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邂逅 レオ・ライオンハートとケンタウロスの少女⑤

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 背後から掴まえられた両手。

(力で負けてるわけではない……力が奪われているような感覚)

 振りほどこうと抵抗する気持ちすら削ぎ落されていく。

 四本足も力が奪われ、その場に座り込まされた。

「やれやれ」とアスリン。

「まさか暴れ馬の調教みたいな真似をさせられるとは思ってみませんでしたよ」

 それから思い出したように、こう付け加えた。

「ところで、貴方って何者で、どうして私たちを襲ったのですか?」

「――――ッ! 何を言う。私を追跡していたのはお前たちだろうが」

「私たちが、貴方を?」

「とぼけるつもりか!」

「とぼけるも何も……えっと、貴方ってジェル・クロウって人知ってる?」

「……ジェル?」とセツナは考える。 

 知らない。 彼女は、彼女が追っている冒険者の名前がジェル・クロウなんて事は知らないのであった。

「私たちは、その人物を追っているのよ。彼等は危険な物を持っているの」

「危険な物?」

「そう……貴方が持っている古代魔道具。ライフルよりも危険な古代魔道具を収集しようとしれる人物よ」

「古代魔道具……」と聞いた直後、セツナの行動は早かった。

(コイツを危険視してる連中なら、私は明確な敵のはず。ここで活路を見出さなければ――――)

 セツナを制していたと思い込んでいたアスリンは、思いもよらない反撃にバランスを崩した。

 その隙に拘束から逃れたセツナは立ち上がり、銃口をアスリンに向ける。

「撃ってない。何を――――一体、何をした?」

「私は運が良い。もしも……」

「なにッ!」

「もしも、貴方が古代魔道具に頼らなければ…… もしも、接近戦に適した武器を……」

「だから、何をしたと聞いている!」

「弾をね……弾倉を抜いていたんだよ」

「それこそ、馬鹿な。そう簡単に――――」

「知らなかったのかい? 私は魔法使いだよ?」

「――――ッ! 殺せ!」

「え?」

「私を殺せと言っている。敵に屈辱を受けるくらいなら――――」

「いや、もしかして貴方……自分が殺されない可能性があるとでも思っていたの?」

「え?」とセツナは聞き返そうとした。 しかし、できない。

 彼女の喉に傷が入っている。 深い傷――――致命傷だ。

(ば、馬鹿な。死ぬ……のか? わたしがこんな所で…… そんな……ことが…)

 それが最後の意識。 あとは闇が思考を黒へ染め抜いて行った。

 その直後、合流したレオ達は変わり果てたケンタウロスの体を一瞥した。

「コイツか……本当に殺したのか?」

「ん? あぁ、そうだね」とアスリン。その言葉に違和感が……しかし、それを誤魔化すように、

「なにか、まずかったかな? 彼女は私たちを殺そうとしてきた。まさか、それでも人殺しはダメなんていう聖職者みたいな君ではないだろう?」

「あぁ、俺たちは冒険者だからな。魔物以外だって、盗賊や賞金首を討っている」


 冒険者に取って、命は安い。

 生死が隣合わせの世界で生きる彼等は、驚くべき安価で殺しの依頼を受ける事がある。

 その依頼が合法、非合法に構わずにだ。

 まして、レオたちは生き残るため、かつての仲間を囮につかってダンジョンで見殺しにした。

   
「けど、コイツにはそんな覚悟はなかった。 殺気とか、悪意とかじゃなく、腕試しのような感覚で仕掛けてきていた節がある」

「ふ~ん、妙な印象を持つんだね。 実際に銃で撃たれた君が言うなら、そうなんだろうけどね」

「……」とレオは沈黙した。 

 たまにある。命の奪い合いでありながら、娯楽としての戦い。

 戦いの結果、相手が死ぬのは構わない。 けど、殺してやると殺意を振るって戦いの決着とするのは、何か違う。そう思う。

 もちろん他者には、その機微が通じないかもしれない。しかし、レオに取っては自分だけの規律が存在していた。

「襲われたら自衛のために相手を殺す。これは当然の権利だよね? どうして、そんな顔をするの?」

 アスリンは笑っていた。 笑いながら、

「さぁ、急ごう。私たちの目的はジェルだろ?」と促してきた。

 何か、おかしい。 レオたちは、奇妙な感覚に陥る。

 しかし、その正体にたどり着けず、先を急ぐのだった。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・


 だから、彼等は知らない。

 レオ達が立ち去った後、森に捨てられたケンタウロスの遺体が動き始めた事を――――

 そして、彼等の跡を追うように歩き始めた事を――――
 
      
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