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大人しくできない
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「こんな状況でからかえるわけがないでしょう? レギアスじゃないんだから」
「そうか? レティシアの冒険好きは相当だからな。てっきりやり返されたのかと」
「そこまで節操無しじゃないわよ」
「じゃあ、可愛いってどういう意味?」
ムスッとした顔になった。相変わらず可愛いけれど男のプライドを傷つけたかしら。初めて言ったわけでもないと思うけれど。
「それは……レギアスがいつも私に言うのと同じように思うけれど」
「……レティシアは俺が言う可愛いを、どう受け取ってるの?」
「その……いとおしくて……抱きしめたくなる、感じ?」
改めて言葉にすると恥ずかしい。
「いま……俺を抱きしめたい?」
「……大人しくされるがままでいてくれるなら……抱きしめてキスしたい」
本当はするよりされたいけれど内緒だ。
レギアスは左手だけ顔から外し宙をさまよわせると床に付け、がっくりと長い溜息をついた。
心の様が手に取るようでやっぱり可愛い。
レギアスの脚のあいだへ膝立ちになって、ふわふわの髪の毛に鼻先をうずめながら抱きしめた。
大好きなレギアスの香りだけ吸い込んで、慣れない環境で緊張していた体と心が落ち着いていく。なのに体はすぐに彼をもっと欲しいと騒ぎ出した。そわそわしてどうしよう。
なんだかいつもと逆になったみたいで可笑しさまで込み上げてきた。
レギアスの顔を窺うと相変わらず困ったようなくすぐったいような表情で。でも私を見つめる瞳はとっても嬉しそう。部屋中の空気がますます甘くなったみたい。
しばらく見つめ合うと吸い寄せられるようにそっと唇を重ねた。
吸いついて感触を存分に味わいたい欲求を押しとどめ、レギアスの首元に顔をうずめる。
「キスはもう終わり?」
「レギアス。さっきの防音の結界をまたお願い」
「これ以上は俺が大人しくできないと思ってる?」
「…………私は大人しくできない」
「……あの結界は前もって術式を構築していたならともかく……急に作るのは展開と制御にかなり集中力が必要で……」
「結界が無いならもうキスも無理」
「俺ももう大人しくしてるのは無理かな……頑張って血流とかコントロールしてるけど、限界」
可愛らしかったレギアスの雰囲気がガラリと変わる。慌てて顔と体を離すと狂気の漏れ始めた瞳は見開かれていて、口の端を吊り上げ嗜虐的な笑顔を浮かべた。
「待って」
レギアスの口を右手で塞ぐとその上から彼の手が重ねられ、指の股に舌が滑っていく。
「や、ダメ! ふあっ……んんっ。……ま、まってぇ!」
そのまま手首を掴まれ腰を引き寄せられると大きく開けられた口が迫り、いきなり舌を這われながらキスされて。
「ダメだったら……んっ……ふ……」
レギアスの舌が強引にねじ込まれて、感じる体と声をなんとか止めようとして頭が真っ白になりかけた。
「女神様!!」
声とともにバーンと扉が開かれた時には私の顔はレギアスの胸に収まり、体はへたり込んでいた。
「勝手に入ってくるな!」
「ど、どうして床に座ってるんですか? 女神様に何かあったんですか?」
「お前らの知っていいことじゃない。いいか、これからレティシアは湯浴みだ。女神の裸を見たら死刑だぞ?」
子供たちがビクリと震える気配がする。レギアスに注意しなきゃと思いつつも、顔を見せられる自信がなくてそのままに任せてしまった。
「何が聞こえても二度と入ってくるな。わかったか?」
「わ、わかりました」
「わかりました!」
姉弟は慌てて返事をすると逃げるように部屋を出ていった。
「全く……子供のしつけができてねえ」
「心配でつい開けてしまったのでしょう? こんなに教育が行き届いているなんて意外なくらいだけれど」
「まあな。でも最初からあいつらノックはしたけど勝手にドアを開けてたぞ? よっぽどレティシアのことが見たくて気になってたみたいだ」
「そうなの? 可愛いわね」
「俺はレティシアしか可愛くない」
そう言うレギアスの顔は全然可愛くない。そろそろと体を離そうとすると手首を掴まれて、いまにもどこかに食いつかれそう。
「レギアス! 湯浴み、湯浴みをするのよね? 私」
「あー……。したいの?」
とりあえず流れを変えようとコクコク頷いてみたけれど、眠りたいと言えばよかったとすぐに気づいた。
タライのお風呂なんて物語で読んだだけで初めて見る。実際はどんなものか体験してはみたいけれど、いまのレギアスに裸を晒すなんて……
「……仕方ないな」
少し考えるようなそぶりを見せてから抱きかかえられた。テーブルの椅子を暖炉側に向けて座らされる。
レギアスはテーブルの上の基礎化粧品をじっと見つめ。
「まあ、普段使ってるのと大差ないな」
そう呟くといつものように私の髪をくくる。目の前で片膝立ちになると手慣れた手つきで化粧を落とし始めた。
「やっぱり、レティシアは素顔が一番綺麗だ」
「私、色が無さすぎてお化粧しないと薄ぼんやりとしているように思うのだけど。レギアスみたいにくっきりとしていればいいのに」
「自分じゃ判らないんだな。美を司る女神だぞ? そのままでも美しすぎるに決まってるだろ」
子供のころからみんなに褒めそやされるけれど、鏡を見てもいまいちよく分からない。
「パーティの日に綺麗だって興奮してたじゃない」
「あれは……いつもとあんまり雰囲気が違ううえに、うなじや珍しく濃い色のドレスと白い肌の対比にそそられて……」
「ふーん」
「いつもの白っぽいレティシアが1番神秘的で綺麗だし……汚すのに背徳感があっていい!」
「何よそれ……」
「そうか? レティシアの冒険好きは相当だからな。てっきりやり返されたのかと」
「そこまで節操無しじゃないわよ」
「じゃあ、可愛いってどういう意味?」
ムスッとした顔になった。相変わらず可愛いけれど男のプライドを傷つけたかしら。初めて言ったわけでもないと思うけれど。
「それは……レギアスがいつも私に言うのと同じように思うけれど」
「……レティシアは俺が言う可愛いを、どう受け取ってるの?」
「その……いとおしくて……抱きしめたくなる、感じ?」
改めて言葉にすると恥ずかしい。
「いま……俺を抱きしめたい?」
「……大人しくされるがままでいてくれるなら……抱きしめてキスしたい」
本当はするよりされたいけれど内緒だ。
レギアスは左手だけ顔から外し宙をさまよわせると床に付け、がっくりと長い溜息をついた。
心の様が手に取るようでやっぱり可愛い。
レギアスの脚のあいだへ膝立ちになって、ふわふわの髪の毛に鼻先をうずめながら抱きしめた。
大好きなレギアスの香りだけ吸い込んで、慣れない環境で緊張していた体と心が落ち着いていく。なのに体はすぐに彼をもっと欲しいと騒ぎ出した。そわそわしてどうしよう。
なんだかいつもと逆になったみたいで可笑しさまで込み上げてきた。
レギアスの顔を窺うと相変わらず困ったようなくすぐったいような表情で。でも私を見つめる瞳はとっても嬉しそう。部屋中の空気がますます甘くなったみたい。
しばらく見つめ合うと吸い寄せられるようにそっと唇を重ねた。
吸いついて感触を存分に味わいたい欲求を押しとどめ、レギアスの首元に顔をうずめる。
「キスはもう終わり?」
「レギアス。さっきの防音の結界をまたお願い」
「これ以上は俺が大人しくできないと思ってる?」
「…………私は大人しくできない」
「……あの結界は前もって術式を構築していたならともかく……急に作るのは展開と制御にかなり集中力が必要で……」
「結界が無いならもうキスも無理」
「俺ももう大人しくしてるのは無理かな……頑張って血流とかコントロールしてるけど、限界」
可愛らしかったレギアスの雰囲気がガラリと変わる。慌てて顔と体を離すと狂気の漏れ始めた瞳は見開かれていて、口の端を吊り上げ嗜虐的な笑顔を浮かべた。
「待って」
レギアスの口を右手で塞ぐとその上から彼の手が重ねられ、指の股に舌が滑っていく。
「や、ダメ! ふあっ……んんっ。……ま、まってぇ!」
そのまま手首を掴まれ腰を引き寄せられると大きく開けられた口が迫り、いきなり舌を這われながらキスされて。
「ダメだったら……んっ……ふ……」
レギアスの舌が強引にねじ込まれて、感じる体と声をなんとか止めようとして頭が真っ白になりかけた。
「女神様!!」
声とともにバーンと扉が開かれた時には私の顔はレギアスの胸に収まり、体はへたり込んでいた。
「勝手に入ってくるな!」
「ど、どうして床に座ってるんですか? 女神様に何かあったんですか?」
「お前らの知っていいことじゃない。いいか、これからレティシアは湯浴みだ。女神の裸を見たら死刑だぞ?」
子供たちがビクリと震える気配がする。レギアスに注意しなきゃと思いつつも、顔を見せられる自信がなくてそのままに任せてしまった。
「何が聞こえても二度と入ってくるな。わかったか?」
「わ、わかりました」
「わかりました!」
姉弟は慌てて返事をすると逃げるように部屋を出ていった。
「全く……子供のしつけができてねえ」
「心配でつい開けてしまったのでしょう? こんなに教育が行き届いているなんて意外なくらいだけれど」
「まあな。でも最初からあいつらノックはしたけど勝手にドアを開けてたぞ? よっぽどレティシアのことが見たくて気になってたみたいだ」
「そうなの? 可愛いわね」
「俺はレティシアしか可愛くない」
そう言うレギアスの顔は全然可愛くない。そろそろと体を離そうとすると手首を掴まれて、いまにもどこかに食いつかれそう。
「レギアス! 湯浴み、湯浴みをするのよね? 私」
「あー……。したいの?」
とりあえず流れを変えようとコクコク頷いてみたけれど、眠りたいと言えばよかったとすぐに気づいた。
タライのお風呂なんて物語で読んだだけで初めて見る。実際はどんなものか体験してはみたいけれど、いまのレギアスに裸を晒すなんて……
「……仕方ないな」
少し考えるようなそぶりを見せてから抱きかかえられた。テーブルの椅子を暖炉側に向けて座らされる。
レギアスはテーブルの上の基礎化粧品をじっと見つめ。
「まあ、普段使ってるのと大差ないな」
そう呟くといつものように私の髪をくくる。目の前で片膝立ちになると手慣れた手つきで化粧を落とし始めた。
「やっぱり、レティシアは素顔が一番綺麗だ」
「私、色が無さすぎてお化粧しないと薄ぼんやりとしているように思うのだけど。レギアスみたいにくっきりとしていればいいのに」
「自分じゃ判らないんだな。美を司る女神だぞ? そのままでも美しすぎるに決まってるだろ」
子供のころからみんなに褒めそやされるけれど、鏡を見てもいまいちよく分からない。
「パーティの日に綺麗だって興奮してたじゃない」
「あれは……いつもとあんまり雰囲気が違ううえに、うなじや珍しく濃い色のドレスと白い肌の対比にそそられて……」
「ふーん」
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「何よそれ……」
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