12 / 56
12、証拠のこと
しおりを挟む
証拠を得るために準備を整えたい回です。
最近tipsをさぼっています。申し訳ない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やあ、ブルーム先生! お久しぶりでございます。お変わりありませんか?」
「こんにちは、ベルクラフト君。変わらず隠居生活を楽しんでいるよ。君も元気そうだね」
「はい、おかげさまで」
シシリー卿を部屋へ案内し、彼の分のお茶を用意する。久しぶりに会ったらしい講師2人はしばらく歓談していた。本当に旧知の仲だったらしい。シシリー卿が「先生」と呼んでいるあたり、年齢的にも現役時代の師弟なのだろうか?
「それで、ブルーム先生? 今回は何を作らせていただけるんですか?」
明るい黄色の瞳を楽しげに輝かせて、シシリー卿は首を傾げた。私たちへ魔術を教える時のような、脱線して魔術理論を説く時のような、そんな顔だった。
「おや。私は教え子の屋敷へお邪魔する予定があるから待っているだけだよ。ただ、若様方との授業を見学させてもらおうと思ってね」
「! そうですか、緊張しちゃいますね」
ちりん。
一瞬、きゅっと口を窄めて意外そうな顔をした彼は、だけどすぐに元通り笑って、自身の持つ魔導具をひとつ鳴らした。ふわりと魔術が部屋を包み、私とコンラッド様は2人して視線を巡らせる。
「防音と検知のついでに適当な魔導具の解説を流しておきましたので、内緒話が出来ますよ。さあ坊っちゃんたち! どんな悪戯をお考えですか?」
にっこり。いつも通りの優しげな顔で微笑まれて、もう一度どうしようとコンラッド様とお互いを見る。察しが良いですねと言うべきか、どうして察せるんですかと言うべきか。
「ええ……と。何から説明したら……。と、とりあえずですね、記録の魔導具の作り方を教えていただきたくて」
「ほう! 良いですね、複数の魔術を使いますから、魔導具作りの練習になります」
コンラッド様が困惑しつつ答える。シシリー卿はにこにこしていた。
使用人たちの不敬やら、ゴードン伯爵の悪事やらをどうにかして客観的に資料におさめたい、という話になったのだ。きちんと映像を記録できる物を提出されれば誤魔化しは効かないだろうし、授業の一環で設置しました、と言えばどうしてこんな場所にの疑問も流せるだろう。ついでに、構造を調べてもらえば偽造が不可能なことも証明可能だ。子供の作った道具にそんな高度な機能が付くわけもない。
「……聞かないんですか」
「?」
ただ、私たちの使える魔術をいくつか挙げ、記録と再生を行うには何を組み合わせるべきかとぶつぶつ思案しているシシリー卿へ、さすがに尋ねないわけにはいかなかった。たしかに私たちへ優しくしてくれ、魔術にしか興味のなさそうな彼なら教えてくれるだろうとふんで話を持ちかけたわけだが……一応、ヘンウッド卿に口添えしてもらう覚悟もしていたのだ。どう考えても怪しいもの。
「何に使うのかとか、どうしてこれなのかとか」
「必要なのでしょう? 大丈夫、私は坊っちゃんたちの味方ですよ。私はただ、授業で分かりやすく複数の魔術を組み込む実践をしてみるだけです。それを習った坊っちゃんたちが、それをどう使うかはまた別の話。違いますか?」
ことり、と早速拳サイズの魔石を取り出して、シシリー卿はいかにも先生らしく微笑んだ。眼鏡の奥の黄色い瞳は楽しげに笑っていて、きっと嘘ではないのだろうと思う。
「さあ、善は急げと申します。まずは魔石へ魔術を定着させる方法から、実技で学んでまいりましょうね!」
私たちの前へ1つずつ置かれた魔石。いつも通り、ぱらりと本を捲って、シシリー卿はいつも通り授業を始めた。部屋に満ちていた魔術の気配がいつの間にか消えている。
彼は、きっと私たちに逃げ道をくれたのだ。彼自身が『授業で教えただけ』と逃げるためではなく。『授業で作った魔導具を、使ってみよと言われたから』とか、そんな言い訳を私たちに許すために、彼は『授業の一環』というていを取った。
重たげなローブが、なんだかいつもより立派に見えた。
「ありがとうございます」
「ええ! クロード君ももちろん一緒に実践していただきますからね」
「はい」
ヘンウッド卿は口を挟むことなく楽しそうに私たちを見ていた。しょっちゅう脱線しながら魔導具の作り方を話す講義は、いつも通りに面白かった。
最近tipsをさぼっています。申し訳ない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やあ、ブルーム先生! お久しぶりでございます。お変わりありませんか?」
「こんにちは、ベルクラフト君。変わらず隠居生活を楽しんでいるよ。君も元気そうだね」
「はい、おかげさまで」
シシリー卿を部屋へ案内し、彼の分のお茶を用意する。久しぶりに会ったらしい講師2人はしばらく歓談していた。本当に旧知の仲だったらしい。シシリー卿が「先生」と呼んでいるあたり、年齢的にも現役時代の師弟なのだろうか?
「それで、ブルーム先生? 今回は何を作らせていただけるんですか?」
明るい黄色の瞳を楽しげに輝かせて、シシリー卿は首を傾げた。私たちへ魔術を教える時のような、脱線して魔術理論を説く時のような、そんな顔だった。
「おや。私は教え子の屋敷へお邪魔する予定があるから待っているだけだよ。ただ、若様方との授業を見学させてもらおうと思ってね」
「! そうですか、緊張しちゃいますね」
ちりん。
一瞬、きゅっと口を窄めて意外そうな顔をした彼は、だけどすぐに元通り笑って、自身の持つ魔導具をひとつ鳴らした。ふわりと魔術が部屋を包み、私とコンラッド様は2人して視線を巡らせる。
「防音と検知のついでに適当な魔導具の解説を流しておきましたので、内緒話が出来ますよ。さあ坊っちゃんたち! どんな悪戯をお考えですか?」
にっこり。いつも通りの優しげな顔で微笑まれて、もう一度どうしようとコンラッド様とお互いを見る。察しが良いですねと言うべきか、どうして察せるんですかと言うべきか。
「ええ……と。何から説明したら……。と、とりあえずですね、記録の魔導具の作り方を教えていただきたくて」
「ほう! 良いですね、複数の魔術を使いますから、魔導具作りの練習になります」
コンラッド様が困惑しつつ答える。シシリー卿はにこにこしていた。
使用人たちの不敬やら、ゴードン伯爵の悪事やらをどうにかして客観的に資料におさめたい、という話になったのだ。きちんと映像を記録できる物を提出されれば誤魔化しは効かないだろうし、授業の一環で設置しました、と言えばどうしてこんな場所にの疑問も流せるだろう。ついでに、構造を調べてもらえば偽造が不可能なことも証明可能だ。子供の作った道具にそんな高度な機能が付くわけもない。
「……聞かないんですか」
「?」
ただ、私たちの使える魔術をいくつか挙げ、記録と再生を行うには何を組み合わせるべきかとぶつぶつ思案しているシシリー卿へ、さすがに尋ねないわけにはいかなかった。たしかに私たちへ優しくしてくれ、魔術にしか興味のなさそうな彼なら教えてくれるだろうとふんで話を持ちかけたわけだが……一応、ヘンウッド卿に口添えしてもらう覚悟もしていたのだ。どう考えても怪しいもの。
「何に使うのかとか、どうしてこれなのかとか」
「必要なのでしょう? 大丈夫、私は坊っちゃんたちの味方ですよ。私はただ、授業で分かりやすく複数の魔術を組み込む実践をしてみるだけです。それを習った坊っちゃんたちが、それをどう使うかはまた別の話。違いますか?」
ことり、と早速拳サイズの魔石を取り出して、シシリー卿はいかにも先生らしく微笑んだ。眼鏡の奥の黄色い瞳は楽しげに笑っていて、きっと嘘ではないのだろうと思う。
「さあ、善は急げと申します。まずは魔石へ魔術を定着させる方法から、実技で学んでまいりましょうね!」
私たちの前へ1つずつ置かれた魔石。いつも通り、ぱらりと本を捲って、シシリー卿はいつも通り授業を始めた。部屋に満ちていた魔術の気配がいつの間にか消えている。
彼は、きっと私たちに逃げ道をくれたのだ。彼自身が『授業で教えただけ』と逃げるためではなく。『授業で作った魔導具を、使ってみよと言われたから』とか、そんな言い訳を私たちに許すために、彼は『授業の一環』というていを取った。
重たげなローブが、なんだかいつもより立派に見えた。
「ありがとうございます」
「ええ! クロード君ももちろん一緒に実践していただきますからね」
「はい」
ヘンウッド卿は口を挟むことなく楽しそうに私たちを見ていた。しょっちゅう脱線しながら魔導具の作り方を話す講義は、いつも通りに面白かった。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
弟いわく、ここは乙女ゲームの世界らしいです
慎
BL
――‥ 昔、あるとき弟が言った。此処はある乙女ゲームの世界の中だ、と。我が侯爵家 ハワードは今の代で終わりを迎え、父・母の散財により没落貴族に堕ちる、と… 。そして、これまでの悪事が晒され、父・母と共に令息である僕自身も母の息の掛かった婚約者の悪役令嬢と共に公開処刑にて断罪される… と。あの日、珍しく滑舌に喋り出した弟は予言めいた言葉を口にした――‥ 。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~
白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。
そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!?
前世は嫌われもの。今世は愛されもの。
自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!!
****************
というようなものを書こうと思っています。
初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。
暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。
なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。
この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。
R15は保険です。
推しの悪役令息に転生しましたが、このかわいい妖精は絶対に死なせません!!
もものみ
BL
【異世界の総受けもの創作BL小説です】
地雷の方はご注意ください。
以下、ネタバレを含む内容紹介です。
鈴木 楓(すずき かえで)、25歳。植物とかわいいものが大好きな花屋の店主。最近妹に薦められたBLゲーム『Baby's breath』の絵の綺麗さに、腐男子でもないのにドはまりしてしまった。中でもあるキャラを推しはじめてから、毎日がより楽しく、幸せに過ごしていた。そんなただの一般人だった楓は、ある日、店で火災に巻き込まれて命を落としてしまい―――――
ぱちりと目を開けると見知らぬ天井が広がっていた。驚きながらも辺りを確認するとそばに鏡が。それを覗きこんでみるとそこには―――――どこか見覚えのある、というか見覚えしかない、銀髪に透き通った青い瞳の、妖精のように可憐な、超美少年がいた。
「えええええ?!?!」
死んだはずが、楓は前世で大好きだったBLゲーム『Baby's breath』の最推し、セオドア・フォーサイスに転生していたのだ。
が、たとえセオドアがどんなに妖精みたいに可愛くても、彼には逃れられない運命がある。―――断罪されて死刑、不慮の事故、不慮の事故、断罪されて死刑、不慮の事故、不慮の事故、不慮の事故…etc. そう、セオドアは最推しではあるが、必ずデッドエンドにたどり着く、ご都合悪役キャラなのだ!このままではいけない。というかこんなに可愛い妖精を、若くして死なせる???ぜっったいにだめだ!!!そう決意した楓は最推しの悪役令息をどうにかハッピーエンドに導こうとする、のだが…セオドアに必ず訪れる死には何か秘密があるようで―――――?情報を得るためにいろいろな人に近づくも、原作ではセオドアを毛嫌いしていた攻略対象たちになぜか気に入られて取り合いが始まったり、原作にはいない謎のイケメンに口説かれたり、さらには原作とはちょっと雰囲気の違うヒロインにまで好かれたり……ちょっと待って、これどうなってるの!?
デッドエンド不可避の推しに転生してしまった推しを愛するオタクは、推しをハッピーエンドに導けるのか?また、可愛い可愛い思っているわりにこの世界では好かれないと思って無自覚に可愛さを撒き散らすセオドアに陥落していった男達の恋の行く先とは?
ーーーーーーーーーー
悪役令息ものです。死亡エンドしかない最推し悪役令息に転生してしまった主人公が、推しを救おうと奮闘するお話。話の軸はセオドアの死の真相についてを探っていく感じですが、ラブコメっぽく仕上げられたらいいなあと思います。
ちなみに、名前にも植物や花言葉などいろんな要素が絡まっています!
楓『調和、美しい変化、大切な思い出』
セオドア・フォーサイス
(神の贈り物)(妖精の草地)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる