27 / 42
第27話 ミゲール先生と3体の悪魔
しおりを挟む
ソイツは出現した。 ――――いや、ソイツ等と言うべきだろう。
ミゲールの誤算。それは、この場所の主《ボス》が1匹ではなかったこと……。
それともう1つ。
「ちっ! コイツはレアな主だぜ。悪霊とか、邪霊とか、そういう厄介な魔物じゃない――――コイツの、コイツ等の正体は悪魔だ」
悪魔《デーモン》。 それも3匹の悪魔だ。
ヤギの頭部を持つ二足歩行の生物。 見上げるほどの巨体。
腕は4本に、背中には羽。
足は偶蹄類のソレ――――シカやヤギのような脚でありながら二足歩行だ。
何より、厄介なのは4本の腕に武器を有している。
投擲用の槍。投擲用の鉄球。
それがミゲールとアリスの前に出現した主の正体。加えて――――
「悪魔が3体……何百年も潜んでいたのか? それとも、きっかけがあって召喚されたのか? とにかく、アリス――――心を強く持て。誘惑されるぞ!」
悪魔を見た者は狂うと言われている。それは――――
『誘惑』
その恐怖を植え付けさせる姿で、心の隙を突いてくる。
催眠術や幻覚……それらを利用した洗脳。
彼等が使う魔法『誘惑』の正体がそれだ。
「だ、大丈夫です……」とアリスは気丈にも返事をした。
彼女の瞳を覗き込み、目に力が宿っていることをミゲールは確認した。
その間、3匹の悪魔たちは――――音楽と舞踏を楽しんでいた。
投擲用の槍と鉄球で地面を叩き、音楽を生み出す。自分たちが奏でるリズムに合わせて踊りを舞っている。
「あれは?」とアリス。
まだ、悪魔たちが自分たちを敵と見なしていないからか? 彼女にも余裕があった。
「戦いの前に、自分たちを鼓舞しているだ。私の分野じゃないから交感神経とか、副交感神経とか知らねぇけど、闘争に相応しい精神へ音楽を利用して調節しているだ」
それからミゲールはアリスへ指示を送る。
「アリス、お前は結界で防御に徹しろ。できたら、新しい聖の紋章を発動して支援を頼んだ」
ぶっつけ本番の作戦に「ちょ!」と抗議の声を出したアリスだったが、もう遅い。
悪魔たちは音楽を止めて、アリスたちを視線で射抜いた。
「めぇえええええええええええええ!」
その咆哮はヤギの鳴き声を連想させるには、あまりにも威圧的で、地面を振るわせるほどの重低音。
その内、持っていた投擲用に槍をアリスに向かって放つ。
反射的に彼女は、結界魔法による防御を開始。 ミゲールの拳だって簡単には貫けない硬度を誇る。
しかし、濃厚な殺意が込められた一撃。その恐怖は、実戦でしかあり得ない。
「――――ッ!」と思考が止まったアリス。それを庇うようにミゲールが前方に飛び出した。
敵として認識した悪魔たちがミゲールを取り囲むように動く。
(どう見ても陣形だな……。やはり、ただの魔物にしては頭が良い。これが本物の悪魔ってやつか)
悪魔がミゲールに対して武器に選んだのは槍ではない――――鉄球だ。
剛速球。
人間ではあり得ない巨体から繰り出される投球。正確なコントロールと攻撃速度は、直撃すれば人間の頭部など容易に砕き捨てるだろう。
「当たればな!」
地面を転がって回避するミゲール。 しかし、背後に周り込んだ他の悪魔が飛来していた鉄球を片手で掴む。
空中で、それも不安定な体勢で投擲。 ミゲールに投げつけて来る。
「――――くっ! なにをコイツ等、スポーツ感覚で楽しんでやがる!」
地属性の魔法によって防御壁を即座に構成。鉄球を弾いた。
しかし――――――
「メエエェェェェェェ! ダメェェェェェ!」
明らかに異常反応の咆哮を3体の悪魔たちは、同時に叫ぶ。
「どうやら、お前等にとってルール違反を犯したみたいだな……知るかよ!」
素早く魔法発動。 3体のうち2体を土壁で四方を囲み隔離。
魔力の込められた壁。中で暴れているようだが簡単には破壊できない。
残った1体。 飛びかかるように打撃を放つも――――
(っ! コイツ等、デカいくせに反射神経が良い)
悪魔の複数の手には槍。
それを飛び掛かって来るミゲールを追撃するように突き出してくる。
槍を空中に掴み、手刀で斬り落としていく。
(1本目! 2本! 3本……くッ! 鉄球が!)
悪魔が手に持つ槍を全て破壊してみせたミゲールだったが、4つ目の武器――――鉄球。
(直線的な槍とは違う動き! しかも、攻撃は単純。鉄球を手にしたままでの打撃だと!)
瞬間的には対処ができずに直撃。 骨が砕ける音と同時にミゲールの体は地面に叩きつけられた。
「先生!」とアリスは叫ぶ。 防御を忘れて駆け寄ろうとするも――――
「大丈夫だ」と短い返事。
代わりに――――
「め、めえぇぇぇぇ……」と悪魔から弱い声。見れば、ミゲールを殴ったはずの鉄球持ちの腕。 それがあり得ない方向に折り曲げられていた。
「わざと殴られて、腕が伸び切った瞬間に足を巻き付かせて、叩き折ってやったぜ! どうだい? 人類で初めて悪魔の腕に関節技を極めてみたぞ」
「人類初か、どうかは置いといて無茶はしないでください!」
「そんな事より、どうだい? まだ発動してないみてぇだけど、聖属性の魔法はやれそうか?」
「まだ、うまく発動はできません。けど……」
「けど?」とミゲールは笑みを浮かべる。次のアリスの言葉が分かっているからだ。
「やり方はわかりました」
ミゲールの誤算。それは、この場所の主《ボス》が1匹ではなかったこと……。
それともう1つ。
「ちっ! コイツはレアな主だぜ。悪霊とか、邪霊とか、そういう厄介な魔物じゃない――――コイツの、コイツ等の正体は悪魔だ」
悪魔《デーモン》。 それも3匹の悪魔だ。
ヤギの頭部を持つ二足歩行の生物。 見上げるほどの巨体。
腕は4本に、背中には羽。
足は偶蹄類のソレ――――シカやヤギのような脚でありながら二足歩行だ。
何より、厄介なのは4本の腕に武器を有している。
投擲用の槍。投擲用の鉄球。
それがミゲールとアリスの前に出現した主の正体。加えて――――
「悪魔が3体……何百年も潜んでいたのか? それとも、きっかけがあって召喚されたのか? とにかく、アリス――――心を強く持て。誘惑されるぞ!」
悪魔を見た者は狂うと言われている。それは――――
『誘惑』
その恐怖を植え付けさせる姿で、心の隙を突いてくる。
催眠術や幻覚……それらを利用した洗脳。
彼等が使う魔法『誘惑』の正体がそれだ。
「だ、大丈夫です……」とアリスは気丈にも返事をした。
彼女の瞳を覗き込み、目に力が宿っていることをミゲールは確認した。
その間、3匹の悪魔たちは――――音楽と舞踏を楽しんでいた。
投擲用の槍と鉄球で地面を叩き、音楽を生み出す。自分たちが奏でるリズムに合わせて踊りを舞っている。
「あれは?」とアリス。
まだ、悪魔たちが自分たちを敵と見なしていないからか? 彼女にも余裕があった。
「戦いの前に、自分たちを鼓舞しているだ。私の分野じゃないから交感神経とか、副交感神経とか知らねぇけど、闘争に相応しい精神へ音楽を利用して調節しているだ」
それからミゲールはアリスへ指示を送る。
「アリス、お前は結界で防御に徹しろ。できたら、新しい聖の紋章を発動して支援を頼んだ」
ぶっつけ本番の作戦に「ちょ!」と抗議の声を出したアリスだったが、もう遅い。
悪魔たちは音楽を止めて、アリスたちを視線で射抜いた。
「めぇえええええええええええええ!」
その咆哮はヤギの鳴き声を連想させるには、あまりにも威圧的で、地面を振るわせるほどの重低音。
その内、持っていた投擲用に槍をアリスに向かって放つ。
反射的に彼女は、結界魔法による防御を開始。 ミゲールの拳だって簡単には貫けない硬度を誇る。
しかし、濃厚な殺意が込められた一撃。その恐怖は、実戦でしかあり得ない。
「――――ッ!」と思考が止まったアリス。それを庇うようにミゲールが前方に飛び出した。
敵として認識した悪魔たちがミゲールを取り囲むように動く。
(どう見ても陣形だな……。やはり、ただの魔物にしては頭が良い。これが本物の悪魔ってやつか)
悪魔がミゲールに対して武器に選んだのは槍ではない――――鉄球だ。
剛速球。
人間ではあり得ない巨体から繰り出される投球。正確なコントロールと攻撃速度は、直撃すれば人間の頭部など容易に砕き捨てるだろう。
「当たればな!」
地面を転がって回避するミゲール。 しかし、背後に周り込んだ他の悪魔が飛来していた鉄球を片手で掴む。
空中で、それも不安定な体勢で投擲。 ミゲールに投げつけて来る。
「――――くっ! なにをコイツ等、スポーツ感覚で楽しんでやがる!」
地属性の魔法によって防御壁を即座に構成。鉄球を弾いた。
しかし――――――
「メエエェェェェェェ! ダメェェェェェ!」
明らかに異常反応の咆哮を3体の悪魔たちは、同時に叫ぶ。
「どうやら、お前等にとってルール違反を犯したみたいだな……知るかよ!」
素早く魔法発動。 3体のうち2体を土壁で四方を囲み隔離。
魔力の込められた壁。中で暴れているようだが簡単には破壊できない。
残った1体。 飛びかかるように打撃を放つも――――
(っ! コイツ等、デカいくせに反射神経が良い)
悪魔の複数の手には槍。
それを飛び掛かって来るミゲールを追撃するように突き出してくる。
槍を空中に掴み、手刀で斬り落としていく。
(1本目! 2本! 3本……くッ! 鉄球が!)
悪魔が手に持つ槍を全て破壊してみせたミゲールだったが、4つ目の武器――――鉄球。
(直線的な槍とは違う動き! しかも、攻撃は単純。鉄球を手にしたままでの打撃だと!)
瞬間的には対処ができずに直撃。 骨が砕ける音と同時にミゲールの体は地面に叩きつけられた。
「先生!」とアリスは叫ぶ。 防御を忘れて駆け寄ろうとするも――――
「大丈夫だ」と短い返事。
代わりに――――
「め、めえぇぇぇぇ……」と悪魔から弱い声。見れば、ミゲールを殴ったはずの鉄球持ちの腕。 それがあり得ない方向に折り曲げられていた。
「わざと殴られて、腕が伸び切った瞬間に足を巻き付かせて、叩き折ってやったぜ! どうだい? 人類で初めて悪魔の腕に関節技を極めてみたぞ」
「人類初か、どうかは置いといて無茶はしないでください!」
「そんな事より、どうだい? まだ発動してないみてぇだけど、聖属性の魔法はやれそうか?」
「まだ、うまく発動はできません。けど……」
「けど?」とミゲールは笑みを浮かべる。次のアリスの言葉が分かっているからだ。
「やり方はわかりました」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
結城芙由奈
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので
結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる