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音楽フェス
音楽フェス②
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鈴奈は期待の新人と言えども、僅か数ヶ月で超絶な人気を誇っているからなのか、はたまた意図的に樫谷の息がかかっているのか分からなかったが、彼女はメインステージなので律仁と鉢合わせることはなかった。
今更、鈴奈に執着したところで現状は変えられないと分かっていても、思い出してしまう彼女との出来事は律仁の胸を酷く締め付けている。
もうあの指にも髪にも触れることが叶わないほど遠くに行ってしまった。
これから自分は鈴奈が隣に居ないステージで歌い続けなければならないのだろうか。
大樹が決して悪い訳では無い。
彼も彼でレッスンを重ねる度に、着実に歌は上手くなっているし律仁も隣で歌ってて居心地の悪さを感じたことはないかった。しかし、鈴奈の隣で歌っていた時のような声を通じて感じ合う胸の高鳴りは感じない。
与えられた詩を与えられたようにリズムに乗せて歌っているだけに過ぎなかった。それくらい律仁にとって鈴奈は全てであり、歌う幸せを教えてくれたと言っても過言では無い。
けれど、律仁も吉澤に追いかけられて逃げて居た頃と違う。様々な人が関わっているこの舞台を私情で逃げ出す非情さは持ち合わせていなかった。
御手洗いを終えて、気怠い気持ちを誤魔化すために木陰に伸し掛かっては
目を瞑る。
「まだ湿気たツラしてるのね。今日はあんたの晴れ舞台なんじゃないの?」
深く深呼吸をしたところで木の幹の裏から声がして顔を上げる。
久々に聞いた少しハスキーな声は、数ヵ月前まで隣で聞いていた声のような気がして「鈴……」と名前を呼びながら振り返ろうとしたとき、「振り向かないでっ」と強く言い放たれてしまった。
律仁は大人しく前へと向き直ると「鈴奈……?」と問いかける。
名前を呼んでも返事がない。背中には気配があるし、一瞬だけ見えた長い
明るい茶色の髪の毛と言葉遣いは彼女で間違いなかった。
「晴れ舞台って誰のせいでアイドルやる羽目になったと思ってんだよ」
「いいじゃない、あんたにはお似合いよ」
何も告げずに自分の元を去って行ったにも拘わらず、『お似合い』だなんて言葉をかけてくる彼女に腹が立つはずなのに、嬉しいと思ってしまう。
今更、鈴奈に執着したところで現状は変えられないと分かっていても、思い出してしまう彼女との出来事は律仁の胸を酷く締め付けている。
もうあの指にも髪にも触れることが叶わないほど遠くに行ってしまった。
これから自分は鈴奈が隣に居ないステージで歌い続けなければならないのだろうか。
大樹が決して悪い訳では無い。
彼も彼でレッスンを重ねる度に、着実に歌は上手くなっているし律仁も隣で歌ってて居心地の悪さを感じたことはないかった。しかし、鈴奈の隣で歌っていた時のような声を通じて感じ合う胸の高鳴りは感じない。
与えられた詩を与えられたようにリズムに乗せて歌っているだけに過ぎなかった。それくらい律仁にとって鈴奈は全てであり、歌う幸せを教えてくれたと言っても過言では無い。
けれど、律仁も吉澤に追いかけられて逃げて居た頃と違う。様々な人が関わっているこの舞台を私情で逃げ出す非情さは持ち合わせていなかった。
御手洗いを終えて、気怠い気持ちを誤魔化すために木陰に伸し掛かっては
目を瞑る。
「まだ湿気たツラしてるのね。今日はあんたの晴れ舞台なんじゃないの?」
深く深呼吸をしたところで木の幹の裏から声がして顔を上げる。
久々に聞いた少しハスキーな声は、数ヵ月前まで隣で聞いていた声のような気がして「鈴……」と名前を呼びながら振り返ろうとしたとき、「振り向かないでっ」と強く言い放たれてしまった。
律仁は大人しく前へと向き直ると「鈴奈……?」と問いかける。
名前を呼んでも返事がない。背中には気配があるし、一瞬だけ見えた長い
明るい茶色の髪の毛と言葉遣いは彼女で間違いなかった。
「晴れ舞台って誰のせいでアイドルやる羽目になったと思ってんだよ」
「いいじゃない、あんたにはお似合いよ」
何も告げずに自分の元を去って行ったにも拘わらず、『お似合い』だなんて言葉をかけてくる彼女に腹が立つはずなのに、嬉しいと思ってしまう。
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