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シオンの悪夢

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 シオンは眼を開く。

(体が重い。疲労からくる倦怠感……それもある。けど……毒? あるいは薬を打たれている?)

 そこまでだ。彼女はそれ以上を考えることができなかった。
 
 頭にモヤがかかったみたいに思考がまとまらない。 

(場所はわからない。どうやら室内……薄暗い。椅子に縛られている?)

「目を覚ましましたか?」と男がいつの間にか対面に立っていた。

「お前……そうか、私は負けたのかジェル?」

 ジェルが椅子に座る。 2人の間に頑丈そうな机があった。

(……? この机、さっきまであったか?)

 シオンは奇妙な違和感に囚われる。 しかし、違和感の正体まで掴めずにいた。

 だから、シオンは様子を窺う。

「それで?」

「……」とジェルは答えない。 

「私を捕縛してどうするつもりだ? 復讐でもしたいのか?」

「復讐」とジェルはシオンの言葉を繰り返した。 まるで言葉にする事で自分の考えを確かめるように見えた。

「復讐したいわけじゃない。ただ……そうだな。謝罪の言葉がほしい」

「ふん! 笑わせるな」とシオンは挑発した。 

「人を捕縛しておいて謝罪だと? お前こそ、こんな事をして許され――――え?」

 奇妙な音がした。 料理の時に聞こえる包丁の音。 

 シオンにはそう聞こえたのだが……

「ようやく気付きましたか?」

「なんだ……これ? これはなんだ!? 答えろ、ジェル・クロウ!!!」

 ジェルに促され、気づいた。 

 目前の机に奇妙な物があった。 

 それは指輪? 

 机を一体化した金属の指輪が10本……いつの間にか自分の指にハメられ固定化されていた。

 そして、その内の1つ……自分の指が刃物によって切断され――――

「うおぉ! き、貴様……ジェル・クロウ! わ、私の指に何を――――」

「五月蠅い」とジェルは無慈悲に手にした金属。 彫刻で使用する鑿《ノミ》のような物を振り落とした。

「や、止めろッ! 二本、私の指が……い、痛みがない? これは夢?」

「あぁ、痛くないだろ? 麻酔……指の神経を麻痺する薬を使っている。これで謝罪をしてくれるか?」

「こ、こんな事をしてどうなるか! わかっているのだろな!」

「わかってる。麻酔を使ったのは、痛みに逃げずに貴方の罪を意識してもらうためです」

「ふ、ふざけるなっ! よくも、よくもおぉぅぅぅ!」

「――――次は左手から切る指を決めます」

 ジェルは無表情で鑿を振り落とした。

 それから、こう続けたのだ。

「可哀想に……もう二度と剣が振るえなくなりましたね」

 まだ、シオンの悪夢は終わらない。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・

「それで今、どんな夢を見させてるの?」とシズク。

「さぁ? 流石に『妖刀ムラマサ』の精神汚染で見せる悪夢まで操作できないからね」

 そう答えるのはジェルだった。

 『妖刀 ムラマサ』 

 刃を見た者、刃に斬られた者の精神を錯乱に追い込む妖刀だ。

 意識がない者にも悪夢という形で効果が発動する。

「ただ……」とジェルは続ける。

「もしも、俺に対する罪悪感が多ければ多いほど、その悪夢は罪の意識が具現化したものになるでしょうね」

 
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