交わらない心

優の秘密と亀裂

優の秘密と亀裂⑦

優作の体重が唇の圧に掛かる。
口内を開けろと言わんばかりに唇をなぞってくる舌にゾワッとして、千晃は動揺のあまり、勢いよく彼を突き飛ばした。

優作は少しよろめき、千晃から離れたが再び体制を整えて迫ってこようと近づいてくる。
千晃は乱れた息を整えながら制服の裾で唇を拭う。何度も何度も優作とのキスに居心地の悪さを感じて…。
好きな人からキスをされたのに嬉しいと思わなかった。 

唇からは何の感情もない冷たさと乱暴さを感じて、とてもいいものとは思えなかったのは、優作の心が自分に向いていないと分かっているからだった。

今の優作は感情が遥か彼方にいるようでとても冷めている。

「別に吉岡と付き合ってもいいよ。兼はダメんなっちゃったし。お前って意外と顔悪くないよな。何して欲しい？もっとキスしてほしい？それとも·····」

「ふざけんな」

千晃は饒舌に眉を八の字にさせて喋りだす優作の腹部に向かって拳で殴る。
力を込めた拳が脇腹に入ったのか、、優作は腹部を抱えるとその場に屈み込んでしまった。

「っっっ」

「優、お前そんな奴だったっけ。最低。絶交だわ」

千晃は頭部にそう吐き捨ててはその場から走って逃げるように去った。

無我夢中で走り、バス停へ着いたが真っ直ぐ家に帰る気にもならなくて千晃は家路まで歩いて帰る。

優作が自分のことを好きだと分かっていたとしても本心で人の心を踏みにじるようなことをするような男ではない。

振られて傷心した故に衝動で起こしてしまったことだって分かっている。  
 唯、自分もそれ以上に腹が立って優作を殴らずにいられなかった。
相手は完全に自分のことは想っていないと分かっても優作のことが好きだと思うと涙が溢れてきた。

それと同時に取り返しがつかないことを優作にしてしまったことを後悔する。

こんな風になりたいわけじゃなかったのに·····。