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16、調査のこと

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報告と秘密アイテムの回です。
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さて、しておかなければならないことは多い。レンドル家使用人の話は夜にでもアルフへ聞くとして……私は街へ出て貧民街へ向かっていた。少し早いが、ともかく早いうちにトルクへ調査の結果を聞いておかなければならない。

「あらクロード、また来てくれたの? 美味しいリンゴがあるんだけど見てかない?」

「ミカさん、こんにちは。すみません、ちょっと今日は急いでるんです。それに、まだ分からないんですけど、しばらく来られなくなるかもしれなくて……ごめんなさい」

 貧民街への道中、声をかけてくれた八百屋のおかみさんに手を振る。どうなるのかはほんとに分からないからな……上手くいったら来週も普通に下りてくる可能性だってあるんだし……。

「あら! そうなの、寂しくなるわね。ちょっと待ってね……ほらこれ! 持って行って!」

「良いんですか?」

「良いのよぉ、ほら、こないだ窓直してくれたでしょ、そのお礼。ねっ」

「あ、ありがとうございます」

 あの時その場でお駄賃貰ったような気が……いや、いいか。貰えるものは貰っておこう。リンゴをいくつか差し出してくれた彼女にお礼を言い、ありがたく持っていたバッグへ入れておく。トルクたちにあげよう。

「また落ち着いたら遊びに来てね」

「はい、ぜひ」

 彼女へ伝えておけば、そのうち街の人には広がるだろう。もう一度頭を下げ、手を振って先へ進む。人が少なくなってきたあたりで、いつも通りマントを被った。

「あっ。クロード様」

「やあ、トルク」

「まだ1週間じゃない……です、よね?」

「うん。ちょっと事情が変わってね。それで、こないだの話なんだけど……」

 ちょうど拠点へ帰って来ていたトルクと鉢合わせる。やあ、と手を上げると彼は少し慌てたような顔をして、ともかく中へと案内される。

「あー……すみません、まだ、半分くらいしか……」

「いいよいいよ、私の方が予定早めただけだから」

 しょぼんと眉を下げている。貧民街でそこそこ遣り手の子供なはずなのに、なんとなく素直でかわいいんだよなぁ、トルク。

「ええと……煉瓦造りの塔? ってか、建物ならいくつか見つけたけど、あんたが言うみたいな魔術がかかってるのはまだ。探せる奴が少ねぇから、確認に時間かかってる」

「そっか、ありがとう」

 よって来た子に、先程貰ったリンゴを手渡す。わぁい、と声を上げて、切り分けようと小さな子らが嬉しそうに台所へ向かう。

 トルクと他数名の子に勧められて椅子へ座り、事情が変わったことと、しばらく来られなくなるかもしれないことを説明。……まあ、この子らは自分たちで生きていけるから、私がいなくなってもどうにかするだろうけど。

 元々自分たちだけで生きてた子だしね。彼らの心配はあまりしていない。

「それでね、私たちの予想なら、貧民街の何処かに監禁されると思うんだ」

「……あ、それで、煉瓦の塔?」

「そう。早めに逃げられるように探しておきたかったんだけど、時間が足りなかったね」

「お、俺! まだ探すから! あんたらが捕まったらすぐ助けられるように……」

 便利な魔導具やらがなくなると言っても、それだけに頼っているはずもあるまい。心配そうな顔で宣言してくれるトルクと、同意を示して頷いている彼らはとても良い子たちだ。貧民街生まれでさえなければ、いろんな未来を夢見たはずなのだけど……階級社会は残酷だ。

「ありがとう。それで、今日は私たちが捕まったら連絡が取れるようにしたいと思って魔導具を持ってきたんだ」

 バッグからレターセットを取り出して机に置く。こちら、いつもの古道具屋に破格の値段で取り扱われていた訳有り品だ。魔導具、と聞いて若干体を引いたトルクたちに、大丈夫だからと手を振って説明を続ける。

「た、高いんじゃ……」

「訳有り品だから大丈夫だよ。これ、登録した相手の所に自動で飛んで行ってくれる紙とインクなんだけどね。飛距離がちょっとしかなくて安かったんだ」

 有効距離、なんと100mちょっと。どこでも飛んでいく手紙と言うにはちょっと頼りない。ただ、相手が近くにいるときや、ちょっと捻って相手がどこにいるのか確認したい時なんかはきっと便利だと思う。

「こないだ、文字は教えたよね。ちょっとしたやり取りならもうできるし、私たちがいそうな建物の周りでこれを飛ばしてみて欲しいんだ」

「……あんたらがそこにいたら、ちゃんと届くからか」

 は、とレターセットから顔を上げ、私を見るトルクはやっぱり頭が良い。

「そう。届けばお願いも会話もできるし、上手く行けば脱出も出来る」

「分かった、大事に持っておく」

「次は1週間後に来るよ。……来なかったら、そういうことだと思ってほしい」

「…………おう」

 真剣な顔で使い方を確認し、絶対に見つけるから、と私の手を取ってくれた彼らは、ちょっと飽き始めていた文字の勉強をまたやる気になったようだった。
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