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第27話 ミゲール先生と3体の悪魔

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 ソイツは出現した。 ――――いや、ソイツ等と言うべきだろう。

 ミゲールの誤算。それは、この場所の主《ボス》が1匹ではなかったこと……。

 それともう1つ。

「ちっ! コイツはレアな主だぜ。悪霊とか、邪霊とか、そういう厄介な魔物じゃない――――コイツの、コイツ等の正体は悪魔だ」

 悪魔《デーモン》。 それも3匹の悪魔だ。

 ヤギの頭部を持つ二足歩行の生物。 見上げるほどの巨体。

 腕は4本に、背中には羽。

 足は偶蹄類のソレ――――シカやヤギのような脚でありながら二足歩行だ。

 何より、厄介なのは4本の腕に武器を有している。

 投擲用の槍。投擲用の鉄球。

 それがミゲールとアリスの前に出現した主の正体。加えて――――

「悪魔が3体……何百年も潜んでいたのか? それとも、きっかけがあって召喚されたのか? とにかく、アリス――――心を強く持て。誘惑されるぞ!」

 悪魔を見た者は狂うと言われている。それは――――

『誘惑』 

 その恐怖を植え付けさせる姿で、心の隙を突いてくる。 

 催眠術や幻覚……それらを利用した洗脳。

 彼等が使う魔法『誘惑』の正体がそれだ。

「だ、大丈夫です……」とアリスは気丈にも返事をした。

 彼女の瞳を覗き込み、目に力が宿っていることをミゲールは確認した。

 その間、3匹の悪魔たちは――――音楽と舞踏を楽しんでいた。

 投擲用の槍と鉄球で地面を叩き、音楽を生み出す。自分たちが奏でるリズムに合わせて踊りを舞っている。

「あれは?」とアリス。 

 まだ、悪魔たちが自分たちを敵と見なしていないからか? 彼女にも余裕があった。

「戦いの前に、自分たちを鼓舞しているだ。私の分野じゃないから交感神経とか、副交感神経とか知らねぇけど、闘争に相応しい精神へ音楽を利用して調節しているだ」

 それからミゲールはアリスへ指示を送る。

「アリス、お前は結界で防御に徹しろ。できたら、新しい聖の紋章を発動して支援を頼んだ」

 ぶっつけ本番の作戦に「ちょ!」と抗議の声を出したアリスだったが、もう遅い。

 悪魔たちは音楽を止めて、アリスたちを視線で射抜いた。

「めぇえええええええええええええ!」

 その咆哮はヤギの鳴き声を連想させるには、あまりにも威圧的で、地面を振るわせるほどの重低音。

 その内、持っていた投擲用に槍をアリスに向かって放つ。

 反射的に彼女は、結界魔法による防御を開始。 ミゲールの拳だって簡単には貫けない硬度を誇る。

 しかし、濃厚な殺意が込められた一撃。その恐怖は、実戦でしかあり得ない。

「――――ッ!」と思考が止まったアリス。それを庇うようにミゲールが前方に飛び出した。

 敵として認識した悪魔たちがミゲールを取り囲むように動く。

(どう見ても陣形だな……。やはり、ただの魔物にしては頭が良い。これが本物の悪魔ってやつか)

 悪魔がミゲールに対して武器に選んだのは槍ではない――――鉄球だ。

 剛速球。

 人間ではあり得ない巨体から繰り出される投球。正確なコントロールと攻撃速度は、直撃すれば人間の頭部など容易に砕き捨てるだろう。

「当たればな!」

 地面を転がって回避するミゲール。 しかし、背後に周り込んだ他の悪魔が飛来していた鉄球を片手で掴む。

 空中で、それも不安定な体勢で投擲。 ミゲールに投げつけて来る。

「――――くっ! なにをコイツ等、スポーツ感覚で楽しんでやがる!」

 地属性の魔法によって防御壁を即座に構成。鉄球を弾いた。

 しかし――――――

「メエエェェェェェェ! ダメェェェェェ!」

 明らかに異常反応の咆哮を3体の悪魔たちは、同時に叫ぶ。

「どうやら、お前等にとってルール違反を犯したみたいだな……知るかよ!」

 素早く魔法発動。 3体のうち2体を土壁で四方を囲み隔離。

 魔力の込められた壁。中で暴れているようだが簡単には破壊できない。

 残った1体。 飛びかかるように打撃を放つも――――

(っ! コイツ等、デカいくせに反射神経が良い)

 悪魔の複数の手には槍。

 それを飛び掛かって来るミゲールを追撃するように突き出してくる。

 槍を空中に掴み、手刀で斬り落としていく。

(1本目! 2本! 3本……くッ! 鉄球が!)

 悪魔が手に持つ槍を全て破壊してみせたミゲールだったが、4つ目の武器――――鉄球。

(直線的な槍とは違う動き! しかも、攻撃は単純。鉄球を手にしたままでの打撃だと!)

 瞬間的には対処ができずに直撃。 骨が砕ける音と同時にミゲールの体は地面に叩きつけられた。

「先生!」とアリスは叫ぶ。 防御を忘れて駆け寄ろうとするも――――

「大丈夫だ」と短い返事。

 代わりに――――

「め、めえぇぇぇぇ……」と悪魔から弱い声。見れば、ミゲールを殴ったはずの鉄球持ちの腕。 それがあり得ない方向に折り曲げられていた。

「わざと殴られて、腕が伸び切った瞬間に足を巻き付かせて、叩き折ってやったぜ! どうだい? 人類で初めて悪魔の腕に関節技を極めてみたぞ」

「人類初か、どうかは置いといて無茶はしないでください!」

「そんな事より、どうだい? まだ発動してないみてぇだけど、聖属性の魔法はやれそうか?」

「まだ、うまく発動はできません。けど……」

「けど?」とミゲールは笑みを浮かべる。次のアリスの言葉が分かっているからだ。

「やり方はわかりました」 

    
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