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第2章

第109話『憤怒』のインファと『傲慢』のルオン

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「愚かな、この戦いに兵を動かすつもりか」

  インファは呆れたように言う。ドラゴンに変化した彼は状況を確認する。

 ルオン王子の後ろには、30人の兵士……さらに後ろにはモンド王3000人が控えている。

 ここは町の中、それも城下町だ。そんな場所でドラゴンと兵士の戦闘が起ころうとしているのだ。

「黙れ! 邪悪なるなるドラゴンめ!」とルオン王子は演技じみた声を張り上げた。

「白々しい。王族でありながら道化となるか」

「行け!    我が精鋭どもよ! 竜殺しの名誉を手に入れるがよい 」

 その声を受けて、彼の配下が1人飛び出した。その者は甲冑を身に付け、片手に剣を持ち、馬に乗ったままだ。

 甲冑により顔は隠れていてる。どんな表情か? どんな思いか? 読み解けない。

 まさか、本気でドラゴンと一騎討ちを望むつもりなのだろうか?

  「やはり愚かか、この戦いに兵を投入しても無意味だぞ」

 インファは悪態と唾を吐き捨てるかのようにドラゴンの顎から火炎を吐き出した。

 飛び出した騎士は、ドラゴンの火炎に包まれた。

 それは、まるで勇者の冒険譚の一幕のようであった。 ならば?

 もしもこれが勇者の冒険譚であるというなら…… ドラゴンに挑む勇者は無事であるはず。

「なんだと?」と驚きの声を上げたのはインファだった。

 鋼鉄の甲冑なんぞ容易に溶かしてみせるドラゴンの業火。 それをものともせず、騎士は炎から飛び出してきた。

 あまつさえ、インファの目前まで飛び上がり、構えた剣を突き立ててくる。

 (ありえない。俺の炎を受けて無傷だと? しかも、この跳躍力……何かしているルオン王子。それとも、これが貴様の魔導書の能力か?)

 一瞬の思考と一瞬の攻防。
  
 騎士の刺突を首を捻り回避。 まさか、避けられると夢にも思っていなかったのだろう騎士は驚きの声を出した。

「バカな。その巨体でありながら、なんという素早さ。ぐっああああああ……」

 必中を確信していたであろう騎士の一撃。避けられた子とで死に体を晒すことになる。

 無防備となった体にドラゴンの牙が突き刺さる。その光景は強者の捕食を思わせる。

 だが、インファは吐き出した。 地面に衝突した騎士は無事には済まない。

 しかし、なんとか立ち上がろうとしている。戦闘不能ではない。

(魔導書の力もあるだろう。しかし、恐るべしは装備にかけた財力だな。配下全員に竜殺しの魔剣。防具もドラゴンを素材とした鎧か?)

 インファはそう分析した。加えて……

(おそらく、『傲慢』の能力は操作系ではないだろう。むしろ、強化系だ。何か複雑な条件を成立させる事で自身と対象の他者を同時に強化させている)

 インファ、彼の考察は正しかった。 

 『傲慢』 ルオン王子の能力。 それは指定した30人を強化する能力。

 そして、30人が強くなればなるほど、魔導書使いであるルオン王子も強化されていく。

「だったら、まずは1人目を喰わせてもらうぜ!」

 最初に挑んできた1人目。今は立ち上がり、剣先をインファに向けている。

(味方が多ければ、多いほど強化される能力なら今が最強。あとは弱くなる一方じゃねぇか!)

 顎を開いたインファ。今度こそ、防具ごと噛み砕こうと襲い掛かって行く。

「だが、そうはさせない」と叫ぶ騎士————いや、その声はルオン王子の声だった。

(入れ替わった? そういう能力か? 力を削がれる事を嫌がり、本体が前に出るのは悪手と言わざる得ないぞ!)

 牙を見せる。このまま、ルオン王子を飲み込むつもりなのだろう。

 一方のルオン王子は、何かを取り出して構えた。 

(おそらくは武器。魔法使いが使うような杖に似てるが魔力はない。そんなもので俺が――――)

 その瞬間、インファは異臭を嗅ぎ取った。 

 それは火薬の匂い。ルオン王子が構える武器————マスケット銃。

 頑丈な龍の鱗に覆われたインファの体。 だが、口内から続く喉……体内は、無敵と言い切れるほどの頑丈さは有していない。

「喰らうのはお前の方だったな。龍殺しの魔剣を溶かして作った弾丸。味合うがいい!」

 爆発のような衝撃と轟音。 それはインファの体内で起こった。

 だが、一撃では終わらない。 ルオン王子の配下30人も同じ銃を取り出し、一斉に射撃を開始した。
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