38 / 42
人魚との競争
しおりを挟む
人魚《マーメイド》は伝説の存在である。
魔物なのか? それとも亜人なのか?
専門家でもわからない。
魔法と魔物を研究する専門家――――その最高峰である宮廷魔法使い ミゲール・コットであってもわからない。
要研究対象。 獣の紋章を使い、人魚の力を再現することに成功したミゲールであっても、実物であり本物。
生きている人魚と競争するのは、初めてのこと。
その感想は――――
(やっぱり、速い! 海の王者――――ここ何百年も人によって捕獲された歴史すら残ってない幻の存在。だから、私は捕まえて見せる!)
ミゲールは加速した。
(水中戦。必ずとも、苦手じゃない――――とは言え)
海という舞台。水圧をかき分けて泳ぐ。
人魚に変身したミゲールではあったが、ここは初めて泳ぐ場所。
予想外に急激な水流。 水面下で隠れた障害物。
おそらく、ここで生きて来た人魚と競争するにはあまりにも不利。
(だけど、なめるな。世界最強の魔法使いってのは伊達じゃないだぜ!)
人魚は振り向いた。 そして驚く。
真後ろに追跡する者を確認したから。
相手は人間だったはず。しかし、その人物は、同胞の姿に変身している。
(確かに人間だったはず……しかし、今の姿……仲間なのか?)
人魚は警戒しながらも、その可能性を考えた。
しかし、わからない。 そういう者――――捕獲対処に変身して襲う生物は珍しくない。
だから、彼女はこう思う――――
(逃げねば……全力で!)
背後から接近する人魚《ミゲール》。それは同胞の泳ぎとは明らかに違っていることに人魚は気づく。
空気の震動である音。それを阻害する水面でありながら、轟音が伝わる。
(周囲に音をまき散らすなんて……どんな泳ぎ?)
その印象を言うならば破壊的……そう、破壊的な泳ぎだった。
再び、距離を確認するために振り向く彼女は、再び驚愕した。
「追いついてたぜ」
聞こえぬはずの声がする。背後にはミゲール。
人魚は最大の加速に集中する。泳ぐことに特化したはずの肉体。
それでも振り切れぬ未知の存在。 この日、初めて――――人魚は恐怖を感じた。
(振り切れない。なんで? こいつ? 同胞じゃないくせに!)
この時、自分を追いかける存在が人魚ではないことを彼女は察していた。
(同胞ではない。コイツは――――怪物だ!)
そして彼女には勝算があった。 ここからは複雑な水流や障害物がなくなる。
純粋な直線。 純粋なスピード勝負。
ならば――――
(なら、私が――――人魚が負けるだけない!)
彼女が超加速を見せる。十分すぎる勝算を確信して――――しかし、背後にはミゲール。
なぜ? なぜ、彼女がついてこれているのか? それは単純にして、世界の真理と言える回答がある。
単純に彼女の肉体が強いからだ。
世界最強の魔法使い。彼女は肉体も世界最強であり、単純に泳ぎも速い。
例え、人魚に変身などしなくても泳ぎは速い。それが泳ぎに特化した人魚の肉体に変身しているのだ。 泳ぎが遅いはずもない。
純粋な人魚ですら凌駕するほどの速度を有していても、不思議はない。
「残念だったな、人魚! 楽しい楽しい水中鬼ごっこも、ここで閉幕だ。大人しく、私の実験対象になりな!」
ミゲールの手が伸びる。 伸ばした先には人魚の尻尾が――――
空振り。彼女の伸ばした手が宙を切る。
人魚はフェイントをかけての急旋回。 ミゲールの猛攻を躱した。
(うまい! だが、まだ――――)
そこでミゲールの体に異変が起きる。 彼女の体から急激に水圧が軽減される。
知らない海。激しい水流内のデッドヒート。
その結果、方向感覚が乱れる。
(空! 空気!? 水が下に? 偶然……いや、こうなるように誘導されたか!)
ミゲールは勢いよく水面から飛びだした。 空中に飛び出したことで、強制的に減速させられる。
水面に戻るまでの滞空時間が煩わしい。1秒……2秒……3秒……
いや、数秒の体感時間だが、実際には数秒も経過していない刹那の時間。
「チッ! それでも――――」と忌々しく、ミゲールは悪態をつく。
彼女が水面に戻った時には、人魚の姿は消えていた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「嫌だ! 私は、ここに住む!」
まるで子供のように、駄々をこねるミゲール。
人魚と遭遇してから、すでに数日が経過している。
アリスたちが釣りをしている間、ミゲールは人魚の探索に時間を費やしていたが、成果はなかった。
「ここに住んで、人魚を生け捕りにするんだい!」
「先生、もう十分な釣果は達成しました。早く新しい食材を持ち帰って調理しないとヨルマガさんも困ってしまいますよ」
未知の食材の調達。ミゲールが請けた依頼は、それまでの護衛がメインだ。
現時点で新大陸での護衛は完了となる。
「むむむ……」とそれでも、嫌がるミゲールだったが、
「また、来ましょうよ。今度は長期滞在で人魚捕獲を目標にして」
アリスの説得もあって、ようやくミゲールは重い腰を上げた。
魔物なのか? それとも亜人なのか?
専門家でもわからない。
魔法と魔物を研究する専門家――――その最高峰である宮廷魔法使い ミゲール・コットであってもわからない。
要研究対象。 獣の紋章を使い、人魚の力を再現することに成功したミゲールであっても、実物であり本物。
生きている人魚と競争するのは、初めてのこと。
その感想は――――
(やっぱり、速い! 海の王者――――ここ何百年も人によって捕獲された歴史すら残ってない幻の存在。だから、私は捕まえて見せる!)
ミゲールは加速した。
(水中戦。必ずとも、苦手じゃない――――とは言え)
海という舞台。水圧をかき分けて泳ぐ。
人魚に変身したミゲールではあったが、ここは初めて泳ぐ場所。
予想外に急激な水流。 水面下で隠れた障害物。
おそらく、ここで生きて来た人魚と競争するにはあまりにも不利。
(だけど、なめるな。世界最強の魔法使いってのは伊達じゃないだぜ!)
人魚は振り向いた。 そして驚く。
真後ろに追跡する者を確認したから。
相手は人間だったはず。しかし、その人物は、同胞の姿に変身している。
(確かに人間だったはず……しかし、今の姿……仲間なのか?)
人魚は警戒しながらも、その可能性を考えた。
しかし、わからない。 そういう者――――捕獲対処に変身して襲う生物は珍しくない。
だから、彼女はこう思う――――
(逃げねば……全力で!)
背後から接近する人魚《ミゲール》。それは同胞の泳ぎとは明らかに違っていることに人魚は気づく。
空気の震動である音。それを阻害する水面でありながら、轟音が伝わる。
(周囲に音をまき散らすなんて……どんな泳ぎ?)
その印象を言うならば破壊的……そう、破壊的な泳ぎだった。
再び、距離を確認するために振り向く彼女は、再び驚愕した。
「追いついてたぜ」
聞こえぬはずの声がする。背後にはミゲール。
人魚は最大の加速に集中する。泳ぐことに特化したはずの肉体。
それでも振り切れぬ未知の存在。 この日、初めて――――人魚は恐怖を感じた。
(振り切れない。なんで? こいつ? 同胞じゃないくせに!)
この時、自分を追いかける存在が人魚ではないことを彼女は察していた。
(同胞ではない。コイツは――――怪物だ!)
そして彼女には勝算があった。 ここからは複雑な水流や障害物がなくなる。
純粋な直線。 純粋なスピード勝負。
ならば――――
(なら、私が――――人魚が負けるだけない!)
彼女が超加速を見せる。十分すぎる勝算を確信して――――しかし、背後にはミゲール。
なぜ? なぜ、彼女がついてこれているのか? それは単純にして、世界の真理と言える回答がある。
単純に彼女の肉体が強いからだ。
世界最強の魔法使い。彼女は肉体も世界最強であり、単純に泳ぎも速い。
例え、人魚に変身などしなくても泳ぎは速い。それが泳ぎに特化した人魚の肉体に変身しているのだ。 泳ぎが遅いはずもない。
純粋な人魚ですら凌駕するほどの速度を有していても、不思議はない。
「残念だったな、人魚! 楽しい楽しい水中鬼ごっこも、ここで閉幕だ。大人しく、私の実験対象になりな!」
ミゲールの手が伸びる。 伸ばした先には人魚の尻尾が――――
空振り。彼女の伸ばした手が宙を切る。
人魚はフェイントをかけての急旋回。 ミゲールの猛攻を躱した。
(うまい! だが、まだ――――)
そこでミゲールの体に異変が起きる。 彼女の体から急激に水圧が軽減される。
知らない海。激しい水流内のデッドヒート。
その結果、方向感覚が乱れる。
(空! 空気!? 水が下に? 偶然……いや、こうなるように誘導されたか!)
ミゲールは勢いよく水面から飛びだした。 空中に飛び出したことで、強制的に減速させられる。
水面に戻るまでの滞空時間が煩わしい。1秒……2秒……3秒……
いや、数秒の体感時間だが、実際には数秒も経過していない刹那の時間。
「チッ! それでも――――」と忌々しく、ミゲールは悪態をつく。
彼女が水面に戻った時には、人魚の姿は消えていた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「嫌だ! 私は、ここに住む!」
まるで子供のように、駄々をこねるミゲール。
人魚と遭遇してから、すでに数日が経過している。
アリスたちが釣りをしている間、ミゲールは人魚の探索に時間を費やしていたが、成果はなかった。
「ここに住んで、人魚を生け捕りにするんだい!」
「先生、もう十分な釣果は達成しました。早く新しい食材を持ち帰って調理しないとヨルマガさんも困ってしまいますよ」
未知の食材の調達。ミゲールが請けた依頼は、それまでの護衛がメインだ。
現時点で新大陸での護衛は完了となる。
「むむむ……」とそれでも、嫌がるミゲールだったが、
「また、来ましょうよ。今度は長期滞在で人魚捕獲を目標にして」
アリスの説得もあって、ようやくミゲールは重い腰を上げた。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
【完結】夫は王太子妃の愛人
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。
しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。
これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。
案の定、初夜すら屋敷に戻らず、
3ヶ月以上も放置されーー。
そんな時に、驚きの手紙が届いた。
ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。
ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
結城芙由奈
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので
結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる