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28、外のこと

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窓から外を見る回です。
まだ出られません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「うぉっ!? ちょ、クロード、クロード!」

「どうされました!?」

 せっせと本を分類し、棚を空にしてはその上まで積まれた山を崩している最中のことだ。驚きの声と共にバサバサと紙が落ちる音がした。なんだなんだと、壁際の棚を空けていたコンラッド様の方を見る。

「ここ窓だ! 外見えるぞこれ」

「本当ですか!」

「あぁ! ちょっと待ってくれ、ここ全部落とすから……なんかガラス拭くもの……」

「お兄様、雑巾があるわ」

 慌てて見に行けば、たしかに棚の上から光がさしているようだった。いくらかの本が乱暴に床へと落とされ、コンラッド様が棚を伝って上へ登る。

「落ちないでくださいね……」

「分かってるよ……くそ、ちょっとしか開かないなこの窓」

 ばさりと紙の束が落ち、埃が舞う。ガチャガチャ金具を弄る音がして、コンラッド様は残念そうに言った。どうも、一般的な観音開きの窓ではなかったらしい。外倒しというのだったか? 僅かに換気用の隙間が開く程度のようだ。

 下から雑巾が投げられ、汚れで真っ白になったガラスが拭かれる。どうだった、と下で私と弟妹様たちが急かす中、コンラッド様は顔を顰めた。

「……だめだ、森と山しか見えない。領内なのか怪しくなってきたぞこれ」

「わ、私も登って良いですか」

「おう。気を付けろよ」

 顔をガラスへ押し付けるようにして外を覗くコンラッド様の隣へよじ登って、私も同じように覗いてみる。たしかに見える範囲は森と山だ。普段見ていた植物と大して違わないように見える。さすがに植生から場所を割り出せるほど博識ではないので、なんの自信もないが。

「どこだ、ここ」

「分かりませんね。下りられそうにないことは確かです」

 木で遮られて地面は見えないけれど、直接落ちて平気なわけはないことくらいは分かった。その程度には高い場所にある。

 ここ以外の場所にある窓は私たちでは届かないか、あるいはがっちりと格子が嵌められて開けられそうになかった。……逃げるならばここなのだろう、きっと。と、いうことは、落ちても死にはしない。いやここから無理やり出るのは遠慮したいが。

「んん……やっぱ見える所に特定出来るものはないか……」

「そうですね……。一応、外の者がこのあたりに来れば連絡が来るはずなんですが」

 例の手紙はまだ飛んで来ない。私がまだ屋敷でいるかもということを考慮するなら、彼らは手紙を無駄遣いしないだろう。彼らは頭が良い。

「あれか……。ここ、開けとくか」

「そうですね」

 わずかしか開かない窓だから、そこまで雨風が入ることもあるまい。私たちはひとまず外の観察を諦め、そこを開けたまま下へ降りた。弟妹様たちが自分も見たい何があったと尋ねてくるので、それに応える。さすがにでかい棚の上へ小さな御子を上げるのは危ないから、なんとかお話で堪えてもらいたい。

「おそと……」

「ごめんなさいジョン坊ちゃん。いずれ登れるように階段を付けますからね。それまでお待ちください」

「うー……」

 よく分からん物ならたくさんあるから、重ねたり並べたりして階段を作るくらいは出来るだろう。あるいは梯子くらいあるかもしれない。安全に登れるようになるまで我慢していただきたい。
 ……なお私も登る途中結構怖かった。早く大きくなりたい。

「でも出られなそうだったからなー。外見るだけなら出来そうだし、ここ掃除出来たら使えそうなもの探そうなー」

 コンラッド様に頭を撫でられて、ジョン坊ちゃんはなんとか納得したようだった。ジェーンお嬢様とメアリお嬢様も順に撫で回して、コンラッド様はさあ、と気持ちを切り替える。

 お互いに少し落胆したのには、気が付かなかったことにした。
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