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24、遺留物のこと

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塔に残されていた物を眺める回です。
若干のR15成分があります。ご注意ください。
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「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さまでした」

 朝食を食べ終え、みなで手を合わせてから食器を下げる。この国では、特に食前の挨拶やら祈りやらがあるわけではない。いつだったか、私がうっかり『いただきます』をやってしまってからコンラッド様が真似をし始め、今ではすっかりおなじみになっている。
 なんかしらの宗教やら慣習やらに引っかかりやしないかと慌てて調べたのはいい思い出だ。マジで何もなくてほっとした。

「さて、どこから掃除する?」

「まずはキッチンですね。埃まみれのご飯は嫌です」

「たしかに」

 本日はたくさん動く予定なので、運動のできる簡易な服を着てもらった。シンプルな服だと余計に妖精感があるレンドル家の皆さま。眼福だ。

「では皆さま! 食器をお片付けがてらキッチンのお掃除をいたしますよ!」

 腕捲りをしてやるぞと構えれば、皆さまそれぞれお返事を返してくれた。手始めにはじめから備え付けられていた調理器具やら、いつのものかも分からない調味料やらを全部出して床へ並べていく。期待は全くしていなかったけれど、案外ちゃんとした鍋やフライパンから泡立て器、果てはクッキーの抜き型まで仕舞いこまれていて、もしや昔は普通に毎日使用されていたのでは? なんて推測が立つ。

 ここがいったいどこなのかという議論は情報がなさ過ぎて行われていない。ただ、ここに昔いた人を想像するのは楽しかった。お菓子を作る人だから子供もいたかもしれないとか、大きい寸胴鍋があるから元々たくさん人がいただろうとか、そういうことを話しながら作業を進める。

「クロード、これなに?」

 ジェーンお嬢様が棚の奥から取り出したのは、小さな瓶のようだった。しっかり蓋がされていて、中は見えない。

「失礼します、ちょっと開けてみますね……」

 私が片手で持てるサイズ感だ。調味料か、あるいはお酒かもしれない。ぎゅっと閉まった蓋を開けてみようとして力を込める。…………かっったいなこれ。

「くっ……か、固ぁ……すみません、ちょっと温めてみましょう……」

「僕もやりたい」

「どうぞ、無理なさいませんように」

 お湯につけたら開きやすくなるとか聞いたことがある。己の腕力に無理を強いる気になれず、私はコンラッド様へ瓶を渡して水を手近な鍋へ溜めた。

「あ、開いた」

「へ?」

 パコッ、と音がしてそちらを見れば、両手にそれぞれ蓋と瓶を持っているコンラッド様がいる。きれいに開いた瓶の中身は、どうやら水飴か何かのようだ。

「お兄様すごいです!」

「お兄ちゃんだからな!」

 弟妹様たちにやんやと褒められているコンラッド様。同い年のはずなんだけどな……と、複雑な気分でそれを眺めながら、私も凄いですねと拍手を送った。いや、さすがは私のご主人様だ。

「中身は蜂蜜だな」

「食べてもいい?」

「だめ。おやつの時間まで我慢な」

「……はぁーい」

 もう一度緩く蓋を締め直して、コンラッド様は私へ瓶を手渡した。管理は宜しくということだろう。

「…………な、クロード」

「はい、なんでしょう?」

 私に渡った甘味は諦めることにしたのか、弟妹様たちは次の棚へ取り掛かっている。するりと私へ近付いたコンラッド様は、心持ちひそりと声を低くして私の名を呼んだ。

「僕凄かった?」

「ええ。私も鍛えないといけませんね」

「……ご褒美、ほしい」

「蜂蜜はおやつの時間ですよ」

「ううん」

 甘える声が、妙に低く聞こえる。艶っぽい男の声に。

 暖かな体温が触れる距離まで近付いて、あどけない天使にも似た彼は、私の耳元で密やかにねだる。

「昨日の、気持ち良いのしたい」

 私は、気付かなかった。自分がどうであったかさえ忘れていたから、はじめてのソレがどれほど印象深いかを理解していなかった。

「……ご自分でなさらないと」

「やだ。クロードと一緒がいい」

「コンラッド様、」

「クロード、おねがい」

 気持ちの良い自慰行為、の認識に、『クロードと行う』の一節が付属するかもしれない可能性に、私は思い至らなかった。

 コンラッド様はよくよく私という従者を知っている。私が彼のに弱いことも、なんだかんだ皆さまへ甘いことも。こういうねだり方をするのは、どうしたって譲りたくない時だ。

 ……いや駄目だろう。癖をつけるのは駄目だ。コンラッド様は公爵令息なのだ、婚約者を思って……とかならまだしも従者と無駄打ちは業が深すぎる。私の方が色々と爛れている自覚があるのでもっと駄目だ。ああ、早いとこ此処を出てまともな教育を受け直して貰いたい。

「…………弟妹様たちがお昼寝してから、もう一度お話ししましょう」

「分かった。……約束な」

 思惑通りに突っぱねられなくなった私は、辛うじて即答を避けた。さてどうやって断ろうかと思案する間も、するりと私を撫でた主の手の感触が、頬にこびりついていた。
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