へいこう日誌

神山小夜

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第35話 閉校式(後編)

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 私達は祝賀会の会場である温泉施設に着いた。
 ふーのお父さんに連れられ、控室に入った。
 すると、食事が用意されていた。
 さすが温泉施設!
 とても豪華な料理だ。

「お父さん! これ食べて良いの!?」

 ふーが自分の父親に聞いていた。

「いいよー。でも時間ある?」
「あ……。着替えの時間しかない……。終わったら食べよーっと」

 あと三十分で祝賀会が始まる。
 会の初めに太鼓演奏をやらなければならない。
 食べている暇もなければ、今食べ物を胃に入れてしまうと、演奏中に吐いてしまうリスクがある。
 私達は急いで太鼓の衣装に着替えた。
 着替え終わったところで私はみんなに声をかけた。

「みんな準備オッケイ?」
「いいよー」
「んじゃー、打ち合わせするよー」

 私達は輪になって打ち合わせを始めた。
 私は指揮をとった。

「まず、ステージに入ったら太鼓の位置調整。準備ができたら役員の人に合図出すから、そしたら幕が上がる。私が挨拶をしたら、いつもみたいに二曲演奏する。曲順はいつも通り、祭ばやし、天龍太鼓の順ね。ここまではオッケイ?」
「うん!」
「最後は太鼓の前に一列になって大きな声でありがとうございましたって言って終わる。そしたら、幕が降りるから。その後は、太鼓を片付けるのを手伝って、終わったら、またこの控室に戻ってきて、このご馳走を食べる! 以上、全体的な流れを言ったけど、質問ある人いる?」
「大丈夫!」
「ないでーす」
「オッケイ!」
「じゃー、移動開始!」

 私達はステージに向かった。
 ステージ上に着くと、父兄や役員の人達が太鼓のセッティングをしてくれていた。

「ありがとうございます!」

 お礼を言って私達は準備を始めた。

「立ち位置オッケイ?」
「はーい」
「夏希さーん」

 明日香が話し掛けてきた。

「なにー?」
「円陣組みませんか?」
「円陣?」
「はい、円陣。とりあえず、区切りの一つと気合い入れを込めて」
「いいねー! よし! 集合!」

 私達は円陣を組んだ。

「よし! では、演奏成功を込めて……。ファイトー……」
「オォー!!!」

 ステージ袖では、私達が円陣を組んでいるところを見ていた大人達が拍手をしてくれていた。

「準備できました。お願いします!」

 私は役員の人に声を掛けた。
 そして、幕が上がった。
 幕が上がるとそこには、たくさんの人達が拍手を送ってくれていた。

「今日は、姫乃森中学校と沢山の方々に感謝の気持を込めて精一杯演奏します。どうぞお聞き下さい!」

 すると、客席から、

「がんばれー!」
「待ってましたー!」

 と、多くの声が聞こえてきた。
 感極まったが、気持ちを引き締めて太鼓の枠を叩き、合図を出した。合図に合わせて全員バチを掲げて構えた。
 そして、祭ばやし、天龍太鼓を叩き切った。
 全ての力を出しきり、みんな息切れが半端なかった。
 盛大な拍手を貰うと、すごく清々しい。
 全員整列し、客席に「ありがとうございました」と言い、深くお辞儀をした。
 すると、

「アンコール! アンコール! アンコール!」

 と、客席からアンコールの大合唱が始まった。

「えっ……。マジ? みんな叩ける?」

 私はみんなの様子を伺った。

「正直、きついっす」
「オレもー」

 靖朗と淳は特大太鼓を叩いていたため、発汗が凄い。

「でも、私達の太鼓聞くのが、最後って人も多いだろうし……」

 明日香ときらりは口を揃えて言った。

「千秋とふーは?」
「やっちゃお!」
「うん、千秋と同感! せっかくアンコール貰ってるんだし。応えなきゃ!」

 私も千秋とふーの答えに同感した。
 しかし、かなりの体力を使う特大太鼓を叩いていた靖朗と淳のことが心配だ。

「靖朗と淳、何なら叩ける?」
「どっちもきつい……。だけど選曲するなら天龍太鼓じゃないっすか?」

 靖朗は汗を拭きながら言った。

「そうだな……。天龍太鼓は中学生の持ち曲だし。お前、特大叩けるか?」

 淳は靖朗の心配をしながら言った。

「そうだねー。天龍太鼓の特大は靖郎が叩くことになるもんなー。大丈夫? いける?」
「やりましょー!」

 さすが、二年生の中で一番体力にある靖郎だ!

「よし! んじゃー、天龍太鼓の立ち位置になってー! 呼吸が落ち着いたら始めるよー!」
「ねぇ、なっつ。ちょっと時間稼いでよ」

 千秋が無茶ぶりをしてきた。

「どうやって!?」
「みんな、バテて、すぐに叩ける感じじゃないし……。なっつ、部長挨拶してちょ。黙ってるのもあれだし……。あと、アンコールのお礼も言わなきゃ……」
「そうだなー。マイク貰ってくるわ」

 私は役員の人に事情を話してマイクを貰った。
 選曲の相談をしていた時間もあって、少し呼吸が落ち着いてきた。
 私はゆっくりと話し始めた。

「あー……。えーっと。アンコールありがとうございます。みんなと話し合った結果、アンコール曲は中学生のために作られ、先輩方が叩き継いできた伝統でもある曲、天龍太鼓を演奏させていただきたいと思います。なので、最後はこの曲で締めたいと思います。では、お聞き下さい」

 振り返ると、みんな呼吸は落ち着いていており、「ナイス時間稼ぎ!」と言わんばかりの笑みとグットサインをしていた。
 そして、天龍太鼓を叩き、私達は力を使い果たしたのであった。
 幕が下がると、川村先生と内藤先生が太鼓を片付けるために来てくれた。
 川村先生が、なんか泣きそうな顔をしている。

「お前らぁ~。もうハラハラしたよー! ちゃんと会場に来れたのかとか、自分達でちゃんと準備できているかとか……。よかった、よかったぁ~」

 川村先生は泣きながら言う。

「なんで泣いてるんですか?」

 私は、川村先生に聞いた。

「だって、円陣もしてたでしょ? 聞こえてたよ。もう、円陣組んでるの聞こえて、お前らの仲間の絆にオレ……オレぇ~……」

 やべー。
 ガチ泣きしておる……。
 内藤先生が川村先生にスッとハンカチを手渡してた。
 川村先生はハンカチを受け取り、ゴシゴシと顔を拭いた。

「はいはい、川村先生。早くステージから太鼓下ろして下さい。チャッチャとやってー」

 千秋は太鼓を抱え、川村先生のことを押しながら言った。
 太鼓をケースに入れてトラックに積み、ようやく片付けを終わらせた。

「よっしゃー! 飯だぁー!」
「飯ー! 早く着替えようぜー!」

 靖朗と淳は控室に走って行った。

「私達も行こうか」
「そうだね」

 私達も男子を追って、控室に向かった。
 すると、淳が

「ちょっと! 飯、片付けられてる!」

 と言って、控室から飛び出してきた。

「なにー!」

 それを聞いたきらりと明日香が走り出し、控室へ入って行った。

「三年生! 大変です! スッカラカンになってます!」

 きらりが青ざめた顔で言ってきた。
 控室を覗くと、あんなにあったご馳走が一つも残らず片付けられ、テーブルしか残っていない状態であった。

「めし~! めし~! オレたちのめしぃ~」

 靖朗と淳が駄々をこねていた。
 私達女子は呆然としていた。
 そこへ、ふーのお父さんがやってきた。

「あれ? ちゃんと伝えたはずなのに片付けられている……」

 温泉側のミスだったようだ。
 私達は制服に着替えて、今後のことについて話し合った。

「とりあえず、子供達は帰って良いらしいけど……」

 ふーのお父さんは頭をかきながら言う。

「うーん。青年部、太鼓叩くんですよね? 私、見たいなー」

 私が言うと千秋が

「うちも見たい! 兄ちゃん太鼓叩くし!」

 と、言ってきた。
 みんなも見たいと声を上げていた。

「分かった。んじゃー、太鼓見たら帰ることにするか。ついてきて。」

 私達は、ふーのお父さんの後をついて行き、会場に入った。

「みんなはここのテーブル席に座って見てね」

 私達は隅のテーブル席に案内されて、席に着いた。
 みんながお腹を空かせてヘトヘトになっている様子を見て、わたしはふーのお父さんに相談する。

「あと、一ついいですか?」
「どうした? なっちゃん」
「みんな、お腹減ってて限界なんですけど……」
「だよなー。何か準備できるか聞いてくるよー」
「すみません」

 しかし、期待ハズレであった。

「ごめん。ジュースしか貰ってこれなかった」
「えぇー!!!」

 一同唖然した。

「しょうがないか……」

 そう言って、みんなでジュースを分け合って飲んだ。

「ひもじいー、ひもじいー、ひもじいー」

 明日香と靖朗、淳はテーブルに顎を着いて喋っていた。

「あっ! わかった! ちょっとまってて!」

 突然、明日香が席を立った。

「待って! オレも行く!」

 靖朗と淳も席を立ち、三人で大人達のテーブルへと走って行ってしまった。

「なんだあいつら。きらりは行かないの?」

 私はきらりに聞いた。

「私は黙ってます」

 きらりは私の隣の席でジュースを飲んでいた。

「少しでも……ガリボリ……。何かしら……ガリボリ……。つまんでいれば良かったなー、ガリボリ……」

 話し声とともに硬いものを噛み砕いている音が聞こえる。
 ふーの方を見ると、何か口をもぐもぐと動かしている。
 私は気になって、ふーに聞いた。

「ねー、ふー。何食べてんの?」
「氷」
「は?」
「水に入ってる氷。美味しいよー。なっつも食べる?」
「いや……いいや」

 どんだけひもじいいんだ、こいつ。

「ふー、行儀悪いよ」

 呆れながら千秋がツッコんで言った。
 すると、明日香と靖朗、淳が戻ってきた。

「みんなー! ガリ貰ってきたー! ガリ!」

 食料調達に行っていたらしい。

「ガリかよッ!」

 きらりがそう言うと、

「ガリも立派な食べ物だ! 文句言わずに食え!」

 明日香が威張って言ってきた。
 氷よりはマシか。
 明日香達が貰ってきたガリをみんなで食べていると、

「あれ? お前ら来てたのか」

 と、声が聞こえた。
 千秋の兄とその同級生達だった。

「あ、兄ちゃん」
「なんでガリなんて食べてんの?」
「ご飯食べてないから」

 千秋がぶっきらぼうに応えた。

「えぇー! そうなの? ちょっと待ってて!」

 先輩達が急いでどこかへ行ってしまった。
 まもなくすると、オードブルとお寿司のセットと箸、紙皿を持ってきた。

「これ食べなー」
「え? 良いんですか?」

 思わず私はびっくりして言った。
 食事がガリから豪華なご馳走にレベルアップした瞬間であった。

「当たり前じゃん!」
「ありがとうございます!」

 まさに救世主! 
 ありがたくみんなでいただいた。
 お腹が空いていたせいか、ものすごく美味しく感じた。

「千秋、お前ガリだけな」

 バシッ!

「みんな、遠慮せず全部食べて良いからー。またねー」

 先輩の一人が千秋の兄を叩き、襟元を掴みながら連れて行ってしまった。

「バカ兄貴!」

 千秋は文句を言いながら食べていた。
 しばらくすると青年部の太鼓演奏が始まった。
 やっぱり、先輩達が叩く太鼓は迫力がある。
 叩き初めの一発目でバチを折ってしまった人もいた。
 姫乃森から学校が無くなってしまっても、青年部が太鼓を引き継いでいくことだろう。

「お、良かったじゃん。御飯食べれて。演奏終わったし、帰ろうか」

 ふーのお父さんが声を掛けてきた。

「はーい」

 私達は荷物を持ち、会場に来た時と同様、二年生は淳のお父さんの車に、三年生はふーのお父さんの車に乗って帰った。

「あ、みんな。二十八日の歓送迎会、中学校の図書室に十二時三十分に集合ねー」
「はーい」
「半纏と帯、ちゃんと洗濯してアイロンかけてきてねー」
「はーい」

 私達はふーのお父さんから連絡事項を言われた。

「次が本当に最後かぁー」

 私が呟くと、それを聞いた千秋が

「だねー。寂しいね」

 と言ってきた。
 最後の最後まで、私達はやらなければならないことがある。
 姫乃森中学校の生徒として……。
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