交わらない心

優作と楓

優作と楓⑥

「そこから、あたしがこんなんだからいじめらちゃったりして、グレて夜遊びしては大変だったけど。そんな時、千晃くんが友達になってくれたって嬉しそうに優ちゃん話してくれたのよ。もーあたしも嬉しくて嬉しくて親として泣いちゃったわ」

優作が俺と仲良くなったことを嬉しいと思っていたのが素直に嬉しいやら恥ずかしさやらで優作の顔を真面に見れない。向こうもそう感じているのか、横目で優作を見遣ると雰囲気がひしひしと伝わってきた。

キスなんかされて腹立つけどやっぱり憎めない。
普段冷たいくせに他の人の前で俺の話をしてるなんてズルいじゃんか…。


「あーやっぱ連れてくんじゃなかった。楓、余計なこと喋りすぎ」

優作は得も言われぬ空気の中、居た堪れなくなったのか頭を乱暴に掻き回すと座席を立ち上がった。

「優ちゃん、どこいくの」
「これ以上いたらお前が喋りすぎるから余計に気まずくなった。帰る」

優作は少し怒り口調で楓にそう言い捨てると楓の引き止めを無視して店を出ていってしまった。
千晃も慌てて足元の鞄を拾い、優作を追いかけようと立ち上がった時、楓に引き止められる。

「あなたたち喧嘩してるんでしょ？あの子が何言ったか知らないけど。千晃くんが良かったら許してやって。千晃くんのことは大切に思ってるみたいだから。」

楓は「またいつでも遊びにきてね♡」と言っては名刺を渡してくると手を振った。
名刺を受け取り、鞄のポケットに閉まっては楓に一礼をすると外へと出る扉を開ける。
楓に後押しをされたように心拍数が上がるのが分かる。本当に信頼してくれていなきゃ此処に連れてきて自分のことを知られるようなことはしないんじゃないだろうか。

少なくとも今までの優作は自分のことをあまり話たがらなかった。

優作のことは恋愛感情として好きであるが、それより友情の方が大切だ。
そして、正直優作自身にしか分からない彼の答えが怖いけど、きっと、気持ちに整理をつけないと前に進めない気がした。

確信はないけどこんな矛盾した俺でも、彼はまだ友達でいてくれてる気がした。