君のために僕は歌う

なめめ

文字の大きさ
上 下
73 / 92
志すもの

志すもの⑬

しおりを挟む
最初のひと口をかぶりついた大樹の顔が僅かに晴れやかになったかと思えば、直ぐに眉間に皺が寄せられてしまった。

「美味しいけど……やっぱり無理……」

静かに皿の上にホットサンドを置くと、直ぐさまお冷で口直しをし始める。

「まじかよ。大樹、人生損してるぞ。こんな美味いもん食えないなんて……」

大樹の味覚は相当変わり種で馬鹿なのではないかと皮肉を言いたくなったが、本人は相当凹んでいるのか顔を俯けたままだったので喉な元まで来て言葉を堰き止めた。

「じゃあ、俺が貰っていい?」
「う、うん」

逆にあの幸福感をもう一度味わえると思って
律仁は大樹の返事を待たないうちに皿を自分の手元に引き寄せると彼の分のホットサンドに手をつけた。

すると唐突に黒田がキッチンの方へ戻っていくと何かを作り始めた。何やら香ばしい匂いが店内に立ちこんできたかと思えば、フライパンで厚切りのベーコンを焼いていた。

手際よくパンに何かを塗りたぐって、ホットサンドメーカーで先程のベーコンとレタスを挟んで焼くと断面が綺麗に切られた皿に乗ったソレを大樹の目の前に差し出してきた。

「おやじ、何これ」

大樹が喋るのよりも先に、気になって仕方がなかった律仁はとても美味そうなソレを覗き込みながら黒田に問う。

「大樹くんだっけか?特別、君のために作ったやつだ。レッスン終わりでお腹すいてるだろ?うちの店で二番目に人気のメニューだ。
ベーコン&ハニーマスタードサンドだ」

「あ、ありがとうございます」

律仁は優しく微笑みかける黒田に、終始目を丸くして驚かせた表情を見せる大樹を交互に見たあとで、明らかに美味そうなネーミングのサンドを横から凝視していた。

恐る恐る黒田特製サンドを手に取って「いただきます」と呟いた後にかぶりついた大樹は勢い良く顔を上げた。

ひと口食べたのを見届け、「どうだ?」と問うた黒田に対して「凄く美味いです」と満面の笑みを浮かべる。

今まで黒田のサービスでたまごサンド以外のものを出して貰えたことなどなかっただけに、律仁は大樹に少しだけ嫉妬していた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。 だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。 そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。

裏切られ献身男は図らずも悪役貴族へと~わがまま令息に転生した男はもう他人の喰い物にならない~

こまの ととと
ファンタジー
 男はただひたすら病弱な彼女の為に生きて、その全てを賭けて献身の限りを尽くしながらもその人生を不本意な形で終える事となった。  気づいたら見知らぬお坊ちゃまへと成り代わっていた男は、もう他人の為に生きる事をやめて己の道を進むと決める。  果たして彼は孤高の道を突き進めるのか?  それとも、再び誰かを愛せるようになるのか?

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

孤独な私は転生して娘たちが出来たので、溺愛して絶対に守ります。

如月りよん
ファンタジー
難病で家族に捨てられ、病院の個室で孤独に過ごしていた少女──ミナチは、ネットで小説を書くことで寂しさを紛らわせていたが、死んでしまった。 目覚めた先は自分が書いた異世界ファンタジー小説で、主人公である令嬢セルフィーネになっていた。 セルフィーネには可愛いい四人娘──歌と踊りの天才である長女のフェティ、読書が好きで一家の裏ボスのシンシア、人懐っこい妹キャラのミノニュ、ポエム作りとお絵描きが大好きな陰キャの末っ子──リン、そして、夫のオルガンがいた。 セルフィーネはかわいい娘たちを守り、家族、家を支えながら、異世界ライフを楽しむ!

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

処理中です...