10 / 27
博愛主義!ヤンデレンジャー!!
朽葉向日葵という少女(2)
しおりを挟む「・・・お兄ちゃん、パフェはこれから連れて行ってくれるの?」
モジモジとしながらこちらの様子をうかがう、わがままを許してほしいと思いつつも無理をさせられないといった顔だ。後で連絡すると言ったら丸一日も動かず待っていた女の子がこう言っているんだ、ここで濁したら今度はどれだけ無理をするかわかったものじゃない。
「あ、あぁ。今から行けるか?」
「やったぁー!嬉しいな!」
遊園地に連れて行ってもらえると知った子供のようにぴょんと飛び跳ねる向日葵。その様子は無邪気で可愛い女の子そのものだが、先ほどの奇行を考えると不安が拭えない。
「あー、でも・・・お兄ちゃん?」
「ど、どうした・・・あっ」
向日葵が身に着けているのは昨日と同じTシャツと短パン。そうか、年頃の女の子が一日着っぱなしの服のまま出掛けるなんて恥ずかしいか。
「えっと、外で待ってるから。ゆっくり準備しなよ」
「うん!わかった!」
とりあえず部屋から出て深呼吸をする。さっきのが博士の言っていた異常性という言葉を再度思い出す。確かに向日葵の言動は常識的とは言い難い。俺の気軽な『待て』に対していくらでもその場から動かないと言い、それは勘違いだと指摘すると謝罪のために自らに暴行を加えることを提案する。どう考えても自然に育った人間が思い付く発想ではない、しかも向日葵はまだ中学生だ。そうせざるを得ない、そうするのが当たり前な環境にいた・・・そう考えるのが自然だろう。
「お兄ちゃん、準備できたよ」
やけに早いが扉の向こうから向日葵に呼び掛けられる。俺を待たせまいと急いで準備してくれたのだろうか。
「それじゃあ行こうか」
俺の声を聴いてから開く扉。先ほどの一件のせいで向日葵の些細な行動に見える違和感が急に浮き彫りになったような。
「向日葵はどこの店がいいとかあるか?」
「お兄ちゃんが行きたいところがいいな」
「でも向日葵の誕生日だからっていう事だし・・・」
「いいの、お兄ちゃんが決めてくれた事が僕にとって一番の幸せだから」
「そ、そうか」
なんだろう。何かが重い。このすべてを肯定しようとする感じ。忠実というか言いなりというか、なんだ。俺の勘違いだと良いのだけど。
向日葵を連れて古本屋に戻ると、退屈そうにしていた桃と目が合った。
・・・まずい、桃と約束をしていた事をすっかり忘れていた。さっきの向日葵があまりにも強烈過ぎてダブルブッキングという男として最低だけどちょっとだけ憧れてしまう非道行為をやってしまった!これじゃ本当に博士の言っていたハーレムラブコメみたいじゃないか。
「あーっ、先輩遅いよー!桃待ちくたびれちゃった!・・・って、あれ?向日葵ちゃんも一緒なんだ、どうしたの?」
「・・・石竹桃」
先に今日約束したのは桃だが向日葵の待てを延長するのはいただけない。プレイボーイでも無い俺はこういうときの正解がさっぱり思いつかない。
そうだ、よく考えたら別にこれはデートじゃないんだ、三人で行く方向にシフトしよう。桃だって甘いものとか好きそうだし、別に2人きりで行くなんていう約束はしていない。これは名案だ。
「えーとその、向日葵とパフェ食べに行こうってことになってさ。三人で一緒に行かないか?ほら、桃は流行りの店とか詳しそうだし」
「えぇー、桃、先輩と二人っきりがよかったなぁ」
もしかして隊員同士の仲が良くないのは茜さんに限った事ではないのか!?
「なーんてね、向日葵ちゃんも一緒で嬉しいですよっ」
「そ、そっか。悪いな桃、勝手に決めて」
「大丈夫です。桃、向日葵ちゃんとも、もっと仲良くなりたいなって思っていたので!寧ろナイスアシストって感じ」
なんだ、俺の杞憂か。
「パフェだったら友達に教えてもらった気になるカフェがこの近くにあるんです。イチゴのスイーツがすっごく評判良くて、SNSでも話題なんですよ?映えるだけじゃなくて味も最高だって!決まってないならそこに行きませんか?」
「ああ、向日葵もそれでいいか?」
「・・・・・・」
「向日葵?」
いつの間にか俺の背後でシャツの裾をしっかりと掴んでいる向日葵、何故か顔を上げずに下を向いてなにか喋っている。
「お兄ちゃんの邪魔をしちゃいけない、僕はいい子、わがままは言っちゃダメだ、お兄ちゃんに嫌われる、言うこと聞かないと、捨てられたくない、逆らわない、僕はいい子でいないと・・・」
「・・・向日葵?」
口の中で小さくボソボソと呟く言葉は聞き取れない。
「えっと、気分が悪いなら今日はやめておくか?」
「ち、ちがうの。僕は・・・」
「あーっ!!」
何かを言いたそうにしている向日葵に困惑する俺を見た桃が、急に大きな声をあげる。
「ごめーん!桃このあと友達と約束してるの忘れてた!」
「え」
「・・・」
不穏な空気を察したからか、ただの天然かわからないが桃は自分の荷物をまとめだす。
「やっぱ今日ダメだわ!ごめんね先輩?可愛い桃と一緒にお出かけしたかっただろうけど・・・放課後でーとはまた今度ね、ばいばーい」
一方的に店から出て行ってしまった。今回は桃に助けられた・・・のか?
「じゃあ、向日葵。二人で行こうか」
「・・・ごめんなさい」
「え?」
「僕、邪魔した。石竹桃とデートだなんて知らなくて」
な、なんだいきなり。何を勘違いしてるんだ。
「お兄ちゃんの邪魔をする僕なんていらないよね、ごめんなさい。もうしないから、絶対しないから、いなくなるから嫌いにならないで」
「え、いや、その、デートって言うのは言葉の綾というか。別に俺も桃もそういう特別な意味で約束したわけじゃないから」
「でも僕がお兄ちゃんの予定を邪魔した・・・」
向日葵は今にも泣きそうにギュッと俺のシャツを握りしめている。
「気にしなくていいから。な?」
「・・・・・・」
どうやらこの子は些細なことで不安になってしまうようだ。
「向日葵?」
「わかった、気にしない」
「ありがとう、僕の事許してくれて・・・もっともっとお兄ちゃんの役に立てるようにがんばるからね。してほしい事があったらいつでも言ってね」
そんなに感謝するほどのことでも無いのに、向日葵は何度もしきりに頭を下げる。その様に俺は健気さだけでなく狂気を感じていた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスの双子と家族になりました。~俺のタメにハーレム作るとか言ってるんだがどうすればいい?~
いーじーしっくす
恋愛
ハーレムなんて物語の中の事。自分なんかには関係ないと思っていた──。
橋本悠聖は普通のちょっとポジティブな陰キャ。彼女は欲しいけど自ら動くことはなかった。だがある日、一人の美少女からの告白で今まで自分が想定した人生とは大きくかわっていく事になった。 悠聖に告白してきた美少女である【中村雪花】。彼女がした告白は嘘のもので、父親の再婚を止めるために付き合っているフリをしているだけの約束…の、はずだった。だが、だんだん彼に心惹かれて付き合ってるフリだけじゃ我慢できなくなっていく。
互いに近づく二人の心の距離。更には過去に接点のあった雪花の双子の姉である【中村紗雪】の急接近。冷たかったハズの実の妹の【奈々】の危険な誘惑。幼い頃に結婚の約束をした従姉妹でもある【睦月】も強引に迫り、デパートで助けた銀髪の少女【エレナ】までもが好意を示し始める。
そんな彼女達の歪んだ共通点はただ1つ。
手段を問わず彼を幸せにすること。
その為だけに彼女達は周りの事など気にせずに自分の全てをかけてぶつかっていく!
選べなければ全員受け入れちゃえばいいじゃない!
真のハーレムストーリー開幕!
この作品はカクヨム等でも公開しております。
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う
月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる