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大きな神の神隠し
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俺の名前は池藤秋馬。普通の社会人2年目の23歳だ。
俺は今、何日もカーテンを閉め切った部屋の中で生きている。テレビの灯りだけが、朝も夜も、真夜中も朝方も、ずっと働いている。
俺だって生きているから、水も飲むしトイレにだって行く。
けれど、ここ何日も食事は喉を通らず、食パンを齧ったりインスタント味噌汁にお湯をかけて飲んだりするくらいしか、できない。
「……あ、おはようございます、池藤です。すいません、今日もちょっと調子悪くて、休ませてもらっていいですか……はい、すいません。はい。あ、ありがとうございます。失礼します」
会社には毎朝欠勤の連絡を入れている。出社拒否というわけではない。身体と心が今、大変なのだ。
上司も事情は理解してくれていて、そこまで怒られることはない。こんな生活を続けていてはお金も底をつくので、少し落ち着いたら出社しなければいけないのだが。
テレビが四六時中、何を映し出しているかというと、数日前に起きた飛行機事故のニュースだ。
国内便でのこんなに大規模な事故なんて、昭和の悲惨な事故以来ではないだろうか。
だが、今回は少し状況が違うようだ。
どうやら、墜落したとかではないらしい。
ニュースが繰り返し流す映像では、
『369便、応答せよ。369便、応答せよ』
『369便、レーダーから消失』
『369便、応答せよ』
という音声が慌ただしく、こちら側だけで行き交っている。
この369便、突然レーダーから消え、音信不通になったというのだ。
その後、墜落の知らせなども入っておらず、行方がわからなくなっているという。
この狭い日本で、そんなことが起こるのだろうか。
──その大それた神隠しの犠牲となった494人の中に、俺の大切な彼女である千明南那は乗っていた。
もちろん事故のニュースが入ってから慌ててスマホに電話をかけてみても繋がらないし、LINEを送ってみても既読がつかない。
俺からは何もできることがなくて、途方に暮れて、イマココだ。
外が晴れているのか雨なのかもカーテンに遮られてわからない。けれど、そんなことはどうでもよかった。
南那がどこかで生きていてくれるなら、この街をぶっ壊すくらいの台風が来ていても俺には関係ない。
夏が終わろうとするこの季節、南那の温もりが恋しくて、南那がこの世からいなくなることが怖くて、俺は外を見ることも恐れるようになった。
テレビをつけているが、画面を見ることは怖かった。音声だけ、流れている。
時間ごとにアナウンサーが代わっても、言うことは皆同じだ。
「一昨日、レーダーから消えたまま行方がわからなくなっている369便のニュースです。現在も捜索活動が行われていますが、墜落したような痕跡は未だ見つかっておりません」
いったいどこに消えてしまったというのだ……!
俺は今、何日もカーテンを閉め切った部屋の中で生きている。テレビの灯りだけが、朝も夜も、真夜中も朝方も、ずっと働いている。
俺だって生きているから、水も飲むしトイレにだって行く。
けれど、ここ何日も食事は喉を通らず、食パンを齧ったりインスタント味噌汁にお湯をかけて飲んだりするくらいしか、できない。
「……あ、おはようございます、池藤です。すいません、今日もちょっと調子悪くて、休ませてもらっていいですか……はい、すいません。はい。あ、ありがとうございます。失礼します」
会社には毎朝欠勤の連絡を入れている。出社拒否というわけではない。身体と心が今、大変なのだ。
上司も事情は理解してくれていて、そこまで怒られることはない。こんな生活を続けていてはお金も底をつくので、少し落ち着いたら出社しなければいけないのだが。
テレビが四六時中、何を映し出しているかというと、数日前に起きた飛行機事故のニュースだ。
国内便でのこんなに大規模な事故なんて、昭和の悲惨な事故以来ではないだろうか。
だが、今回は少し状況が違うようだ。
どうやら、墜落したとかではないらしい。
ニュースが繰り返し流す映像では、
『369便、応答せよ。369便、応答せよ』
『369便、レーダーから消失』
『369便、応答せよ』
という音声が慌ただしく、こちら側だけで行き交っている。
この369便、突然レーダーから消え、音信不通になったというのだ。
その後、墜落の知らせなども入っておらず、行方がわからなくなっているという。
この狭い日本で、そんなことが起こるのだろうか。
──その大それた神隠しの犠牲となった494人の中に、俺の大切な彼女である千明南那は乗っていた。
もちろん事故のニュースが入ってから慌ててスマホに電話をかけてみても繋がらないし、LINEを送ってみても既読がつかない。
俺からは何もできることがなくて、途方に暮れて、イマココだ。
外が晴れているのか雨なのかもカーテンに遮られてわからない。けれど、そんなことはどうでもよかった。
南那がどこかで生きていてくれるなら、この街をぶっ壊すくらいの台風が来ていても俺には関係ない。
夏が終わろうとするこの季節、南那の温もりが恋しくて、南那がこの世からいなくなることが怖くて、俺は外を見ることも恐れるようになった。
テレビをつけているが、画面を見ることは怖かった。音声だけ、流れている。
時間ごとにアナウンサーが代わっても、言うことは皆同じだ。
「一昨日、レーダーから消えたまま行方がわからなくなっている369便のニュースです。現在も捜索活動が行われていますが、墜落したような痕跡は未だ見つかっておりません」
いったいどこに消えてしまったというのだ……!
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