へいこう日誌

神山小夜

文字の大きさ
上 下
26 / 39

第26話 最後の生徒会長

しおりを挟む
 学校閉校まであと二ヶ月半。
 三年生は、部活と委員会は引退となっている。
 そんな中、新しい生徒会長を選出する時期がやってきた。
 あと二ヶ月半だけの生徒会長だが、三年生を送る会、卒業式、閉校式といった大舞台での挨拶という大役が待っているのだ。

 二年生の中で生徒会長を務められそうなのは、成績も良く、機転が利く明日香であることは本人以外が認めていた。
 そのため、推薦で明日香が生徒会長に選出されることとなった。
 一応、形式的に演説と投票が行われる。
 当の本人は、やる気があまりないようだ。
 というか、二年生全員、わざわざ新しい生徒会長を決めることに意味がないと言っていたのだ。
 先生から大役だと言われると、徐々に理解をするようになった。

 そして、演説の日。
 音楽室に全員集まって、明日香の演説兼投票をすることになった。

「残り少ない時間の中での生徒会長の責務を、十分に成し遂げたいと思います。最後まで姫乃森中の伝統を守り、後輩へと引き継いでいけるよう皆さんご協力のほど、宜しくお願いします」

 明日香の演説後、投票を行った。
 選挙管理の係は三年生が行うことになっている。
 全員が投票し、二年生は退室した。
 そして、私達三年生は開票作業に取りかかった。

「まぁー、開票しなくても分かるんだけどね」

 私は投票箱から用紙を拾いながら呟いた。

「一応、形としてだからね」

 立ち会っていた川村先生がなだめるように言った。

「てか、七枚しかないから一目で分かるね」

 千秋が綺麗に投票用紙を並べながら言った。

「そうだねー。最後かー……。やっぱり寂しいね」

 ふーが寂しそうに言った。

「最後まで頑張ってくれるよ! 二年生もやる時はやる子達だから、私達も二年生のみんなのことを応援しよー!」

 私がそう言うと、千秋とふーが笑顔で「そうだね」と言って頷いてくれた。

「う~ん……」
「どうしたんですか? どこか間違いとかありました?」

 私は、物足りないような顔をしている川村先生に話し掛けた。

「いやぁ~、オレの名前を書いてくれている人が誰一人いないなーと思って……。こんなにハンサムでイケててクールなナイスガイなのに……。おかしいなー」

 おかしいのは川村先生だろ。
 私達三人は心の中で、そうツッコんだ。

「さっ、開票も問題なく終わったし、教室に戻ろー」

 ふーが片付けをしながら言って、音楽室から出て行った。

「そうだねー、うちらも行こう、なっつー」
「うん。お疲れさんでした~」

 私と千秋も川村先生のことを置いて、教室へと戻って行った。

「……。つれないなー」

 川村先生がボソッと呟いた。
 すると、その様子を見ていた内藤先生が一枚の紙を川村先生に手渡し、優しく話し掛けた。

「川村先生、これも生徒達の愛情の反応ですよ。はいこれ」

 その紙は、投票用紙の予備のもので、そこには『川村正樹』と書いてあった。

「内藤先生! ありがとう! 大事にする! やっぱ、先生は優しいなぁ~」

 川村先生は半分泣きそうになりながらもそう言って、嬉しそうに舞い上がっていた。

 こうして、満場一致で生徒会長は明日香に決まった。
 まぁー、みんな分かっていたことではあったが……。
 後日、正式に全校生徒へ投票結果が伝えられた。

「頑張ってね、明日香」
「がんばー」

 みんな明日香に労いの言葉をかけてあげていた。
 本人はダルそうにしていた。

「卒業式まではなんとなく分かるけど……。閉校式って何をやらされるんだろう」

 立派に成し遂げてくれるだろう、みんな明日香のことを信頼している。
 協力することがあれば、みんな快く協力してくれるだろう。
 頭もきれるし、行動力もある。
 最後の生徒会長にふさわしかった。
 ある意味、たった二ヶ月間という伝説的な生徒会長になった明日香であった。

 卒業、閉校への準備が着々と進んでいる。
 この現実は、生徒会長選出で思い知らされたのであった。
 
 それから数日後、二年生が妙にバタバタしていた。
 この時期だから、三年生を送る会の準備でもしているのだろう。
 早速、生徒会長の明日香を中心に動いていた。
 そして、私と千秋はソワソワしていた。
 そう、一般入試が近いのだ。
 私と千秋は、受験に向けてラストスパートに入っていた。
 第一志望校の合格を目指して……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

処理中です...