14 / 34
第14話 異能バトル『経験値1000倍の敵 ③
しおりを挟む
白い老人がいた。
白い服……いや、よく見れば薄汚れたボロの布を纏っている。
太陽を浴びたことがないように透き通った透明感のある皮膚。
白い髪と髭は腰まで伸びている。 それだけなら、人間と認識するだろう。
しかし、そのモンスターは四つん這いで身を低くしている。
「なるほど、薄暗く滑り易い下水道では、四足歩行が有利として進化したのか?」
このモンスター、ホムンクルスが持つスキル『経験値1000倍』の効果で、10日に満たない下水道での生活は、300年分の生活に値する。
もしも、人類が下水道で300年も生活して適応したのならば、こういう体勢が自然になるのかもしれない。
「アリッサ、さっきまでに下水に氷魔法を使用して、ホムンクルスを逃がさないように氷の壁を作れるか?」
「はい、可能です!」
「よし、それじゃ俺が合図を送ったら……」
「ホッホッ……無駄じゃよ」と声を出したのはホムンクルスだった。
「喋れるのか? 逃げ出した10日前までは意思の疎通も難しいと聞いていたが?」
「喋れますとも、長い時間を1人で過ごしましたからのう。人間の言葉を思い出して学習する時間はたくさんありましたとも」
「……」と俺は話すのを止めた。 どうやら、このモンスターが持つ知能は俺よりも上のようだ。
このまま、会話を続けたら、俺の深層心理まで読み取られる。そんな気がしたからだ。
「おやおや、黙りですかな? ワシを連れ戻したいのではないのですか? それとも……」
ホムンクルスが前に飛び出してきた。
その動きは速い。 他の四足獣を比較しても遅くはない。
俺は反射的に剣を抜いた。
「モンスターとは言え、丸腰を相手に剣を抜くのは抵抗があるが……お前、武器を持っているな?」
「ご名答! よく気づかれなさった」
金属音が下水道に響いた。
ホムンクルスの武器。その正体は風魔法による斬撃を自分の爪に集中させている。
まるで獅子や熊の爪のように……十分に人を殺せる威力と切れ味を秘めている。
鍔競り合いというべきだろうか? 相手は爪だ。
「けど、モンスター相手に力勝負をするのは初めてじゃない」
蹴り剥がすために前蹴りを放った。 その瞬間、肉体強化の魔法を使用する。
蹴った感触。それは、まるで柔軟性の高い生物を蹴ったような感覚。
「……猫か、何かから体術を学んだのか?」
ホムンクルスは、立ち上がっている。飄々とした表情からダメージがないのがわかる。
「ほう、これは肉体強化の魔法。初めて見ましたよ」
「おい、まさか……今の一撃で学習したったわけじゃないのよな?」
「さて、どうでしょうか?」
ホムンクルスの体内に魔力が流れていくのがわかる。 なぜなら、俺の魔法……『肉体強化』と同じだからだ。
「っ!? マジかよ。見ただけで俺の魔法を覚えやがった!」
「まぁ、3割くらいの再現度ですかね? あと1日でもあれば完全再現できます」
「コイツは、ここで倒さないと不味い。逃がすと数日で手がつけれなくなるぞ」
最初から、剣による刺突を狙う構え。対するホムンクルスは、どこか余裕のある笑みを浮かべて構える。
だから……
「頼むぞ、アリッサ!」
「はい! 『極寒氷結の弾丸』」
下水を凍らせて、ホムンクルスの背後に氷の壁を出現させる。
これで逃げ場はなくなる。 ホムンクルスは前に出る以外の選択肢はなし。
「まだ、まだまだ、だめ押しですよ!」とアリッサは、さらに魔力を込めた。
氷の壁。今度はホムンクルスの左右に出現する。
「これで逃げ場は完全に断たれたぞ。勝負だ!」
「愚かな……」
「なにっ!」
「このワシはホムンクルス。氷属性なんて基本魔法なんぞ、極めて久しいわ。ほれ!」
すでに駆け出していた俺の目前、今度はホムンクルスが放射したらしき氷の壁が出現した。
「なんの! この程度なら!」
俺の渾身の突き技は氷の壁を破壊した。 しかし、その先にいるはずのホムンクルスは消えていた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
その後、1日探索にかけてもホムンクルスの痕跡すら発見できずに俺たちは地上に戻った。
異臭が残る装備を衣服を簡単に洗い、着替えて冒険者ギルドに戻ってきた。
「おやおや、ユウキさんでも逃げられましたか。こりゃ捕まえる方法は、もう残っていませんね」
そういうハンニバルの飄々とした態度は、あのホムンクルスを思い出させた。
ペットは飼い主に似るなんて言葉はあるが、ホムンクルスも産みの親に似たのかもしれない。
後ろに立っているはずのアリッサから「イラっ! イラっ!」と幻聴が聴こえてくるほどにイラついているのがわかった。
まぁ、俺も平常心ではいられないのだが……
「ハンニバル、今回のあれはヤバイ。このまま1年でも放置していたら、何が起きるかわからない。もしかしたら、あの個体1体で下水道から町を滅ぼすかもしれない」
10日であの強さなのだ。 1ヶ月で1000年分の成長として、1年で10000歳以上。 寿命の10年が尽きるまで10万才の成長となる……計算あってる?
そもそも、10万才の生物ってなんだ? 生物の進化を1個体だけで完結させてやがるじゃねぇか!
もう想像もできないぞ!
「……というわけで対策を取る。アレを貸せ」
「あれ? なんの事です?」
「とぼけるなよ。どれだけホムンクルスが成長しても、簡単に捕獲できる手段を持っているから、そんなに慌ててないのだろ?」
「ほう!? そんな手段を私が持っていると! これは驚きですな。後学のために教えてくださいよ。ユウキさんは、私がどのような切り札を持っていると思っているのですか?」
「それは――――だ」
それが下水道に仕掛けられ、ハンニバルからホムンクルス捕獲成功の連絡が来たのは数ヵ月後の事だった。
ユウキは、撮影されていた映像を見た。
―――数ヵ月後―――
ホムンクルスは進化していた。 たった数ヶ月の時間は、数千年の時間に変化される。
それはもう、成長を早めるスキルの効果というよりも、因果律に関与する能力と言えた。
その知能は人間を凌駕しており、魔力に至っては上位種と言われるモンスターと比類することすら難しい。
そんな生物が誰に聞かせることなく呟く。
「そろそろ地上に出るか……」
その瞳には暗い炎が宿っている。 無限に等しい時間の中で芽生えた感情。
体感で数千年も地下が暮らす事になった理不尽さ。 そこから破壊衝動が生まれる。
膨大なる恨みの積み重ね。 そこに精神の均衡など、あろうはずもない。
「生きるものの全てを殺し、全てを破壊しなければならない」
ホムンクルスは怪物となり果てた。 破壊の権化――――
しかし、その時にホムンクルスは何かに触れた。
「これは……箱? どうしてこんな物が、ここに? 昨日までは確かになかった」
箱……ただの箱にしか見えない。 しかし、何者かが……例えば人が置いたのであれば人の匂いが残っているはず。
クンクンと鼻で嗅いでも人の匂いはない。 それは奇妙な事だ。
「人が運んできたのではないようだ。 では、まるで箱自身が歩いて、この場にやって来たとでも……そんな馬鹿な」
好奇心をくすぐられた。
数千年という時間。 とは言え、実際には数か月間だ。
地下には、変化というものが起こらない。 だから――――
「どれどれ」とホムンクルスは箱を開けた。 箱を開いてしまったのだ。
その直後、箱の中に潜む者からの攻撃が開始された。
「なっ! 何が――――」とそれ以上、声を出す事が困難となる。
見えない何かに摑まれたような感覚に襲われる。 それは巨大な手によって、全身が掴まれたようであり、 抗いきれない未知のエネルギーのようなものを感じる。
(未知のエネルギー? いや、違う。これは知っているぞ! 知っているとも!)
ホムンクルスが自身の身に起きた事は理解したのは、遅くはなかった。
(自分を襲っている攻撃。その正体は――――スキルだ。 スキルによる攻撃。それだけはわかる。わかるが……)
だが、そのスキルが発動すれば、全てが手遅れとなる。
スキルの名前は――――『収集空間《アイテムボックス》』
箱の中にいるモンスター ミミックのスキルであり、それが発動すれば抗う術はない。
だから、どれだけホムンクルスが暴れ、どれだけ魔力を放出しても――――
最後には、箱の中へと収集されていった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「ユウキさんのアドバイスで捕獲することができましたよ。ご覧になられます? 下水道で何千年と生活して進化した生物のなれの果てを?」
「いや、結構だ。とんでもない怪物になっているのだろ?」
「なんだ、残念ですね。しかし、よく思い付きましたね。あのミミックを数ヵ所に設置しておくなんて作戦を」
例のミミック――――特殊なスキル『収集空間《アイテムボックス》』を持ったミミックの事だ。
本来の『収集空間』では人間やモンスターなどの生物は入れることができない。
しかし、それらはミミックに取っては生物ではなく食料なのだ。 生きた人間やモンスターは食料……だから、『収集空間』に保存できる。
何千年と生き、叡知の集合体となったホムンクルスだろうと、ミミックのスキルによって閉じ込められる。 そこに例外はない。
「よく言うぜ。いざとなったら、自分で言い出すつもりだったのだろう?」
「はっはっは……どうですかね? 私には考えつきませんでしたから、あのミミックを制御する方法なんて」
スキル『収集空間』は、当たり前だがミミックの任意で発動する。
だから、人間がミミックの入った箱を運搬することは困難だ。 触れるだけで収集されてしまう可能性がある。
ならどうする?
ミミックの『収集空間』の発動条件に当てはまらない物で、箱を包めばいい。
では、それは何か――――
「――――まさか、ミミックの生体から布を作るアイディなんて、私は考えた事なんてありませんね。さすがユウキさん」
『収集空間』はミミックが食べ物や道具と認識した物を内部に入れるスキル。
『では、仲間であるミミックを素材として作った道具には適応されないのではないか?』
それが、ユウキとハンニバルがミミックを制御する事ができた理由である。
「……それで、約束は守ってくれるんだろうな?」
「約束? 何の事でしたかね?」とハンニバルはとぼけた。
「お前なぁ……」
「冗談ですよ、ユウキさん。 スキルの実験データを公表する事。これからの実験は公的機関の協力を得て、安全が保障できた時のみ行う事……などなど。はぁ、面倒くさいですね」
「その面倒な分、冒険者ギルドが資金援助を含めた支援が入るんだ。諦めろよ」
「はいはい、でもね……ここだけの話。私と似たような実験をしてる者がいるらしいですよ。それも――――魔族側にね」
「――――ッ!?」と俺は絶句することしかできなかった。
「どうやら、これからも長い付き合いになりそうですね。今後ともよろしく……と言うやつです」
白い服……いや、よく見れば薄汚れたボロの布を纏っている。
太陽を浴びたことがないように透き通った透明感のある皮膚。
白い髪と髭は腰まで伸びている。 それだけなら、人間と認識するだろう。
しかし、そのモンスターは四つん這いで身を低くしている。
「なるほど、薄暗く滑り易い下水道では、四足歩行が有利として進化したのか?」
このモンスター、ホムンクルスが持つスキル『経験値1000倍』の効果で、10日に満たない下水道での生活は、300年分の生活に値する。
もしも、人類が下水道で300年も生活して適応したのならば、こういう体勢が自然になるのかもしれない。
「アリッサ、さっきまでに下水に氷魔法を使用して、ホムンクルスを逃がさないように氷の壁を作れるか?」
「はい、可能です!」
「よし、それじゃ俺が合図を送ったら……」
「ホッホッ……無駄じゃよ」と声を出したのはホムンクルスだった。
「喋れるのか? 逃げ出した10日前までは意思の疎通も難しいと聞いていたが?」
「喋れますとも、長い時間を1人で過ごしましたからのう。人間の言葉を思い出して学習する時間はたくさんありましたとも」
「……」と俺は話すのを止めた。 どうやら、このモンスターが持つ知能は俺よりも上のようだ。
このまま、会話を続けたら、俺の深層心理まで読み取られる。そんな気がしたからだ。
「おやおや、黙りですかな? ワシを連れ戻したいのではないのですか? それとも……」
ホムンクルスが前に飛び出してきた。
その動きは速い。 他の四足獣を比較しても遅くはない。
俺は反射的に剣を抜いた。
「モンスターとは言え、丸腰を相手に剣を抜くのは抵抗があるが……お前、武器を持っているな?」
「ご名答! よく気づかれなさった」
金属音が下水道に響いた。
ホムンクルスの武器。その正体は風魔法による斬撃を自分の爪に集中させている。
まるで獅子や熊の爪のように……十分に人を殺せる威力と切れ味を秘めている。
鍔競り合いというべきだろうか? 相手は爪だ。
「けど、モンスター相手に力勝負をするのは初めてじゃない」
蹴り剥がすために前蹴りを放った。 その瞬間、肉体強化の魔法を使用する。
蹴った感触。それは、まるで柔軟性の高い生物を蹴ったような感覚。
「……猫か、何かから体術を学んだのか?」
ホムンクルスは、立ち上がっている。飄々とした表情からダメージがないのがわかる。
「ほう、これは肉体強化の魔法。初めて見ましたよ」
「おい、まさか……今の一撃で学習したったわけじゃないのよな?」
「さて、どうでしょうか?」
ホムンクルスの体内に魔力が流れていくのがわかる。 なぜなら、俺の魔法……『肉体強化』と同じだからだ。
「っ!? マジかよ。見ただけで俺の魔法を覚えやがった!」
「まぁ、3割くらいの再現度ですかね? あと1日でもあれば完全再現できます」
「コイツは、ここで倒さないと不味い。逃がすと数日で手がつけれなくなるぞ」
最初から、剣による刺突を狙う構え。対するホムンクルスは、どこか余裕のある笑みを浮かべて構える。
だから……
「頼むぞ、アリッサ!」
「はい! 『極寒氷結の弾丸』」
下水を凍らせて、ホムンクルスの背後に氷の壁を出現させる。
これで逃げ場はなくなる。 ホムンクルスは前に出る以外の選択肢はなし。
「まだ、まだまだ、だめ押しですよ!」とアリッサは、さらに魔力を込めた。
氷の壁。今度はホムンクルスの左右に出現する。
「これで逃げ場は完全に断たれたぞ。勝負だ!」
「愚かな……」
「なにっ!」
「このワシはホムンクルス。氷属性なんて基本魔法なんぞ、極めて久しいわ。ほれ!」
すでに駆け出していた俺の目前、今度はホムンクルスが放射したらしき氷の壁が出現した。
「なんの! この程度なら!」
俺の渾身の突き技は氷の壁を破壊した。 しかし、その先にいるはずのホムンクルスは消えていた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
その後、1日探索にかけてもホムンクルスの痕跡すら発見できずに俺たちは地上に戻った。
異臭が残る装備を衣服を簡単に洗い、着替えて冒険者ギルドに戻ってきた。
「おやおや、ユウキさんでも逃げられましたか。こりゃ捕まえる方法は、もう残っていませんね」
そういうハンニバルの飄々とした態度は、あのホムンクルスを思い出させた。
ペットは飼い主に似るなんて言葉はあるが、ホムンクルスも産みの親に似たのかもしれない。
後ろに立っているはずのアリッサから「イラっ! イラっ!」と幻聴が聴こえてくるほどにイラついているのがわかった。
まぁ、俺も平常心ではいられないのだが……
「ハンニバル、今回のあれはヤバイ。このまま1年でも放置していたら、何が起きるかわからない。もしかしたら、あの個体1体で下水道から町を滅ぼすかもしれない」
10日であの強さなのだ。 1ヶ月で1000年分の成長として、1年で10000歳以上。 寿命の10年が尽きるまで10万才の成長となる……計算あってる?
そもそも、10万才の生物ってなんだ? 生物の進化を1個体だけで完結させてやがるじゃねぇか!
もう想像もできないぞ!
「……というわけで対策を取る。アレを貸せ」
「あれ? なんの事です?」
「とぼけるなよ。どれだけホムンクルスが成長しても、簡単に捕獲できる手段を持っているから、そんなに慌ててないのだろ?」
「ほう!? そんな手段を私が持っていると! これは驚きですな。後学のために教えてくださいよ。ユウキさんは、私がどのような切り札を持っていると思っているのですか?」
「それは――――だ」
それが下水道に仕掛けられ、ハンニバルからホムンクルス捕獲成功の連絡が来たのは数ヵ月後の事だった。
ユウキは、撮影されていた映像を見た。
―――数ヵ月後―――
ホムンクルスは進化していた。 たった数ヶ月の時間は、数千年の時間に変化される。
それはもう、成長を早めるスキルの効果というよりも、因果律に関与する能力と言えた。
その知能は人間を凌駕しており、魔力に至っては上位種と言われるモンスターと比類することすら難しい。
そんな生物が誰に聞かせることなく呟く。
「そろそろ地上に出るか……」
その瞳には暗い炎が宿っている。 無限に等しい時間の中で芽生えた感情。
体感で数千年も地下が暮らす事になった理不尽さ。 そこから破壊衝動が生まれる。
膨大なる恨みの積み重ね。 そこに精神の均衡など、あろうはずもない。
「生きるものの全てを殺し、全てを破壊しなければならない」
ホムンクルスは怪物となり果てた。 破壊の権化――――
しかし、その時にホムンクルスは何かに触れた。
「これは……箱? どうしてこんな物が、ここに? 昨日までは確かになかった」
箱……ただの箱にしか見えない。 しかし、何者かが……例えば人が置いたのであれば人の匂いが残っているはず。
クンクンと鼻で嗅いでも人の匂いはない。 それは奇妙な事だ。
「人が運んできたのではないようだ。 では、まるで箱自身が歩いて、この場にやって来たとでも……そんな馬鹿な」
好奇心をくすぐられた。
数千年という時間。 とは言え、実際には数か月間だ。
地下には、変化というものが起こらない。 だから――――
「どれどれ」とホムンクルスは箱を開けた。 箱を開いてしまったのだ。
その直後、箱の中に潜む者からの攻撃が開始された。
「なっ! 何が――――」とそれ以上、声を出す事が困難となる。
見えない何かに摑まれたような感覚に襲われる。 それは巨大な手によって、全身が掴まれたようであり、 抗いきれない未知のエネルギーのようなものを感じる。
(未知のエネルギー? いや、違う。これは知っているぞ! 知っているとも!)
ホムンクルスが自身の身に起きた事は理解したのは、遅くはなかった。
(自分を襲っている攻撃。その正体は――――スキルだ。 スキルによる攻撃。それだけはわかる。わかるが……)
だが、そのスキルが発動すれば、全てが手遅れとなる。
スキルの名前は――――『収集空間《アイテムボックス》』
箱の中にいるモンスター ミミックのスキルであり、それが発動すれば抗う術はない。
だから、どれだけホムンクルスが暴れ、どれだけ魔力を放出しても――――
最後には、箱の中へと収集されていった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「ユウキさんのアドバイスで捕獲することができましたよ。ご覧になられます? 下水道で何千年と生活して進化した生物のなれの果てを?」
「いや、結構だ。とんでもない怪物になっているのだろ?」
「なんだ、残念ですね。しかし、よく思い付きましたね。あのミミックを数ヵ所に設置しておくなんて作戦を」
例のミミック――――特殊なスキル『収集空間《アイテムボックス》』を持ったミミックの事だ。
本来の『収集空間』では人間やモンスターなどの生物は入れることができない。
しかし、それらはミミックに取っては生物ではなく食料なのだ。 生きた人間やモンスターは食料……だから、『収集空間』に保存できる。
何千年と生き、叡知の集合体となったホムンクルスだろうと、ミミックのスキルによって閉じ込められる。 そこに例外はない。
「よく言うぜ。いざとなったら、自分で言い出すつもりだったのだろう?」
「はっはっは……どうですかね? 私には考えつきませんでしたから、あのミミックを制御する方法なんて」
スキル『収集空間』は、当たり前だがミミックの任意で発動する。
だから、人間がミミックの入った箱を運搬することは困難だ。 触れるだけで収集されてしまう可能性がある。
ならどうする?
ミミックの『収集空間』の発動条件に当てはまらない物で、箱を包めばいい。
では、それは何か――――
「――――まさか、ミミックの生体から布を作るアイディなんて、私は考えた事なんてありませんね。さすがユウキさん」
『収集空間』はミミックが食べ物や道具と認識した物を内部に入れるスキル。
『では、仲間であるミミックを素材として作った道具には適応されないのではないか?』
それが、ユウキとハンニバルがミミックを制御する事ができた理由である。
「……それで、約束は守ってくれるんだろうな?」
「約束? 何の事でしたかね?」とハンニバルはとぼけた。
「お前なぁ……」
「冗談ですよ、ユウキさん。 スキルの実験データを公表する事。これからの実験は公的機関の協力を得て、安全が保障できた時のみ行う事……などなど。はぁ、面倒くさいですね」
「その面倒な分、冒険者ギルドが資金援助を含めた支援が入るんだ。諦めろよ」
「はいはい、でもね……ここだけの話。私と似たような実験をしてる者がいるらしいですよ。それも――――魔族側にね」
「――――ッ!?」と俺は絶句することしかできなかった。
「どうやら、これからも長い付き合いになりそうですね。今後ともよろしく……と言うやつです」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
社畜だけど転移先の異世界で【ジョブ設定スキル】を駆使して世界滅亡の危機に立ち向かう ~【最強ハーレム】を築くまで、俺は止まらねぇからよぉ!~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
俺は社畜だ。
ふと気が付くと見知らぬ場所に立っていた。
諸々の情報を整理するに、ここはどうやら異世界のようである。
『ジョブ設定』や『ミッション』という概念があるあたり、俺がかつてやり込んだ『ソード&マジック・クロニクル』というVRMMOに酷似したシステムを持つ異世界のようだ。
俺に初期スキルとして与えられた『ジョブ設定』は、相当に便利そうだ。
このスキルを使えば可愛い女の子たちを強化することができる。
俺だけの最強ハーレムパーティを築くことも夢ではない。
え?
ああ、『ミッション』の件?
何か『30年後の世界滅亡を回避せよ』とか書いてあるな。
まだまだ先のことだし、実感が湧かない。
ハーレム作戦のついでに、ほどほどに取り組んでいくよ。
……むっ!?
あれは……。
馬車がゴブリンの群れに追われている。
さっそく助けてやることにしよう。
美少女が乗っている気配も感じるしな!
俺を止めようとしてもムダだぜ?
最強ハーレムを築くまで、俺は止まらねぇからよぉ!
※主人公陣営に死者や離反者は出ません。
※主人公の精神的挫折はありません。
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
猫とゴミ屋敷の魔女 ~愛猫が実は異世界の聖獣だった。猫と下僕(飼い主)が異世界転移~
瀬崎由美
ファンタジー
猫好きによる飼い猫と下僕のお話。満月の夜、部屋に現れた光の塊に勢い余って頭から突っ込んでしまう女子高生の葉月。ふと目を開けると見知らぬ森の中。どうやら愛猫と一緒に異世界に転移してしまったようだ。翼が生えて聖獣に戻った飼い猫は最強すぎるけど相変わらず可愛く、そしてなぜか訳知り顔で森の中を歩いていく。猫について行った先で出会った森の魔女ベルは超ずぼら。身なりは全く気にしないし、館は荒れ狂いゴミ屋敷状態……虫が入るからと結界を蚊帳代わりに使う始末。聖獣の魔力を浴びて育ったおかげで葉月にも一応は魔力があるらしいのだが、全く使いこなせないから魔女の館に住み込みで弟子入りすることにしたが、まずはゴミを片付けよう。
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
【完結】女神の使徒に選ばれた私の自由気ままな異世界旅行とのんびりスローライフ
あろえ
ファンタジー
鳥に乗って空を飛べるなんて、まるで夢みたい――。
菓子店で働く天宮胡桃(あまみやくるみ)は、父親が異世界に勇者召喚され、エルフと再婚したことを聞かされた。
まさか自分の父親に妄想癖があったなんて……と思っているのも束の間、突然、目の前に再婚者の女性と義妹が現れる。
そのエルフを象徴する尖った耳と転移魔法を見て、アニメや漫画が大好きな胡桃は、興奮が止まらない。
「私も異世界に行けるの?」
「……行きたいなら、別にいいけど」
「じゃあ、異世界にピクニックへ行こう!」
半ば強引に異世界に訪れた胡桃は、義妹の案内で王都を巡り、魔法使いの服を着たり、独特な食材に出会ったり、精霊鳥と遊んだりして、異世界旅行を満喫する。
そして、綺麗な花々が咲く湖の近くでお弁当を食べていたところ、小さな妖精が飛んできて――?
これは日本と異世界を行き来して、二つの世界で旅行とスローライフを満喫する胡桃の物語である。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる