Broken Flower

なめめ

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フラワー大藪

フラワー大藪 13-8

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何かひとつ新しいことが増えるとこんなにも気分が上がるのかと懐かしい感覚を覚える。朝のスマホのアラームで目を覚まし、気だるげに身体を起こす。何時もは苦痛なその動作も、新たな日課が加わった事で苦では無くなっていた。

起きて真っ先にベランダを開けては、朝日を浴び澄んだ空気で深呼吸をする。
つと、亨はベランダ脇のメタルラックの上に置いてあるシクラメンを眺めた。
中腰で鉢に植えられているシクラメンをまじまじと観察しては、花びらや葉がしおれた様子は見られずホッ安堵の息を漏らした。

購入して三日もしないうちにシクラメンが環境の変化に慣れずに花がしおれてしまったことがあっただけに、不安が完全に拭えたわけじゃない。

大学生になって一日の始まりがシクラメンの観察から始まる日が来るなど思わなかったが、小学校低学年の時、夏休みに宿題の一環で朝顔を育てては、毎日絵日記観察をしていた時のことを彷彿とさせて亨をワクワクさせた。
改めて植物も生き物だと実感すると同時に葵の好きなシクラメンを絶対に枯らしたくない気持ちが大きい。

これで今までの自分の浅はかな行動を償えるなんて思っているわけじゃないけど、この花を大切に育てることで葵にいつか認めてもらえる日がくるような、願掛けのようなものだった。




「その後のシクラメンの調子はどう?」

昼下がりのフラワー大藪。
店員である慎文さんは作業台に両肘をつき、身を乗り出すようにして問うくる。

「順調です。この間はありがとうございました」

本当は頻繁にお邪魔するつもりなんてなかったが、亨がすぐ様店に駆け込むことになったのは、シクラメンをもらってから三日後のことだった。
花の知識などない亨は、学校の授業程度の浅い知識でもらったシクラメンを鉢植えし、一日中ベランダに放置し毎朝水遣りを繰り返していた。

そして三日目の朝、花がしおれていることに気づき、慌ててその日のうちに店に寄り慎文さんに相談すると「環境の変化に弱い植物だから、屋内の日中だけ日当たりのいい場所で様子見てみて?」とアドバイスをもらって、一週間が過ぎた頃にしおれていた花たちはみるみるうちに元気になっていった。

それ以降、慎文さんとは連絡を交換しメッセージを通して時折、花のことで相談するようになった。

「よかった。亨君、あの時、絶望的な顔して駆け込んできたから何事かと思って驚いたよ」
「せっかく慎文さんに貰った花を枯らしたくなくて……」

今思うと、あの時は花の不調に気を取られていて、葵の存在を気にしてなどいられなかったが、タイミングよく慎文さんだけだったことは不幸中の幸いだったと思う。

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