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第12話 ミゲール先生の変身魔法

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「どうだい? 可愛くてエロいだろう? 子猫ちゃんだぞ」

 獣人化――――それも獰猛な猫科を連想させる。無防備に近づく者を無慈悲に噛み殺す。そんな危険なイメージを……

「最初から種明かしをすると獣人化以外にも、いろいろと変身できるわけなんだけど、こいつに変身すると精神が高ぶって、少しだけ攻撃的になるんだぜ?」

 その圧力。 これが『世界最強の魔法使い』と言われる人物の変身魔法。

 アリスは思わず、後ろに下がりそうになるが、踏みとどまった。

(この魔法は、私の全力。他ならないモズリー先生が教えてくれたもの。先生が止めないってことは、私の防御がミゲール先生に通用するってこと!)

 それは奇跡のような光景だ。 まだ10歳にも満たない少女が、世界最強を前に一歩も引かない。

 魔導を研究する者が、この光景を見れば、どれほど驚愕するだろうか?

 しかし――――

「……」とミゲールは動かない。

 様子見をしてるわけでもないようだが、不気味なほどに微動だにしない。

 あまりにも動かないのでアリスの方が痺れを切らす。

「あの……攻撃するのでは?」

「いや、私がお前の防御壁を見た時、『ダメだ』って言った意味がわかるか?」

「えっと……いえ、すいません。わかりません」

「お前の防御魔法は出力が多き過ぎる。それを長時間維持できるわけがない」

「――――ッ!(まさか、そんな考えがあるなんて!)」とアリスは驚いた。

「わかったみたいだな。実戦の防御魔法の使いどころってのは常時使用するわけにはいかない。攻撃魔法みたいに一瞬で魔力を込めた1撃を放つのとは、魔力消費がわけが違う」

「……」

「わかったみたいだな。私はお前に攻撃しない。する必要がないからな……待ってれば、数分で全部の魔力が消費されて――――あれ? 待てよお前……全然、魔力が消費されてなくないか?」

「申し訳ないのですが……このくらいの結界魔法なら3日は維持できるので」

「……はぁ?」と今度はミゲールが驚く順番だった。 

「3日! 3日も結界魔法を使用したまま、生活できるってか? それって、もう家じゃねぇか! おい、モズリー! お前、弟子にどういう教育してるんだ?」

「どう……と言われましてもね」とモズリーは答える。

「マクレイガー公爵の頼みは、攻撃魔法を教えない代わりに身を守る魔法を徹底的に教えて欲しいという話でしたので……自然と防御魔法の練習が長時間になってしまったのです」

「長い時間練習したからって、スタミナの怪物に育ってしまってるじゃねぇか!」

「……と言う事は、合格でいいですか? ミゲール先生!」とアリスは喜んだ。

「仕方がねぇ。魔法使いに二言はない。ちょうど荷物運びや移動手段に便利な風属性の弟子が欲しかったってのもあるからな」

 そう言いながら、ミゲールは変身魔法を解除した。 

 獣人に変身したことで元の服装は破れて、あられもない姿になったが本人は気にしていない……それどころか自慢するように体を見せつけている節すらあった。

「けど、こっちは曲りなりに『世界最強の魔法使い』って看板を背負っている身だ。もう少しだけ、ミゲール・コットの強い部分を新弟子に見せつけとかないといけないだろ?」

 そう言うと、まだ防御魔法を展開し続けているアリスの前に立った。

「まだ、その魔法を解除するなよ。こういう相手に私がどうするのか、見せつけてやるよ!」

 そう言うと彼女は身を低くして、握った拳を構えた。  
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