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魔道具 自動販売機

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 そして、物語は冒頭に戻った。

「まだ、生きているのか? 俺は……」

 ジェルは目を覚ます。 

「夢だったら、良かったのになぁ」

 彼は切断された腕を見る。 

 激しい疲労と怪我……生命力が失われているような感覚。

 痛みは麻痺している。 

「意外と頑丈な体だな、俺。まだ死なねぇでやんの」

 自虐的な呟き。誰に聞かせるわけでもなかった。

 だが、返事があった。

『力が欲しいか?』

「なッ――――!?」

驚きのあまり、剣を抜く。 

鞘から抜かれた愛剣。いつの間にか剣先は折れていた。 刃には、幾つもの刃こぼれ。

(だが、ないよりはマシだ……ふっ馬鹿だな。俺はまだ生きようとしている)

 しかし、相手からの返事は――――

『力が欲しいか? 対価を差し出せ、さらば与えん』

 言葉の主は姿を見せない。暗闇の奥から声だけ投げかけてくる。

(なんだコイツは? 神話の天使とか悪魔の部類か? だったら――――)

「上等だよ! 今の俺には、やれる対価は金ぐらいだ」

 ジェルは懐から金を取り出した。 最後にレオから渡された冥土の土産。

 その額は1年は遊んで暮らせる金だが、今更――――

「ほらよ!」と嫌な思い出を投げ捨てるように金を投げた。

 すると、意外な言葉が返ってくる。

『ご利用ありがとうございます。商品をお選びください』

「ん? 何を言っている?」

 拍子抜けするような返事。

 どういうことなのか? と訝しがるジェル。

 やがて、声がする方向。そこから薄青の光が零れ落ちていく。

「この光……古代魔道具《アーティファクト》か! なぜ、初心者向け迷宮に! それも未発見の物が!」

 古代魔道具。 

 今では失われた未知の技術が使われている魔道具だ。

 現在の魔法では再現不可能とされ、奇跡にも等しい効果を発揮する物もある。

「――――」と考え込むが、目の前の古代魔道具がどのような物か、見当もつかない。 だから――――

「お前に何ができる?」

 ジェルは素直に聞いた。 幸いにも、この古代魔道具には疑似人格が備わっていて、人間との会話が可能なようだ。

『おすすめは、こちらになります』

 薄青く光る部分。よく見れば古代文字が書かれているが……

「読めない」

 当然だ。古代文字なんて読める人間は限られた数しかいない。

『少々、お待ちください。現在の言語を分析。アップロードを開始します。残り時間3分……』

「……そうか。考えてみたらコイツ、古代魔道具のはずが現在の言葉を使っているからな」

 そう納得したジェルは3分を待つ。すると、表示されている文字に変化が起きる。

『おすすめはこちらになります。購入される場合は画面をクリックしてください』

「これは……完全回復? それも10Gで?」

 10G それは、安めの果実を1つ購入できる程度の金額。

 半信半疑でジェルは、画面で矢印の表示されている部分を触った。

「なんだ? 光が! 体を包んでいく。熱い……馬鹿な。切断されたはずの腕が……」

 それは文字通りの完全回復。 切断され、無くなったはずの腕すらも元通りになっていた。 

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