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20、閑話 雇い主の事

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貧民街の「白ネコ」リーダーことトルク視点のお話です。実は彼らの方がわりと年上で、わりとわきまえていて、わりとクロードに好意的で、意外と割り切っている子が多い。
直接的な描写はありませんが品のない話とかしてるのでご注意ください。
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「トルクー。今日の見回り終わったー」

「おう、ご苦労さん」

「あとこれ今日のな」

「ありがてぇー」

 貧民街の孤児、という人種は、おおかたにおいて強かなものだ。というか、強かでないと食っていけないと言う方が正しい。
 拠点に帰ってきたユーリから、いくらかの銅貨とパンの切れ端を受け取る。我々の間では、取ってきた物はある程度の取り分を抜いて一旦家に納めようと決められている。自分がたくさん稼いだ時はみんなに振る舞うし、逆に稼げなかった時はありがたく施しをいただくのだ。

 わざと稼がない奴や稼ぐのが下手な奴はって? わざとサボるようなはウチにいないし、外で稼ぐのが苦手な奴には家のことを任せてる。みんな意外と強かなのだ。価値を売り込むのは上手い。

「あ、そうだ。クロード様が言ってた煉瓦の塔なんだけどよ。あれ城壁の見張り台のことじゃねえの?」

「お。なんか分かったか?」

 我らが素晴らしき雇い主「クロード」。何年か前に初めて会ってから、何度も助けられ、俺たちは彼のお願いを聞こうとみなで決めた。彼は子供だが、俺たち孤児に正当な報酬と過剰な手当を振る舞ってくれる。チビたちも随分懐いているし、上客と言うにもまだ恩が勝るようなお人だ。

「城壁の角んとこにさ、見張りが立つ用の丸いのあるだろ。アレも『塔』じゃねぇかと思ってさ」

 クロード様から貰った任務は現在よっつ。貧民街の情報収集と最近追加された魔導具の管理と、煉瓦造りの塔の捜索。俺たちはここのところ、張り切って活動範囲を広げ、少しずつ調査を進めていた。

 最後の1つが『きちんと生きること』なのが、年長者まで彼へ心酔する理由の大部分を占めていると思う。彼は俺たちをきっと見捨てない。

「たしかに……あれって入り口どうなってる?」

「そもそも塔ごとの入り口がねぇんだよ、中で繋がってんだ。下にだーれも居なかったから調べやすかったぜ」

「へぇ……魔術がどうとかは調べられなさそうだな」

 レンドル領をぐるりと囲う城壁は分厚く、外敵の撃退のため中にも人が入れる場所があるらしい、というのは誰でも知っている。入り口付近には常に兵士が控えているので、俺たちが内部の構造を知るのは至難の技だ。

「無理無理。クロード様にゃ悪いが、1週間待ってあの手紙飛ばした方が確実だ」

「そうするかぁ……とりあえず地図埋めと探索は継続で」

「おう」

 ユーリが手を洗うのを横に見ながら、廃材で作った地図と黒炭を取り出して追加を書き込む。手洗いうがいも地図の書き方も、クロード様に教えてもらったものだ。

 俺たちにパンや中古の道具を恵んでくれたり、魔石を充填してくれたりする代わりと称して与えられた知識は、きっと俺たち孤児が本来知るはずのない知識なのだろう。半信半疑で従ったしばらく後から、病気に掛かる仲間がぐっと減った。食い物に火を通したら腹を壊す奴らが減った。俺が書き始めて随分埋まった地図は、自分で褒めても良いくらいに良くできている。

「……毎度思うけどよ、コレ、見られたら俺ら殺されるよな」

「言うなよ、怖くなるだろ」

 レンドル領の、貧民街含めた詳しい地図。現在進行系で更新中。政治とかよく分からんがコレをみんなで作り始めてから、危ない大人から逃げおおせるのが一気に楽になった。たぶん金があったらみんな買うし、たぶんこれ正式なのは偉いやつの極秘情報とかそんな感じのアレだ。クロード様は、情報集めるならあった方が楽だよ、なんて台詞と共にこの知識を授けてくれたわけだが……半分ほど埋まった地図を前に、年長組全員でぞっとしたのは記憶に新しい。

 まあ、それでも埋める俺たちも俺たちだということで……彼が悪いわけではないことにしよう。

「ミミは?」

「いつものジジイんとこ」

「そか。頑張るなぁ……あれ、ルカいねぇの?」

「今日はミーシャと一緒に行ってる。杖持ち魔術師探すんだとよ」

「あー……前構われてたなアイツ」

 俺たち『白ネコ』の仲間は、だいたい半数が日中仕事に出ていて、もう半数が夕方に仕事へ出る。ずっと家で家事やら家守やらをしているのはほんの少数だ。

 孤児にも出来る、割の良い仕事は何か? と問われた時、まあ回答は人によって異なるだろう。道端に座ってお恵みを乞うのが上手い奴もいれば、大人に取り入ってお遣いの手間賃を貰える奴もいる。今話しているユーリや俺なんかは、ちょっと身奇麗にして煙突掃除や荷運びをしたこともある。

 で、上手ければ実入りの良いのが夜の仕事だ。ミミやミーシャなんかは特に、大人が好むように媚を売るのが上手い。1晩大人にくっついてヨイショして、股を開くだけで料金以外に現物のプレゼントがあることもある。その代わりハズレを引くと悲惨なわけで、クロード様が聞いたら嫌な顔をするんじゃなかろうか。そのあたりの見極めさえ出来れば割の良い仕事だが。

「……ルカのやつそれ、クロード様になんて説明するつもりなんだろう」

 ユーリも同じことを思ったらしい。貧民街付近でうろついてる魔術師なんてハグレも良いところだ。そんな輩に体使わせて魔術覚えたなんて知ったら、あの人泣くんじゃなかろうか。止めれば良かったかな。

「3流の杖持ちに尻で授業料払いましたって?」

「馬鹿じゃねぇの。怒られるだろ」

「俺は泣くと思う」

「あの人俺らに夢見てるとこあるよなぁ」

 杖無しでぽんぽん簡単そうに魔術を使うくせして、そういう、なんというかエロとかセックスとか、そんな方面の話は意図的に逸らしている感じがある。貴族の奴らってみんなそうなんだろうか? 貧民街でいれば、路地裏で体売ってる奴なんてごまんといるのに。

 どっかの貴族の坊ちゃんらしくて結構だとは思う。我々が一生懸命頑張って生きているのは間違いないが、その過程でそういう、大人の性欲だったり、顕示欲だったり、そういうものを利用していないわけもない。あのガラス細工みたいに冷たくて、満月みたいに凛と目を引く姿を見て、つい値段を付けそうになったのは昔の話だ。それぐらいには染み付いている。

「変な輩に騙されないか心配」

「それ。対価に1晩寝るとか言われたらまともに交渉出来なさそう」

「絶対あの人が思ってる倍は金毟れる」

「わかる。見抜きで銀貨取れそう」

「あーわかるわあの御面相なら銅貨じゃねぇもん。めっちゃ儲りそうそれ」

 ストリップとかやって貰ったら一財産出来るんじゃねぇかな、なんてユーリと一緒に話す。別に本気でして貰おうってわけではないが、話すだけなら自由だろう。

 お立ち台は外が良い。月の見える所。出来れば満月で、明かりはそれだけ。あのちょっと彩度の低くて、夜に紛れそうな濃い灰の髪と赤紫の瞳が月明かりで照らされているのが良い。肌が白いから、きっと本当にガラス細工みたいに映えるはずだ。舞台の周りだけしんとしずまって、みんな芸術品を見るような雰囲気で。それで、ひんやりと冷たい容姿が、こちらを見て綻ぶように笑うのだ。

「…………良いな」

「うん……思ったよりやべぇな」

 2人して神妙な顔をしてしまった。彼のご主人がどんな人かは知らないが、是非にあの顔を利用するのだけは止めてほしい。彼は俺たちの「飼い主」なのだから。

 そのあと盛大に鳴ったユーリの腹のせいで真剣な雰囲気は壊れて、2人で夕飯は何かと台所へ駆け込むことになった。


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Tips 杖持ち

魔術師の俗称。大多数の魔術師が、魔術の制御と魔力操作補助のために大小様々な大きさの杖を持ち歩くことに由来。魔術の触媒としては他に指輪やイヤリングなどの装飾品や、本や剣なども挙げられる。が、1番効率が良く伝統的なのが杖である。
当然ながら杖は補助道具であり、破壊したところで魔術が使えなくなるわけではないので注意が必要。たんに発動難易度が上がるだけである。

なお、主人公は身バレを避けるため、外出時は杖を所持していない。万が一杖を折られた時の備えとしても練習しているらしい。
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