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憑イテイッタ私
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「いや、俺も今来たとこ」
「じゃ、行こっか♡」
「おう」
夏弥は知らない女の手を取り、恋人繋ぎをした。女は照れ臭そうにそれを受け入れ、まるで玲奈のことなんか頭の片隅にもないかのように幸せそうに笑う夏弥を、玲奈はずっと見ていた。それでも悪いことはしない。悪いのは自分だと責め続け、ただ夏弥の笑う顔を見ていた。
──「夏弥」
「映画間に合うかな? 急ごっか」
「そうだね! 飲み物買う時間あるかな?」
──「映画観に行くの?」
「夏弥、今日ね、先輩に意地悪されちゃって」
「マジで? 大丈夫?」
──「何の映画観るの?」
「大丈夫。夏弥とこの後デートだって考えて頑張ったから♡」
「無理すんなよ?」
玲奈は、自分のことが完全に見えていないこの状況でもいいと思っていたけれど、やっぱりそれは辛かった。今は恋人同士であるこの2人の会話が、少し前までは玲奈と夏弥の間で交わされていたのだと思うと、悔しさと悲しさと後悔が降りかかる。
「私……どうして死ぬ選択をしたんだろう……。死んだら何も伝えられないのに。頑張って生きてたら、好きだっていう気持ちも、まだ夏弥に伝えるチャンスはあったのに。私……バカだな……」
もう一度、こっちを向いてほしかった。もう一度、会話をしてほしかった。まだ好きだよ、という気持ちを、伝えたかった。
今まで夏弥には迷惑がかからないように、そっと憑イテイタだけの玲奈が、この時は悔しくて、悲しくて、思わず夏弥の腰に力いっぱいギューーーーッとしがみついてしまった。
──「夏弥……もう一度私を見て……!」
映画に間に合うように早歩きで歩いていた2人だったが、突然夏弥が歩く速度を緩めて言った。
「ちょっとごめん……」
腰を押さえる夏弥に、心配そうに女が言う。
「どうしたの? 腰痛いの?」
「痛いっていうか……なんか……ダルいっていうか重いっていうか……」
夏弥はさっきまで元気そうだったのに、少し息切れもしていた。
「具合悪いの? ちょっとそこのベンチ、座ろっか」
「いや、でも映画間に合わなくなっちゃうから……」
「いいから」
女は夏弥を無理やり近くにあったベンチに連れて行き、持っていたハンカチを敷いて、座らせた。
──「ハンカチ……」
玲奈は、自分に足りなかったのはこういう配慮なのだろうかと思う。
「大丈夫?」
夏弥の背中をさすりながら、女が心配そうに夏弥の顔を覗き込んでいる。
「大丈夫……ごめんな」
「映画はいつでも観れるけど、夏弥が倒れちゃったら嫌だもん。今度は休みの日にゆっくり行こっか」
「そうだな」
その後30分くらい、夏弥と女は他愛のない会話で笑い合っていた。玲奈にはそれを聞いていることしかできない。もう夏弥と話す権利も奪われてしまったのだという現実が、重くのしかかっていた。
──「私はもう、声も姿も透明なんだね……」
その声ももちろん届かない。
けれど玲奈は、それをプラスに捉えることにした。人間として生きていたら、夏弥に振られてしまって、もう一緒にいることはできなかったけれど、こうして幽霊になってしまったから、ずっと夏弥と一緒にいられるんだ、と。誰にもバレずに、夏弥と過ごすことができる。
夏弥に恋人ができたり、結婚したり子供ができたり、そういう幸せは受け入れなければいけない。受け入れることが、死を選んでしまった自分への罰なんだと、思うことにしたのだ。
「じゃ、行こっか♡」
「おう」
夏弥は知らない女の手を取り、恋人繋ぎをした。女は照れ臭そうにそれを受け入れ、まるで玲奈のことなんか頭の片隅にもないかのように幸せそうに笑う夏弥を、玲奈はずっと見ていた。それでも悪いことはしない。悪いのは自分だと責め続け、ただ夏弥の笑う顔を見ていた。
──「夏弥」
「映画間に合うかな? 急ごっか」
「そうだね! 飲み物買う時間あるかな?」
──「映画観に行くの?」
「夏弥、今日ね、先輩に意地悪されちゃって」
「マジで? 大丈夫?」
──「何の映画観るの?」
「大丈夫。夏弥とこの後デートだって考えて頑張ったから♡」
「無理すんなよ?」
玲奈は、自分のことが完全に見えていないこの状況でもいいと思っていたけれど、やっぱりそれは辛かった。今は恋人同士であるこの2人の会話が、少し前までは玲奈と夏弥の間で交わされていたのだと思うと、悔しさと悲しさと後悔が降りかかる。
「私……どうして死ぬ選択をしたんだろう……。死んだら何も伝えられないのに。頑張って生きてたら、好きだっていう気持ちも、まだ夏弥に伝えるチャンスはあったのに。私……バカだな……」
もう一度、こっちを向いてほしかった。もう一度、会話をしてほしかった。まだ好きだよ、という気持ちを、伝えたかった。
今まで夏弥には迷惑がかからないように、そっと憑イテイタだけの玲奈が、この時は悔しくて、悲しくて、思わず夏弥の腰に力いっぱいギューーーーッとしがみついてしまった。
──「夏弥……もう一度私を見て……!」
映画に間に合うように早歩きで歩いていた2人だったが、突然夏弥が歩く速度を緩めて言った。
「ちょっとごめん……」
腰を押さえる夏弥に、心配そうに女が言う。
「どうしたの? 腰痛いの?」
「痛いっていうか……なんか……ダルいっていうか重いっていうか……」
夏弥はさっきまで元気そうだったのに、少し息切れもしていた。
「具合悪いの? ちょっとそこのベンチ、座ろっか」
「いや、でも映画間に合わなくなっちゃうから……」
「いいから」
女は夏弥を無理やり近くにあったベンチに連れて行き、持っていたハンカチを敷いて、座らせた。
──「ハンカチ……」
玲奈は、自分に足りなかったのはこういう配慮なのだろうかと思う。
「大丈夫?」
夏弥の背中をさすりながら、女が心配そうに夏弥の顔を覗き込んでいる。
「大丈夫……ごめんな」
「映画はいつでも観れるけど、夏弥が倒れちゃったら嫌だもん。今度は休みの日にゆっくり行こっか」
「そうだな」
その後30分くらい、夏弥と女は他愛のない会話で笑い合っていた。玲奈にはそれを聞いていることしかできない。もう夏弥と話す権利も奪われてしまったのだという現実が、重くのしかかっていた。
──「私はもう、声も姿も透明なんだね……」
その声ももちろん届かない。
けれど玲奈は、それをプラスに捉えることにした。人間として生きていたら、夏弥に振られてしまって、もう一緒にいることはできなかったけれど、こうして幽霊になってしまったから、ずっと夏弥と一緒にいられるんだ、と。誰にもバレずに、夏弥と過ごすことができる。
夏弥に恋人ができたり、結婚したり子供ができたり、そういう幸せは受け入れなければいけない。受け入れることが、死を選んでしまった自分への罰なんだと、思うことにしたのだ。
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