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助けた代償
助けた代償②
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無我夢中で駅前の人通りの多い道路まで彼女の手を引いて走った。シャッターの閉まった店の前で立ち止まり、周りを見渡しても追手は来ていないようで一安心していると、彼女に手を振りほどかれる。
「ちょっと、昨日からなに?ストーカー?あたしの大事なギター乱暴にしないでよ」
先程の泣きっ面は何処へと言ったように律仁が手にしていたギターケースを奪い取られて睨まれてしまう。乱暴って言っても男を軽く殴っただけだし、ケースに外傷もなければ中身は無事なはずだ。
それ以前に、ああでもしなかったら奴らを撒けなかっただろうし、あのままだったら彼女自身の中に傷が残っていたに違いない。だから律仁が怒られる筋合いはなかった。
「あんたをたまたま見かけて、危険にさらされてたから助けてやったのにそれが助けて貰ったやつに言うセリフかよ。あんたこそ敬語云々言う前に礼儀ってもん知らないのかよ」
助けたことを後悔させるほどの彼女の言い分に腹が立った律仁は右手で自身の頭を掻きむしると彼女に言い捨てる。
「だけどこれは、私の命よりも大事なギターやけん。父から貰った最初で最後のプレゼントやから……このギターをもって私は有名な歌手になるんだって誰にも頼らず意気込んで出てきよったのに……ぐすん…ぐすん。東京がこんな怖いとこやなんて……ぐすん……思わなかった……ぐすん」
律仁に反論するように最初は強気でいた彼女の顔が徐々に歪み、目元に涙を浮かべてすすり泣き始める。ギターケースを右手に持ったまま、もう片方の手で目元を拭う姿は迷子の子供のようだった。
腹が立ってつい強く当たってしまったが、別に泣かせるつもりで言った訳では無かった。異性相手に言い過ぎてしまったかもしれない……。
わんわんと声を挙げて泣き出す彼女に周りの通行人の視線が痛い。
男女の痴話喧嘩だと思われているのだろうか、奇異な視線を送られ、次第に
罪悪感に苛まれる。
これじゃあ俺が泣かせたみたいなってるじゃん……。
一理はあるんだけど、女の涙ってやっぱり狡い……。
律仁は慌てて女からギターケースを奪い返すとケースを地面に置いて屈んでは、中身を開ける。楽器など興味はあったものの触ったことがなかったので専門的な詳しいことまでは分からないが、白いボディのアコースティックギターは見た感じ、ヒビも入ってなければ衝撃で傷んだところはなさそうだった。
「ほら、どこも割れたりしてないし大丈夫だって。だから泣くなよ……。
俺も言い過ぎたのは謝るし……」
泣いている彼女の手を引いて本体が無傷であることを確認させるが、彼女はしゃがんで膝に顔を伏せたまま泣き続けていた。
こう、泣いている相手を慰めるにはどうしてやるのが正解なんだろうか。
先程彼女の言い分から一人で地方から上京してきたのだろう。
何処かは分からないが方言から九州方面な気はするが……。
そう考えると彼女の気の強さは怖さの裏返しだったようにも思えてきた。
「ちょっと、昨日からなに?ストーカー?あたしの大事なギター乱暴にしないでよ」
先程の泣きっ面は何処へと言ったように律仁が手にしていたギターケースを奪い取られて睨まれてしまう。乱暴って言っても男を軽く殴っただけだし、ケースに外傷もなければ中身は無事なはずだ。
それ以前に、ああでもしなかったら奴らを撒けなかっただろうし、あのままだったら彼女自身の中に傷が残っていたに違いない。だから律仁が怒られる筋合いはなかった。
「あんたをたまたま見かけて、危険にさらされてたから助けてやったのにそれが助けて貰ったやつに言うセリフかよ。あんたこそ敬語云々言う前に礼儀ってもん知らないのかよ」
助けたことを後悔させるほどの彼女の言い分に腹が立った律仁は右手で自身の頭を掻きむしると彼女に言い捨てる。
「だけどこれは、私の命よりも大事なギターやけん。父から貰った最初で最後のプレゼントやから……このギターをもって私は有名な歌手になるんだって誰にも頼らず意気込んで出てきよったのに……ぐすん…ぐすん。東京がこんな怖いとこやなんて……ぐすん……思わなかった……ぐすん」
律仁に反論するように最初は強気でいた彼女の顔が徐々に歪み、目元に涙を浮かべてすすり泣き始める。ギターケースを右手に持ったまま、もう片方の手で目元を拭う姿は迷子の子供のようだった。
腹が立ってつい強く当たってしまったが、別に泣かせるつもりで言った訳では無かった。異性相手に言い過ぎてしまったかもしれない……。
わんわんと声を挙げて泣き出す彼女に周りの通行人の視線が痛い。
男女の痴話喧嘩だと思われているのだろうか、奇異な視線を送られ、次第に
罪悪感に苛まれる。
これじゃあ俺が泣かせたみたいなってるじゃん……。
一理はあるんだけど、女の涙ってやっぱり狡い……。
律仁は慌てて女からギターケースを奪い返すとケースを地面に置いて屈んでは、中身を開ける。楽器など興味はあったものの触ったことがなかったので専門的な詳しいことまでは分からないが、白いボディのアコースティックギターは見た感じ、ヒビも入ってなければ衝撃で傷んだところはなさそうだった。
「ほら、どこも割れたりしてないし大丈夫だって。だから泣くなよ……。
俺も言い過ぎたのは謝るし……」
泣いている彼女の手を引いて本体が無傷であることを確認させるが、彼女はしゃがんで膝に顔を伏せたまま泣き続けていた。
こう、泣いている相手を慰めるにはどうしてやるのが正解なんだろうか。
先程彼女の言い分から一人で地方から上京してきたのだろう。
何処かは分からないが方言から九州方面な気はするが……。
そう考えると彼女の気の強さは怖さの裏返しだったようにも思えてきた。
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