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ジェル対シオン 決着

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 「なん……だと!?」

 シオンは動けなかった。 

 振るった技は奥義。

 鍛錬に鍛錬を重ね、身に付けたのは距離を無視した斬撃。

 『斬撃翔』

 自国の剣聖を師事して、学び修めた技だったはず。しかし、ジェルが放った技は――――

『虚空斬撃翔』

(我が師である剣聖が使った『斬撃翔』の上位互換…… 技終わりの硬直時間を狙われて――――いや、わざと技を当てなかった?)

 混乱する。 

(あのジェルが? 私が憧れる剣聖を同じ技を使う? あり得ぬ!)

 シオンは瞬時に間合いを詰める。

 甲高くも鈍い金属音。 キンキンキンと鳴り響く。

 耳に残る嫌な音だ。  体に触れれば、いともたやすく命を摘み取る音。

 しかし、両者は命どころか体に刃を触れさせない。

 力量が拮抗している……わけではない。

「馬鹿な。私が遊ばれている……だと!?」

「……遊んでいるつもりはないよ」

「ここまで力量を見せておいて! 殺せ! 私を殺せ……殺す、殺す、殺す! その刀を渡せ!」

 異変。 明らかにシオンの様子が変わった。

 狂気を纏い、技も乱雑。しかし、膨大なる殺意が、彼女を弱体化させるではなく、むしろ強化させている。

「――――? あぁ、そうか」とジェルは納得した。

 彼女の攻撃を受ける自分の武器。 『妖刀 ムラマサ』が効果を発揮させているのだ。
 
 その効果とは――――

『刃を見た者を魅惑し、精神の錯乱を誘発させる』

「寄こせ! 寄こせ! その刀を寄こせ! 寄こさぬならば死ねッ!」

 シオンの表情は、人間を思えぬほど狂気に染まっている。

 歯をむき出しに、目も血走り、髪を乱れ振るわせる。

 手負いのオーガでも、ここまで高い攻撃性を見せるだろうか?

 しかし、「――――」とジェルは無言でシオンの猛攻をいなす。

「もしも……」

「?」

「もしも、貴方が狂気なんてものに心が揺さぶられなかったら、俺は負けていた」

 それはジェルの本心だった。 剣聖に成ったとはいえ、付け焼刃の技。

(貴方が普段通りに冷静だったら、短期決戦を選ばなかった。体力と集中力の削り合い……何より、振るい続けた剣から生み出される膂力は俺が敵うはずもなく――――)
  
 しかし、その想い。 狂気に染まったシオンに届く事もなかった。

 雑味を帯びた醜悪な剣を避けたジェル。 カウンターに選んだのは――――

『天魔六乱舞』

 高速の6連撃がシオンの体に叩き込まれた。

 その衝撃。 小柄なシオンの体が浮き上がるほど。

「流石……それでも立っているのか?」

 峰打ちとは言え、刀による打撃を高速で叩きつけた。

 もはや、意識はない……はず。 

 それでも倒れず、失神してもなお、剣を構え続けるシオン。

 ジェルは称賛せずにはいられなかった。
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