交わらない心

恋しい

恋しい①

吉岡を避けるようになって数日が経った。

唯一吉岡に近づけるのは授業の時の隣の席くらい。後は何かにつけてはスマホひとつで水澤に呼び出され、数学準備室へ向かう日々だった。いつもなら授業中でも時折、小声で話かけてくる吉岡は授業に集中して此方を、見向きもしない。原因は自分が吉岡を避けてるからのくせに寂しいなんて思ってしまう。


ペンを動かすその手が恋しい。
触れたい、触れられたい。

「そんなに隣が気になる？」

前に人が通り過ぎたと思っていたが、全く気に留めず吉岡のことばかり眺めていると、耳元で囁かれて我に返った。それと同時に首元を指1本で撫でられ声が出そうなのを押し殺した。 

優作は咄嗟に当たりを見渡したが、犯人の目星である水澤は何食わぬ顔で窓側の席の通路を通りながら教壇の方へと戻って行く。

確実に今の声音は水澤だったし、戻り側自分を睨むように此方を見ていた。

途端に興ざめする。
油断していた·····。
今は水澤の授業で、1番気をつけなきゃ行けない時なのに·····。


今、吉岡を眺めていたのを水澤は確実に見ていた。自分が吉岡を水澤から守るためにやってる事が水の泡になってしまう·····。

そう思うのに視線が本音を訴えるように、吉岡と話したいと言わんばかりに、捉えることをやめてくれない。

ふと隣を見遣ると吉岡と目が合い、すぐさま俯いた。
これ以上、吉岡を恋しいだなんて思っちゃいけない·····。

好きだと自覚すればするほど吉岡に助けを求めたい自分と、関わってはいけない自分と格闘する。担任の代理期間中だけだと思いたくても、出口の見えない毎日に、差し伸べられない手に鬱屈としていた。