32 / 92
交渉決裂
交渉決裂⑥
しおりを挟む
先程の三階事務所の奥の吉澤のディスクに呼び出された第一声が「社長はお前をアイドルとして売りたがってる」だった。
幼いころから歌やダンスのレッスンを受けさせられていた時点で驚きはしなかったが、社長の意向など律仁の知ったことではない。
「だからなんだよ。俺は誰になんと言われようと鈴奈と以外はやるつもりねーし」と突っぱねると吉澤のディスクの上に一枚の家族写真が置かれた。
背景は自宅玄関なのだろう。木目調の扉を背にして四人家族の男女が笑顔で並んで映っている。後列には両親と思しき、少し老け男と若めの20代前半くらいの男が並んでいる。
その前列には背丈の低いバイオリンを手にしている少年と、その母親らしき女が少し少年の背丈に合わせて屈んでは肩を抱いていた。
みんな正装をしていて、自分の幼少期とはかけ離れた家族像から、明らかに裕福な家庭であることが見て分かる。
「なんだよ、この写真」
この写真を見せられたことと今回の件と何が関係あるのか皆目見当もつかない。律仁は眉間に皺を寄せて問うと吉澤が、写真の中のバイオリンを抱いた青年を指差してきた。
「この少年いるだろ、お前の相方になる子だ。長山大樹って言って今、通いでレッスンを受けさせてる」
「長山大樹?誰だよこんなガキ」
「うちに所属してる長山卓郎っていうバイオリ二ストの息子だ。この写真は中学生に上がる前だから、今は幼さもあるがだいぶ顔つきも変わってる。お前と釣り合いは取れるくらい顔は悪くない」
急に写真を見せられて相方になる子だと言われても、律仁は鈴奈と一緒組む未来しか見えていない。こんなどこ馬の骨かも分からない坊ちゃんとなんかユニットを組むなんて想像出来なかった。否、したくなどなかった。
どうせお金持ちなのだから鼻につく性格をしているんだろう。家族写真など撮ったこともなく、親に見放された律仁とは住む世界が違いすぎる。
そんなやつと組んだところで性格の不一致で上手くいかないことは目に見えていた。
「だからひと足先にお前には、来月から本格的にダンスのレッスンも再開させるつもりだ」
律仁の知らないところで勝手に話を進められていることが腹立たしい。そんな理由で鈴奈とのことを断られるなんて納得がいかない。
律仁は思い切り、左手で吉澤の机を叩いた。
「嫌に決まってんだろ。ダンスなんて必要ない。俺は鈴奈と歌でやっていく」
「一緒にやってどうする」
そんな奮起している律仁の一方で吉澤は至って冷静に腕を組んで問うてくる。
「どうって·····世界一のアーティストになってやるよ」
断言したものの、確信的な自信がある訳じゃない。しかし、鈴奈とであれば海を越える存在になることも夢じゃないような気がしていた。
まだ曲作りを始めたばかりだけれど、英語の詞をいずれ書けるようになれれば可能性はゼロじゃない。夢は膨らむ一方だった。
幼いころから歌やダンスのレッスンを受けさせられていた時点で驚きはしなかったが、社長の意向など律仁の知ったことではない。
「だからなんだよ。俺は誰になんと言われようと鈴奈と以外はやるつもりねーし」と突っぱねると吉澤のディスクの上に一枚の家族写真が置かれた。
背景は自宅玄関なのだろう。木目調の扉を背にして四人家族の男女が笑顔で並んで映っている。後列には両親と思しき、少し老け男と若めの20代前半くらいの男が並んでいる。
その前列には背丈の低いバイオリンを手にしている少年と、その母親らしき女が少し少年の背丈に合わせて屈んでは肩を抱いていた。
みんな正装をしていて、自分の幼少期とはかけ離れた家族像から、明らかに裕福な家庭であることが見て分かる。
「なんだよ、この写真」
この写真を見せられたことと今回の件と何が関係あるのか皆目見当もつかない。律仁は眉間に皺を寄せて問うと吉澤が、写真の中のバイオリンを抱いた青年を指差してきた。
「この少年いるだろ、お前の相方になる子だ。長山大樹って言って今、通いでレッスンを受けさせてる」
「長山大樹?誰だよこんなガキ」
「うちに所属してる長山卓郎っていうバイオリ二ストの息子だ。この写真は中学生に上がる前だから、今は幼さもあるがだいぶ顔つきも変わってる。お前と釣り合いは取れるくらい顔は悪くない」
急に写真を見せられて相方になる子だと言われても、律仁は鈴奈と一緒組む未来しか見えていない。こんなどこ馬の骨かも分からない坊ちゃんとなんかユニットを組むなんて想像出来なかった。否、したくなどなかった。
どうせお金持ちなのだから鼻につく性格をしているんだろう。家族写真など撮ったこともなく、親に見放された律仁とは住む世界が違いすぎる。
そんなやつと組んだところで性格の不一致で上手くいかないことは目に見えていた。
「だからひと足先にお前には、来月から本格的にダンスのレッスンも再開させるつもりだ」
律仁の知らないところで勝手に話を進められていることが腹立たしい。そんな理由で鈴奈とのことを断られるなんて納得がいかない。
律仁は思い切り、左手で吉澤の机を叩いた。
「嫌に決まってんだろ。ダンスなんて必要ない。俺は鈴奈と歌でやっていく」
「一緒にやってどうする」
そんな奮起している律仁の一方で吉澤は至って冷静に腕を組んで問うてくる。
「どうって·····世界一のアーティストになってやるよ」
断言したものの、確信的な自信がある訳じゃない。しかし、鈴奈とであれば海を越える存在になることも夢じゃないような気がしていた。
まだ曲作りを始めたばかりだけれど、英語の詞をいずれ書けるようになれれば可能性はゼロじゃない。夢は膨らむ一方だった。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【推しが114人もいる俺 最強!!アイドルオーディションプロジェクト】
RYOアズ
青春
ある日アイドル大好きな女の子「花」がアイドル雑誌でオーディションの記事を見つける。
憧れのアイドルになるためアイドルのオーディションを受けることに。
そして一方アイドルというものにまったく無縁だった男がある事をきっかけにオーディション審査中のアイドル達を必死に応援することになる物語。
果たして花はアイドルになることができるのか!?
消えたい僕は、今日も彼女と夢をみる
月都七綺
青春
『はっきりとした意識の中で見る夢』
クラスメイトは、たしかにそう言った。
周囲の期待の圧から解放されたくて、学校の屋上から空を飛びたいと思っている優等生の直江梵(なおえそよぎ)。
担任である日南菫(ひなみすみれ)の死がきっかけで、三ヶ月半前にタイムリープしてしまう。それから不思議な夢を見るようになり、ある少女と出会った。
夢であって、夢でない。
夢の中で現実が起こっている。
彼女は、実在する人なのか。
夢と現実が交差する中、夢と現実の狭間が曖昧になっていく。
『脳と体の意識が別のところにあって、いずれ幻想から戻れなくなる』
夢の世界を通して、梵はなにを得てどんな選択をするのか。
「世界が……壊れていく……」
そして、彼女と出会った意味を知り、すべてがあきらかになる真実が──。
※表紙:蒼崎様のフリーアイコンよりお借りしてます。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ドS系最強女子の先輩に憧れ何を血迷ったかボクシング部に入ってしまったわたしはダメダメなどん底人生を逆転できるか
にゃあ
青春
【第13回ドリーム小説大賞奨励賞受賞作】
突然現れた超絶美女は、楽しそうに微笑を浮かべながらチンピラ二人組をボコボコにした。でもそれって、わたしを助けるため?ドSの性癖を満足させるため?
ボクシング最強、容姿絶世の美女だけど、食生活むちゃくちゃで私生活ポンコツ全開。
そんなドS最強女子ユウ先輩との出会いは、それからのわたしの人生を激変させるものだった!
――――――
わたし、鮎坂玲(あゆさかれい)。
一応女子。身長150センチのちびっ子。
高校中退して、高認合格。一浪して杏茗大学文学部英文科に合格。
高校時代からずっとぼっち。
小学校から中学までへっぽこ剣道を続けてきたことが特技って言えば、特技。おかげで、痛みには耐性ができた。
でも、高校では剣道部はすぐやめてしまった。
特にやりたいことなし。夢もなし。
彼氏ってなに? それおいしいの?
そんなわたしが憧れのドS先輩女子を追っかけて、何を血迷ったかボクシング同好会に入ってしまった!!
地獄の筋肉痛を耐え、同好会存続の危機を乗り越え、初めて試合にでたけれど……。
もうやだ、ボクシングなんてやめてやる!!
わたしの明日はどーなる?
表紙絵はノーコピーライトガール様よりお借りしました。
素敵なイラストがたくさんあります。
https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl
○本作品はフィクションです。実在の個人・団体とは一切関係ありません。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる