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見かけた人は誰もなく

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 シローが逃げて1週間。あれからえっちゃんは元気がない。
 店長は半ば、探すのを諦めたようだった。ちくしょう、俺達の仲間を見捨てる気かよ。

「アム、えっちゃん元気ないね」
 チッチの目が潤んでいる。……のはもとからか。コイツはチワワで異常に目がデカいんだった。

「……はぁ……」
 えっちゃんのため息を聞かない日はない。
「もう1週間経つね。シロー、どこにいるんだろうね。ちゃんとご飯食べてるかな」
 えっちゃんが俺達のご飯を用意しながら、悲しそうに言う。

 外はこの1週間で急に寒くなり、冬がすぐそこまで来ているようだった。
 外に繋がる自動ドアが開く度に、ヒューッと冷たい風が店に入る。

「もうこんなに寒くなったのにね。雨の日とか、どうしてるかな。風邪ひいてないかな」

 えっちゃんはお客さんと世間話をする際、いつもシローのことを話した。
「ここにいた白い芝犬、逃げちゃったんです。見かけたら教えてくださいね」
 みんなに言っていたが、シローを見かけたという人は誰もいなかった。

「あ、ペンちゃん爪伸びてる。切ろっか」
 コーギーのペンちゃんがえっちゃんに抱えられて爪を切られている。
 シローはえっちゃんの温もりだけじゃ足りなかったのかよ……。こんなに優しいのに、それだけじゃ足りずに家族を求めて逃げたっていうのかよ……!

 閉店時間が近くなったら寝床のケージに入れられて、人がいなくなったらみんなでお喋りして、少しずつ声が消えていって、外が明るくなって、少しざわついて、えっちゃんが来て、ご飯を食べて、お客さんが来て、夜が来て……。
 そんな毎日は、同じようでちょっとずつ違う。

 俺はすごく可愛い可愛いって言われる日もあれば、全然言われない日もある。

 ──俺はどんな家族に買われるんだろう。

 シロー、外の世界は自由か?
 それとももうどこかに拾われてぬくぬくと生活してるのか?



 元気のないえっちゃんを見て過ごす1週間は、いつもの1週間よりも長く感じたけれど、いつの間にかシローがいなくなって2週間が経っていた。
 今日は一段と寒い日だ。シローのことがやっぱり気になる。
 夜、隣にシローがいないと夜更かし組の話し相手がいなくて淋しいよ、やっぱり。

「みんな、おはよう!」

 ──ワンワンワン!
 ──クゥ~ン。
 ──ヒーン、ヒーン!

 えっちゃんが寒そうに入ってきた朝。髪の毛に雪がついていた。

「今日は寒いねー! みんなは毛皮があるからいいね!」

 そう言っていつものように朝のルーティンを済ませていくえっちゃん。俺を抱えた手はとても冷たかった。

「今日は雪が降ってるんだよー。シロー大丈夫かな。屋根のあるところを見つけていればいいけど……」
 えっちゃんは今日も、お客さんにシローの目撃情報がないかと聞いている。
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