へいこう日誌

神山小夜

文字の大きさ
上 下
13 / 39

第13話 それぞれの道へ……

しおりを挟む
「この用紙に受験する高校名と学科名を書いて、今週中に提出してねー」
「はーい」
「じゃー解散!」

 帰りのホームルームで、進路希望用紙が配布された。
 私は、小学校から続けていた和太鼓をやりたくて、和太鼓部がある農業高校に進学することを決めた。
 初めは、介護福祉士の勉強ができる高校に行こうか迷っていたが、親から、

「せっかく高校に行くなら、やりたいことがある高校に行け。介護福祉士の勉強なんて専門学校に行って勉強すればいい」

 と言われたため、農業高校に進学することを決心した。
 家に帰り、早速用紙に記入し、親に確認してもらい、翌日には提出できるように準備した。
 翌日、千秋とふーから用紙を書いたか聞かれて二人に見せた。

「隣町の農業高校かー。なっつらしいね」

 千秋が用紙を見ながら言う。

「お前こそ、決まったの?」

 私がそう言うと、千秋は用紙を見せてくれた。

「凄いじゃん。進学校かー。同じ隣町の高校だね」
「そうそう。通学の電車も途中まで一緒だよ。川村先生が『お前の成績ならここがいい』って推されてさー。終いには『オレの後輩になれ!』って言われたー。兄ちゃんも行った高校だし、別にいいかなって思って決めたー」
「そっかー。卒業してもちょこちょこ会えるねー。ふーは?」
「あたしは……推薦で高専に行くことにした」

 ふーは元気のない声で言った。

「高専って県外じゃん!」
「うん……だから、二人とは離れ離れになっちゃう……。でも、どうしても、その学校で最新技術のバイオ研究ができるらしくて。やってみたいって思って。だから、この学校に決めたんだど……」

 三人とも黙り込んでしまった。
 小学校の頃からずっと一緒だったため、一緒にいるのが当たり前だと思っていた。
 見事にバラバラの高校に行くことを決めて、思いを伝えあった今。
 自分達の将来のため、いつかはバラバラになってしまう現実を思い知った瞬間であった。

「でもさー!」

 ふーが突発的に言い出す。

「あたし達、進む道が違っても永遠の友達だよ!」
「そうだよ! また、テーマパークに行って高級ホテルに泊まって遊ぶんだもんね!」

 千秋も続けて言った。

「あと、タイムカプセル、掘りに帰ってこなきゃね!」

 私が、そう言うと、二人とも笑顔になってきた。

「三人無事に、第一志望校合格目指そー!」

 私は拳を掲げて言うと、

「おー!」

 と、千秋とふーが続けて拳を上げる。
 受験に向けて三人の気合が入った。
 三人とも進路希望用紙を提出し、川村先生からも頑張れと言われた。
 いよいよ、受験に向けての取り組みが本格的になる。

「あー! 勉強もそうだけど、面接練習もやんなきゃねー」
「そうだねー」

 私とふーが話していると、千秋が考えながら言う。

「うん、受験対策も大事なんだけど……」
「ん? 何?」

 私は千秋に聞いた。

「最後の一大イベント、もうすぐじゃん」
「あ! 文化祭……」
「忘れてた」

 私は思い出したが、ふーは忘れていたらしい。

「二人とも、しっかりして! 作品作りや劇と歌の練習に、太鼓と郷土芸能の練習。やることはいっぱいあるよ!」
「そうでした……。はぁ。また今年も、放課後や夜もキツキツのスケジュールになるなー」

 私は途方に暮れていた。
 だって、プラス宿題もあるのだから……。
 運動会は体力的な疲労が大きかったが、文化祭は体力的にも時間的にもハードで多忙なものであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

太郎ちゃん

ドスケベニート
児童書・童話
きれいな石ころを拾った太郎ちゃん。 それをお母さんに届けるために帰路を急ぐ。 しかし、立ちはだかる困難に苦戦を強いられる太郎ちゃん。 太郎ちゃんは無事お家へ帰ることはできるのか!? 何気ない日常に潜む危険に奮闘する、涙と愛のドタバタコメディー。

黒地蔵

紫音@キャラ文芸大賞参加中!
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

リトル・ヒーローズ

もり ひろし
児童書・童話
かわいいヒーローたち

【完結】知られてはいけない

ひなこ
児童書・童話
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 <第2回きずな児童書大賞にて奨励賞を受賞しました>

お仕事はテストエンジニア!?

とらじゃむ
経済・企業
乙女ゲームの個人開発で生計を立てていた早乙女美月。 だが個人開発で食っていくことに限界を感じていた。 意を決して就活、お祈りの荒らしを潜り抜けようやく開発者に……と思ったらテストエンジニア!? 聞いたこともない職種に回されてしまった美月は……! 異色のITシステム開発現場の生々しい奮闘ストーリー!

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

佐藤さんの四重奏

makoto(木城まこと)
児童書・童話
佐藤千里は小学5年生の女の子。昔から好きになるものは大抵男子が好きになるもので、女子らしくないといじめられたことを機に、本当の自分をさらけ出せなくなってしまう。そんな中、男子と偽って出会った佐藤陽がとなりのクラスに転校してきて、千里の本当の性別がバレてしまい――? 弦楽器を通じて自分らしさを見つける、小学生たちの物語。 第2回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます!

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

処理中です...