交わらない心

隠せない心

隠せない心④

「待って、優」

駆け足ぎみに優作を追い、階段の手前で前進していく背中に声を掛ける。
優作は声に気づくと、鬱陶しいと言うように険しい表情で此方へと振り返ってきた。

「おはよ·····今から行くの？」

「うん。吉岡、何？」
「いや·····その·····そう、頑張って、じゃあ」
「あぁ」

なんかの恋愛映画みたいに「行かないでっ」なんて言えるわけがない。
それ以前に早く篠塚の元へ行きたがっている雰囲気に呑まれて、これ以上話を続けられるほどのメンタルは持ち合わせてなかった。

優作が階段を登っていく姿を見送っては、しばらくしてから、足を立たせぬように静かに歩いては後を追い、屋上へと向かう。
着くなり扉の小窓から中の様子を伺うと椿と篠塚はフェンス沿いのベンチで、その向かえの地面には優作が座り、3人で楽しげにお弁当を食べていた。

見るべきではないと分かっているのに怖いもの見たさで覗いてしまうのは人間の性なのだろうか。

3人でいるはずなのに優作が捉えているのは篠塚の事ばかりだった。篠塚の肩が揺れれば優作も笑う。

彼が楽しそうに椿に向かって話しかけているのを優しい表情で見守りながら頷いている。
明らかに今まで自分に向けてきていた表情と違うことに胸が苦しくなった。   


「どうしよもないよな·····」


これ以上、見てしまったら嫉妬と落胆で気が狂ってしまいそうになる。千晃は深い溜息を吐き、小窓から顔を引っ込めると屋上を後にした。


できるのであればこの気持ちから解放されたかった…。