君のために僕は歌う

なめめ

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音楽フェス

音楽フェス③

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「お似合いだなんてよくその口で言えるよな……。裏切者のくせに……。なんであの日来なかったんだよ」

売り言葉に買い言葉、何時もの調子で鈴奈に言い放つと律仁が一番知りたかったことを問う。
鈴奈は答えてくれるだろうか。
また適当にはぐらかされてしまうだろうか。
もしかしたら、これを問うたところで彼女に逃げられてしまうかもしれない。

沈黙が余計に律仁を不安にさせるが、じっと彼女の言葉を待っていた。

「あたしに有益な方を選んだだけ。あなたより自分の家族を守りたかっただけ」
「だけど樫谷あいつは自分の手掛ける歌手は自分の女じゃなきゃ受けてくれないんだろ。ってことは鈴奈だって……。鈴奈は抵抗なかったのかよ。
あんなオヤジと……。それに前日に『俺になら……』って言ってくれたのは……」

「それ以上は言わないでっ。あたしはもう決めたの。鈴奈じゃなくて
雪城レイナとして生きるって、後戻りなんてするつもりはない。それがあたしの幸せなの。それに、あんたは陰日向であたしを支えるより表舞台に立ってる方が数倍合ってる」

振り返って鈴奈の肩を掴んで顔を見て話したい気持ちをぐっと堪えた。
彼女が面識を望んでいない以上、振り返ってしまうのは許されないような気がしたからだ。

「じゃあ、俺のことどう思っていたかだけ教えてよ……。鈴奈だって俺のこと、好きでいれくれたってくらい言葉にしてくれてもいいだろ……」

律仁はその場にしゃがみ込むと熱くなる目頭を右手指で押さえた。
格好悪いけど、これが律仁の本心だった。
もし彼女が律仁に近づいてきた理由が吉澤に唆されてたのだとしても
鈴奈と過ごした日々の事を全て嘘にしてしまいたくない。
彼女にも心があると思いたい。

「それは言えない……。言ったところで今のあんたじゃ、あたしを手にすることなんてできない」

冷たく突き放しているくせに、僅かに声を震わせている鈴奈は狡い。
本当は鈴奈だって俺のこと好きなくせに。
じゃなきゃ、あの夜に鈴奈から心も身体も許してもらえることなんてことはあるだろうか。

「じゃあさ、俺が鈴奈に釣り合うくらいのトップアイドルになれたら
俺の欲しい言葉くれんの?雪城レイナとしてじゃなくて鈴奈として俺のこと選んでくれんの?」

俺なりの精一杯の告白。
意地でも本心を言わない彼女への対抗意識からだった。

「ごめん、律仁。あたしもう行かなきゃ」

切羽の詰まった声で謝った彼女の気配がなくなる。
律仁は即座に立ち上がって振り返ってみたが彼女の姿はなかった。

「ふざけんなよ……」

木の幹の拳を強く当てて顔を伏せる。
それでも鈴奈のことを諦められない、嫌いになれないほど陶酔してしまった
自分が悔しいけど心はどうにもならない。
俺に地位や名誉があれば彼女が戻ってきてくれる可能性があると思いたかった。



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