますね」
明日はフレンチトーストを焼くので、夜のうちから仕込んでおく。ちょっと楽しくなってきているのでここから出た時に気を付けねば。こないだ見つけた蜂蜜をかけるのはジョン坊ちゃんとジェーンお嬢様の役目だ。とても大切である。
「さ、もう寝ませんと。おやすみなさい」
「はーい」
「はぁい」
寝ないと大きくなれませんよ、と声をかけ、おやすみなさいと口々に言って寝室へ向かうジョン坊ちゃんとジェーンお嬢様を見送る。今日はもう少し夜ふかしをして、コンラッド様と一緒に物置きの整理を終わらせなくてはいけない。
液に浸したトーストは、埃が入らないよう布巾を掛けて暗所へ保管。残念ながら冷蔵庫なる魔導具は無いので、代わりに魔術をかけておく。明日が楽しみだ。
「メアリも寝た。……美味そうだなそれ」
「お疲れ様です。いけませんよ、明日の分です」
しばらく経ち、ひょこりと寝室からコンラッド様が顔を出した。弟妹様たちの寝かし付けは、最近もっぱらコンラッド様のお役目だ。1番参っているらしいメアリお嬢様も、お兄様にあやされると比較的すぐに寝てくれる。
「……そろそろ、連絡来るかな」
「どうでしょう……見つかれば必ず来るはずです。最悪ロープでも伸ばしてあの窓から下りましょう」
「うん」
トルクたちと約束した日は過ぎている。彼らはきっと私たちを見つけてくれるはずだ。
「よし! じゃあ今のうちにあの魔導具整理して、…………!」
封鎖されているはずの出入り口から音がした。気分を変えるように伸びをしたコンラッド様が、ぴたりと動きを止める。私も思わず手を止めた。
「……開いたか」
「そのようです。……コンラッド様、杖を」
「ん」
2人して家具の影へ入り、出入り口から身を隠す。腰にいつでも携えた杖を抜くコンラッド様は険しい顔でそちらを睨んでいる。私も補助用の指輪を確認し、魔導具に改造した屑魔石を取り出した。急いで床へ投擲しておく。
ガコン、と音が鳴り、扉が開かれる。入って来たのはあからさまに怪しげな風体の黒ローブだ。成人のようだが、体格は隠されて見えない。きょろ、とあたりを見回し、誰もいないと見て歩を進めた。
こういう時の段取りは決めてある。声をあげないということは、奴は友好的な人物では無いだろう。……コンラッド様たちを、害しにやって来たと見て間違いない。
ゆっくり慎重に進む黒ローブは、そこそこ綺麗にされたリビングに驚いているようだった。コンラッド様と視線を合わせ、頷きあって前を向く。
静かに指を立て、順に折る。3、2、1、0。カウントと合わせて、私が魔石に込めた魔術を発動させる。ぎゅっと瞑った瞼の向こうで強い光が見え、低い悲鳴が聞こえた。
さあ、情報源を引っ捉えよう。
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