交わらない心

後夜祭

後夜祭③

「お前っていい友達もってるよな」

帰り道、通い慣れたバス停で優作はそう呟いた。それを聴いた吉岡は此方を覗き込んでくるなり、頬を緩ませニヤニヤとしている。

「何？優、妬いちゃった？」

お退けた調子で言ってくる吉岡に焦って顔を真っ赤にしながらも必死で隠すように顔を背けた。ヤキモチを妬くまでとはいかないが、羨ましいと思ったことには違いない。

「そんなわけないだろ·····。俺の周りは、吉岡の周りみたいに受け入れてくれる奴いなかったから……」

「俺がいるじゃん？」

自分を指差してアピールしてくる吉岡。
しかし暫くして思い出したかのように指すのをやめては表面に向き直った。

「まぁもう。友達ではないけど」

意味深なその言葉に優作は俯いては自分のつま先を眺めていた。もう片想いでも、気持ちを隠してやり場のない気持ちに自暴自棄になる必要もない。ちゃんと好きな人の隣にいる。

優作は隣から熱い視線を感じて顔を上げては吉岡を見ると目が合った。

「何？」

「やっぱり、優って綺麗な顔してるよね」

「まぁ」

否定とも肯定ともとれぬ返事をする。
改めて面と吉岡に言われるのは照れくさい·····。

「性格は自分勝手で自分の感情が行動に出るから俺相手だと容赦ないし、気分屋だし」

褒められたと思えば急に自分の悪い部分のオンパレードで妙に傷つくが吉岡の言う通りなので何も言えず、優作は戸惑っていた。

「えっ」

「だけど、危なっかしいから見離せないんだよね」

そうこうしているうちにバスが到着した。
バスを乗ってしまえばあっという間に吉岡との時間が終わってしまう。
なんだか名残惜しく思いながら前方の吉岡の背中を眺めてると、急に方向転換した吉岡は乗り込むわけでもなく、道なりを歩き始めた。


吉岡に置いていかれた優作は唯呆然としていると、途中で気配が遠くなることに気がついたのか振り返っては手招きをされる。
バスの運転手が早く乗らないのかと急かすような目をして来ているのを振り切り、優作は吉岡の元にかけ出した。

「おい、吉岡」

「折角だから優、歩いて帰ろ？優がそんな顔してた気がしたから」

「はっ！？お前こそ」

「ほんと優って素直じゃないよね。
まぁ俺が名残惜しくなっちゃったからでもあるんだけどさっ」

「つーか、お前さっきから俺の事貶してるだろ」
「さぁ？」

惚けた顔をした吉岡。
すると急に立ち止まってきては「優……」と自分の名前を呼ぶと手を握ってくる。
顔が徐々に近づいてきては、唇を軽く触れ合わせてきた。

不意の出来事にドキッとしている優作を他所に吉岡は何事もなかったようにそのまま握った手を絡ませてきては歩き出す。
優作は今の一瞬で先程のキスの余韻を思い出しては居た堪れない気持ちになりながらも手を引かれるままに足を進めた。

人の心は変わると言うけれど吉岡との関係はこれ以上変わりたくない。

「優、大事なこと忘れてた」


「何だよ」

「優、オレと付き合ってください」

「今更っ」

「こういうのはちゃんと段階踏まないとねぇ？優、恋愛初心者だから」

先にキスをしている時点で段階も何も無いはずだが吉岡が嬉しそうに問いかけてくるのでどうでも良くなった。

「で、答えは？」

「いいに決まってるだろ·····」

優作は小さく呟いた。

「やったー。あ、楓さんに報告しに行かなきゃね」

吉岡は答えなんて既に分かっていたはずだが、右手を空に突き出しては大いに喜んでいた。

手から伝わる暖かい体温、吉岡の·····本気で好きになれた人の満面の笑顔が隣にある。それだけで優作は幸せな気持ちでいっぱいだった。


end