君のために僕は歌う

なめめ

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鈴奈と共に

鈴奈と共に④

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歌の余韻が後押しさせているのか、自分を変えてくれる彼女の存在も、声も、顔も、意地っ張りな性格も全て愛おしく思えて、鈴奈の全てが欲しくなる。

「鈴奈と一緒がいい……」

鈴奈の唇まで数センチ。
そのまま重ねようと頭を傾けた所で彼女の人差し指がそれを拒否した。

「それ、私を口説いてるつもり?」
「うん……」

キスしたいのに拒否された寂しさを感じながら、頷く。
鈴奈のことが好きで好きでたまらないこの衝動は抑えられない。

「それは、歌い手として?それとも私として?」

待てを強いられた犬のようにじれったい。
律仁を試すように問うてくる鈴奈も同じ気持ちじゃないんだろうか……。
勿論、歌い手としても鈴奈も魅力的だけど、鈴奈自身もひたむきにアルバイトをしながら夢に邁進している彼女の姿は眩しくて、自分の一歩先を行く彼女の姿を追いたくなる。

「どっちも……。どっちの鈴奈も好き……」

どっちの鈴奈がいいとかじゃない、鈴奈が好きなんだ。
言葉にしなきゃ伝わらないような気がして、今世紀最大の告白をする。
胸をドキドキさせながらも、鈴奈にこの想いが伝わってほしくて真剣に見つめる。律仁が告白したことによって鈴奈の頬が更に赤み帯びて伏せられた目を見逃さなかった。

これはいけるかも……。

彼女が抑えていた人差し指が頬へとずれては、律仁の顔の輪郭をなぞる。ほんの数ミリだけ顔が近づいた気がした。

鈴奈も俺のこと好きだって捉えていいのだろうか……。
少しずつ距離を詰めていこうとしたとき、頬を細い指が挟んできた。
変顔などする気はないのに、鈴奈の手によって挟まれた頬の肉に押し出されて唇が蛸のように窄まる。

「むっ。ちょ、鈴奈、何すんだよ」
「確かに私もあんたとなら組んでみてもいいかもって思った。でも、
それとこれとはまた別の話。だからキスは保留ね」

鈴奈だって赤面させて満更でもなかったくせに、年上の威厳を保とうとしているのか余裕の微笑みで返され、鈴奈の指先が離れていった。
お尻の砂埃を払って自らのギターケースを持って立ち上がろうとする彼女。

彼女の気持ちを明確に聞いたわけじゃないけど、律仁自身の思い過ごしでもない気がする。鈴奈だって一%でも俺に心を動かされていると思いたい。
律仁も立ち上がり、遊具を降りようとする鈴奈の手を掴んで、引き寄せると強引に唇を重ねた。

「はぁ⁉な、な、何するのよ」

軽く触れ合った唇が離れ、鈴奈が口元を両手で覆う。
明らかに動揺しているのか微かに声を震わせている鈴奈に律仁は詰め寄り、
遊具の柵まで追い詰めた。

「はぐらかされた仕返し」

「だ、だ、だからってわざわざキスしなくたっていいでしょ⁉」

いつもは強気な口調も律仁に押されている動揺で心なしか弱々しい。
やっぱり鈴奈だって俺のこと……。

「じゃないと鈴奈、誤魔化そうとするでしょ。鈴奈にとってそれとこれとは別かもしれないけど、俺は割と真剣だし。歌う姿もひん曲がった性格も含めて鈴奈のこと好きだから、音楽だけじゃなくて俺ともちゃんと向き合ってよ」
「ひ、ひん曲がったって余計なっ……」


歌手としての鈴奈もひとりの女性としての鈴奈も手に入れたいと思うのは
欲張りだろうか。けれど、道を切り開いてくれた彼女に音楽の楽しさを教えてくれた彼女に惹かれないと言う方が無理がある。

「俺、絶対口説き落とすから」

端から希望なんてなかった世界だけど、鈴奈となら、鈴奈がいるならこの世界に残ってもいい気がする。君のために歌えるなら……。


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