上 下
8 / 118

第8話 凶悪なるトレントの正体

しおりを挟む

「こ、これが100年伝わる凶悪なるトレントの正体じゃと!?」

 元冒険者の老人、ハリスが依頼を受けた冒険者たちを連れてきた。

 しかし、老人たちの目前には、雷魔法で体が焦げた巨大ワニと、氷魔法で氷漬けされた樹木系の魔物があった。

「しかし、こんな形状のトレントは見たことがない。どういう種類なんじゃ?」

「それは――――」とトレント討伐の疲労によって座り込んでいたユウトが説明する。

「ある国では、冬は虫で夏には草になる生物がいると聞いています。
 冬虫夏草と言って……種明かしをすると、単純に虫にキノコが取りついただけなのですが……」

 ユウトは「スープにすると美味しいらしい」とお道化てみせる。

「このトレントも同じ……巨大なワニに憑りついた樹木系魔物だと言うのか? とても信じられんわ」

「おそらく、凶悪なるトレントと言われていた理由も想像がつきます。 実は皆さんが到着する前に付近の川を調べてみました」

「うむ……もし本当にワニに取りついていたのなら、川の下流から上流に上がってきたとなる」

「しかし、なぜじゃ?」とハリス老人は疑問符を浮かべる。

「ここらの川は、巨大ワニが上って来るには細く浅いはず」

「えぇ、コイツ等が狂暴化していた理由もそれです。 コイツは、どうしても山を登らなければいけない理由があったのです」

「理由? コイツがここに出現する理由。山を――――そして100年の――――」

「気づいたようですね。きっと、コイツ等は100年に一度、山に登って植物の戻ってくる。繁殖のためにね」 

「――――」とハリスはユウトの説明を聞いて言葉を失う。

「た、確かに普通の魔物なら、産卵の時期に狂暴化するのは珍しくないじゃろう。しかし、植物系の魔物も同じなんて話など聞いた事もないわ」

「コイツ等の種は、山から川に落ちて海へ――――そこで巨大な魔物を狙って取りつく。そして、100年後に山に戻り――――寄生した魔物を殺して植物に戻って種をばら撒く。コイツ等、そうやって進化してきたのでしょね」

「すまないが……」とユウトに話しかけてきたのは、ハリスの依頼を受けた冒険者たちの1人。 どうやら、魔法使いであり、冒険者たちの頭目のようだ。

「私も長い年月をかけて魔物の研究をしていた自負がある。しかし、私でも、そのようような魔物は聞いた事がありません。つまり――――この魔物は新種となるはずです」

 今もまだ、世界には未知の魔物が存在している。 奴らは、人を襲い、殺す事が本能に刷り込まれている……そう言われている。

 だから――――

「この新種は、早く冒険者ギルドへ報告して正式な調査をして貰うべきでしょう。さすれば、あなたに膨大な名誉が与えられ、名前は後世にまで長く――――」

「すまないが、その名誉は貴方にお譲りしますよ」

「何を!」と魔法使いの男はユウトの言葉に驚かされた。

「正式なトレント討伐依頼を受けたのは貴方たちです。俺は、貴方たちの獲物を横取りしただけ――――それで名誉なんて恐れ多い」

「いえ、そのような事は……」と躊躇している魔法使い。 ならばと依頼主であるハリスに話しを振る。すると老人は――――

「ほ、本当に、この魔物は新種なのか? 名前が残るほどに凄いことなのか?」

「どうやら、そのようですね」とユウトの言葉に老人は興奮を隠せなくなった。

「どうじゃ! 見たかワシを、言い伝えを信じなった愚か者どもめ! これで、村は! 村には若者が戻って来るぞ!」

 その様子に魔法使いは、引いていた。 その理由は――――

「あ、あなた、まさか……信憑性がないのに、魔物の被害を確認していないのに、魔物の討伐依頼を冒険者ギルドにしたのか!?  ギルドへの虚偽報告は重罪になる可能性もありますよ?」

「それがどうした? 本当にいたじゃろ? それも、誰も見たことのない新種じゃろ? 結果が良ければ、全て良かろうなのじゃよ!」

 呆れたような魔法使いにユウトは思い出したかのように言う。

「さすがに新種のトレントは、素材として採取するのできないだろうが、こっちの巨大ワニの方は違うだろ? どの箇所を冒険者ギルドに持って行ったら高値で引き取って貰えるか、わかりますか?」

「え? あぁ……そうですね」と魔法使いは、少し考えて答えた。

「ワニが革が高く取引されると聞いていますが……この様子では」

「確かに、表面は黒焦げだ。だったら、口内の牙はどうだろ? 俺の鎧を貫く強度だった。武器に加工できるんじゃないかな?」

 ユウトの鎧。それも真新しい鎧に幾つかの穴が空いている事に気づいた魔法使いは――――

「では、鎧が修理できる金額で売買できればいいですね」と言ってから「お気の毒さま」と付け加えてくれた。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「……さて、急ぐか」

 新種のトレントと戦った翌日。 ユウトの朝は普段から早いが、今日が特別に早かった。

 まだ、夜明けには遠い時間帯。深夜とも言える。

 暗闇はランプで照らして、ユウトは駆け出した。

 「流石に人はいないか? でも急がないと」

 目的地に到着した彼。 その場所は――――まさにトレントと戦った山。 

 巨大ワニも、トレントも、既に冒険者ギルドの手によって運ばれいる。

 しかし、日が上れば調査団が、新種の魔物について大がかりな調査を始めるだろう。

 それよりも早く―――― 

 ユウトは、昨日の戦いの直後。トレントの正体を掴むため、付近の川などを探索していた。

 その時に、とんでもないものを発見していたのだ。

 それはおそらく、新種の魔物発見という名誉を辞退しても、余りある成果の可能性があるもの――――

 それとは、巧妙に隠されたダンジョン。 その様子から、長らく人類が未踏だったと思えるダンジョンだった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

処理中です...