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忘れる
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これからも、思い出してはここしか吐き出せる場所がなくて、ダラダラと気持ちを綴るんだろう。
SNSを再開した。
前に作ったんだけど、やっぱりやめたくなって消して、でも何かしらの出会いがあった時に、連絡先を交換するのに都合がいいと思って。
SNSに彼女とのことを書いたら、新しい出会いも、可能性が潰えてしまうだろうから、そこには彼女とのことをなるべく書きたくない。
だから、どうしてもここを頼ってしまう。
例え、誰も読んでいなくとも。それでいい。
彼女が、いつも唇がガサガサの私にリップクリームを塗ってくれた。
キスする時に、痛いって。
私はそれが嬉しかった。
「ちゃんと自分でも塗ってよ」って叱られるのがまた、嬉しかった。
元々、唇に何かをつけるのは嫌いだった。
味や香りがないと書かれているやつでも、当然あるからだ。
でも年齢を重ねるのと共に、私の肌も潤いを保てなくなっていたのは実感としてあった。
だから、嫌だったけど、切れて痛くなったら、仕方なく塗っていた。
「今日は塗ったんだよ」とドヤ顔をすると、彼女は褒めてから、また塗り直す。
そのやり取りが、幸せだった。
今は、それを思い出して、頻繁に塗るようになったよ。
だって、新しく出会った人は、彼女みたいに「痛い」って言ってくれないかもしれない。
そしてグリグリと、私の唇にリップクリームを塗ってくれなんかしないかもしれない。
彼女は私の白髪や枝毛を探すのが好きだった。
「お父さんとあなたのしかさわれないよ。人の頭は基本的にさわれない」
少し潔癖気味の彼女は、そう言いながら、気まぐれに、私の頭に触れた。
それは、動物が互いに毛づくろいをするような、誰かと一緒にいて、互いに信頼しているような、そんな触れ合いだった。
たまに何も言わずに髪の毛を引っこ抜かれて、「抜く前にちゃんと言ってよ!」って言うと「へへへ」と笑い、流すのが好きだった。
もちろん、心から言ってほしいと願ってはいるのだけれど、彼女の無邪気さが愛らしかった。
「あなたは白髪が少ないからつまんない」とぶつくさ文句を言って、早々に切り上げてしまった日は、少し寂しい。
特に頭のケアなんかしていなかったけど、彼女というピースを失ってから、私は、自分の体を労るようになって、頭皮マッサージもほとんど毎日するようになった。
あんなに面倒くさがりだったのに。
お皿洗いが大嫌いで、昔一人暮らししてた時は、シンクに、あらゆる食器類が溜まりに溜まっていた。
使える物がなくなる限界まで溜め込んで、一気に洗うのが私の日常だった。
でも彼女と暮らすようになって、私が料理をする日は(ほぼ毎日)彼女がお皿洗いをしてくれるようになった。
彼女が料理をしてくれる日は、私がお皿洗い当番になるのだけれど、私がお皿洗いが嫌いなのを知っているから、彼女が毎回お皿を洗ってくれた。
代わりに彼女が「やりたくない」と言うドライヤーをかけてあげた。
彼女が「疲れた」と言うのが当たり前になって、次第に、私も料理終わりに洗える物はなるべく洗うようになった。
相変わらずお皿洗いは嫌いだったけど、彼女が少しでも楽になるなら…と、洗うようになった。
それが習慣化づいて、今ではちゃんと毎日お皿を洗ってる。
おかげで、すべすべだった指先も、油分がなくなってきた。
そろそろハンドクリームとかを塗るのも視野に入れなければいけない。
だって、もし良い出会いがあったとして、手を繋ぐのはまだいいとして、もし、エッチなことをするってなったら、ガサガサの指じゃ、雰囲気壊しちゃうでしょ。
眉毛や項の毛が伸びてくると、彼女が整えてくれた。
「めんどくさい…」って言うと、「あなたがやるんじゃなくて、私がやってあげるんだから、“めんどくさい”はおかしいでしょ」と、急かすように私を座らせる。
そして丁寧に、いつも真剣なまなざしで、整えてくれる。
たまに目を開けてみたりすると「開けないで」とピシャッと叱られる。
幸せだった。
何回かだけ、終わった後にチュッとキスしてくれたことがあった。
私がせがんだんだったか、それとも自発的にしてくれたのかは覚えていない。
でも、彼女のぬくもりが、大好きだった。
指も、唇も、全て…。
今では、自分で道具も揃えて、自分でするようになった。
頻繁にするわけじゃないけれど、きっと、出会いの場に赴く前日とかには、きちんと整えるのだろう。
彼女との普段のお出かけは、私は髪すら整えるのが面倒で、帽子を被って誤魔化した。
もちろん、特別なデートの日は、ちゃんと整えていたけれど。
何しろ普段は帽子を被るだけで準備が終了するので、私は15分もあれば支度が整う。(15分でも余るくらい)
けれど、彼女はいつも、必ず、どこに行くにしても、メイクをし、髪を整え、どの服を着ようか悩んだ。
私は、その彼女の姿を見るのが好きだった。
何年もパートナーとしてそばにいて、そうやって、必ずお洒落をしてくれるというのは、この上ない幸せだと思う。
そう言うと、彼女は「やりたいからしてるだけだよ」と、はにかみながら答える。
そういうところが、本当に好きだった。
べつに私のためじゃなくていい。
お洒落が好きだから、お洒落をすると気分が上がるから…そんな理由でいい。
ただ、お洒落をする彼女を見るのが好きだった。
いつまでも見ていたい。
いろんな服を着てほしいし、いろんな髪型をしてほしいし、いろんなメイクをしてほしい。
いろんな姿の彼女を、ずっとずっと、ただ見ていられることが、幸せだった。
清楚系な時もあれば、お姉さん風の時もあれば、可愛い系の時もあれば、妖精のような儚げな雰囲気の時もあれば、お姫様みたいに上品さと可愛さを兼ね備えた時もある。
きっと、そんな風にあれる人は、少数派なんじゃなかろうか。
私自身が、どう頑張っても、きっとこればっかりは続けられる気がしないから、余計にそう思う。
それでも、しばらくは…新しいご縁があるまでは、お洒落を頑張り続けなければいけないんだと思うと、少し憂鬱だ。
彼女はしょっちゅう、私の耳掃除をしてくれた。
膝枕で~…なんて、ロマンチックなものではなく、グイッと強引に耳を引っ張られるのだ。
「痛いよ!」って言うと、また彼女は「へへへ」と笑う。
そしてスマホのライトをつけながら、私が間違えてプラスチックの綿棒を買ってくると、いつも「ふにゃふにゃしてやりにくい」とか「見にくい」とか文句を言いながら、ぐりぐりガサガサと耳掃除をしてくれる。
たまに耳に集中しすぎて、スマホのライトを思いっきり私の目に向けられて、「ぎゃー!」ってなった。
私が感覚で「もっと右!」とか「もっと左!」とか指示を出すと「右ってどっち?こっち?」って、ゴソゴソしてくれる。
「もっと優しく!」とか「そこそこそこそこ!」とか、私の言う言葉に反応して、綿棒を動かす。
そうやって、いつも私の耳掃除は共同作業になった。
彼女がいない間に耳が痒くなって自分で耳掃除をした時、大きい耳垢が取れると、彼女は悔しがる。
「なんでひとりで取っちゃうの!!」って。
なんだか、どっちがたくさん、大きい耳垢がとれるかで勝負してるみたいだった。
楽しかった。
そんなくだらない日常が、ただ、楽しかった。
彼女がいなくなってから、ひとりで弄りすぎて、耳から血が出た。
ほとんど毎回、私が家の掃除をしていた。
たまに、気になった時だけ、彼女が掃除機をかけてくれた。
私が掃除機の音が嫌いなのを知っていたから、たぶん、彼女なりの最速のペースで、極力回数を減らして使ってくれていたんだと思う。
(虐待されていた時、母親が掃除をしながら、掃除機をゴンゴン壁にぶつけてストレス発散していたから、それがトラウマみたいになってしまって、掃除機の音が苦手)
私が掃除をする時は、拭き掃除だ。
それで十分。
彼女がいなくなったら、部屋の汚れが目立たなくなるかなって思っていたけど、そんなことはなかった。
普通にホコリはたまるし、私の髪の毛だって、床にたくさん落ちてる。
掃除する頻度は結局変わらないのだと、知った。
彼女は、私の気づかないところの掃除をしてくれる。
気づいていても後回しにしてしまうところとか。
例えば、洗濯機の糸くずフィルターの掃除。
私は、彼女がそこを掃除するまで、存在すら気づいていなかった。
いつも彼女がお風呂場に、綺麗にした糸くずフィルターを並べて乾かしていた。
私は何故か、その光景が好きだった。
糸くずフィルターが並んでいるのを見ると、いつも頬が緩んだ。
「これが誰かと生活するってことだよね」って、思えたからかもしれない。
私はいつも靴を適当に脱ぐ。
もちろん、親しくない人の家にお邪魔する時とかは気をつけるようにしているけれど、親しい間柄の人の家では、適当に脱ぐ。
当然、自分の家なんか適当に決まってる。
それを彼女が、いつも整えてくれた。
スリッパもそうだ。
家ではスリッパを履いているのだけれど、私が乱雑に脱いでいると、いつも彼女が整えてくれた。
それが、どうしようもなく嬉しかった。
乱雑に脱いだ物が、次見た時には綺麗に揃えられている。
これが私の理想の、“丁寧な暮らし”だった。
毎回必ず彼女がしてくれるから、それが彼女から私への愛情だと思った。
いつも、愛を感じていた。
よく、彼女が私のスリッパを履いた。
私は、足の感覚で、自分のスリッパじゃないと履き心地が悪かったから、彼女のスリッパを履くことはなかった。
でも彼女は何も気にならなかったらしく、私のを履いていることにも気づかず過ごす。
「私の履いてるよ!」って言うと「あれー!?ホントだー!」って、慌てて彼女は自分のスリッパに履き替える。
いつも揃えてくれるのに、なんで気づかないんだろうね?
スリッパの色だって、全然違うのに。
そういう矛盾が、可笑しかった。一緒にいて、心地よかった。
本当に、そういう些細な…けれども丁寧な日常が、大好きだった。
「こんなに幸せなことない」って、毎日思ってた。
だから、ずっと大事にしてきた。
大事だった。
大事だったんだ、何よりも。
SNSを再開した。
前に作ったんだけど、やっぱりやめたくなって消して、でも何かしらの出会いがあった時に、連絡先を交換するのに都合がいいと思って。
SNSに彼女とのことを書いたら、新しい出会いも、可能性が潰えてしまうだろうから、そこには彼女とのことをなるべく書きたくない。
だから、どうしてもここを頼ってしまう。
例え、誰も読んでいなくとも。それでいい。
彼女が、いつも唇がガサガサの私にリップクリームを塗ってくれた。
キスする時に、痛いって。
私はそれが嬉しかった。
「ちゃんと自分でも塗ってよ」って叱られるのがまた、嬉しかった。
元々、唇に何かをつけるのは嫌いだった。
味や香りがないと書かれているやつでも、当然あるからだ。
でも年齢を重ねるのと共に、私の肌も潤いを保てなくなっていたのは実感としてあった。
だから、嫌だったけど、切れて痛くなったら、仕方なく塗っていた。
「今日は塗ったんだよ」とドヤ顔をすると、彼女は褒めてから、また塗り直す。
そのやり取りが、幸せだった。
今は、それを思い出して、頻繁に塗るようになったよ。
だって、新しく出会った人は、彼女みたいに「痛い」って言ってくれないかもしれない。
そしてグリグリと、私の唇にリップクリームを塗ってくれなんかしないかもしれない。
彼女は私の白髪や枝毛を探すのが好きだった。
「お父さんとあなたのしかさわれないよ。人の頭は基本的にさわれない」
少し潔癖気味の彼女は、そう言いながら、気まぐれに、私の頭に触れた。
それは、動物が互いに毛づくろいをするような、誰かと一緒にいて、互いに信頼しているような、そんな触れ合いだった。
たまに何も言わずに髪の毛を引っこ抜かれて、「抜く前にちゃんと言ってよ!」って言うと「へへへ」と笑い、流すのが好きだった。
もちろん、心から言ってほしいと願ってはいるのだけれど、彼女の無邪気さが愛らしかった。
「あなたは白髪が少ないからつまんない」とぶつくさ文句を言って、早々に切り上げてしまった日は、少し寂しい。
特に頭のケアなんかしていなかったけど、彼女というピースを失ってから、私は、自分の体を労るようになって、頭皮マッサージもほとんど毎日するようになった。
あんなに面倒くさがりだったのに。
お皿洗いが大嫌いで、昔一人暮らししてた時は、シンクに、あらゆる食器類が溜まりに溜まっていた。
使える物がなくなる限界まで溜め込んで、一気に洗うのが私の日常だった。
でも彼女と暮らすようになって、私が料理をする日は(ほぼ毎日)彼女がお皿洗いをしてくれるようになった。
彼女が料理をしてくれる日は、私がお皿洗い当番になるのだけれど、私がお皿洗いが嫌いなのを知っているから、彼女が毎回お皿を洗ってくれた。
代わりに彼女が「やりたくない」と言うドライヤーをかけてあげた。
彼女が「疲れた」と言うのが当たり前になって、次第に、私も料理終わりに洗える物はなるべく洗うようになった。
相変わらずお皿洗いは嫌いだったけど、彼女が少しでも楽になるなら…と、洗うようになった。
それが習慣化づいて、今ではちゃんと毎日お皿を洗ってる。
おかげで、すべすべだった指先も、油分がなくなってきた。
そろそろハンドクリームとかを塗るのも視野に入れなければいけない。
だって、もし良い出会いがあったとして、手を繋ぐのはまだいいとして、もし、エッチなことをするってなったら、ガサガサの指じゃ、雰囲気壊しちゃうでしょ。
眉毛や項の毛が伸びてくると、彼女が整えてくれた。
「めんどくさい…」って言うと、「あなたがやるんじゃなくて、私がやってあげるんだから、“めんどくさい”はおかしいでしょ」と、急かすように私を座らせる。
そして丁寧に、いつも真剣なまなざしで、整えてくれる。
たまに目を開けてみたりすると「開けないで」とピシャッと叱られる。
幸せだった。
何回かだけ、終わった後にチュッとキスしてくれたことがあった。
私がせがんだんだったか、それとも自発的にしてくれたのかは覚えていない。
でも、彼女のぬくもりが、大好きだった。
指も、唇も、全て…。
今では、自分で道具も揃えて、自分でするようになった。
頻繁にするわけじゃないけれど、きっと、出会いの場に赴く前日とかには、きちんと整えるのだろう。
彼女との普段のお出かけは、私は髪すら整えるのが面倒で、帽子を被って誤魔化した。
もちろん、特別なデートの日は、ちゃんと整えていたけれど。
何しろ普段は帽子を被るだけで準備が終了するので、私は15分もあれば支度が整う。(15分でも余るくらい)
けれど、彼女はいつも、必ず、どこに行くにしても、メイクをし、髪を整え、どの服を着ようか悩んだ。
私は、その彼女の姿を見るのが好きだった。
何年もパートナーとしてそばにいて、そうやって、必ずお洒落をしてくれるというのは、この上ない幸せだと思う。
そう言うと、彼女は「やりたいからしてるだけだよ」と、はにかみながら答える。
そういうところが、本当に好きだった。
べつに私のためじゃなくていい。
お洒落が好きだから、お洒落をすると気分が上がるから…そんな理由でいい。
ただ、お洒落をする彼女を見るのが好きだった。
いつまでも見ていたい。
いろんな服を着てほしいし、いろんな髪型をしてほしいし、いろんなメイクをしてほしい。
いろんな姿の彼女を、ずっとずっと、ただ見ていられることが、幸せだった。
清楚系な時もあれば、お姉さん風の時もあれば、可愛い系の時もあれば、妖精のような儚げな雰囲気の時もあれば、お姫様みたいに上品さと可愛さを兼ね備えた時もある。
きっと、そんな風にあれる人は、少数派なんじゃなかろうか。
私自身が、どう頑張っても、きっとこればっかりは続けられる気がしないから、余計にそう思う。
それでも、しばらくは…新しいご縁があるまでは、お洒落を頑張り続けなければいけないんだと思うと、少し憂鬱だ。
彼女はしょっちゅう、私の耳掃除をしてくれた。
膝枕で~…なんて、ロマンチックなものではなく、グイッと強引に耳を引っ張られるのだ。
「痛いよ!」って言うと、また彼女は「へへへ」と笑う。
そしてスマホのライトをつけながら、私が間違えてプラスチックの綿棒を買ってくると、いつも「ふにゃふにゃしてやりにくい」とか「見にくい」とか文句を言いながら、ぐりぐりガサガサと耳掃除をしてくれる。
たまに耳に集中しすぎて、スマホのライトを思いっきり私の目に向けられて、「ぎゃー!」ってなった。
私が感覚で「もっと右!」とか「もっと左!」とか指示を出すと「右ってどっち?こっち?」って、ゴソゴソしてくれる。
「もっと優しく!」とか「そこそこそこそこ!」とか、私の言う言葉に反応して、綿棒を動かす。
そうやって、いつも私の耳掃除は共同作業になった。
彼女がいない間に耳が痒くなって自分で耳掃除をした時、大きい耳垢が取れると、彼女は悔しがる。
「なんでひとりで取っちゃうの!!」って。
なんだか、どっちがたくさん、大きい耳垢がとれるかで勝負してるみたいだった。
楽しかった。
そんなくだらない日常が、ただ、楽しかった。
彼女がいなくなってから、ひとりで弄りすぎて、耳から血が出た。
ほとんど毎回、私が家の掃除をしていた。
たまに、気になった時だけ、彼女が掃除機をかけてくれた。
私が掃除機の音が嫌いなのを知っていたから、たぶん、彼女なりの最速のペースで、極力回数を減らして使ってくれていたんだと思う。
(虐待されていた時、母親が掃除をしながら、掃除機をゴンゴン壁にぶつけてストレス発散していたから、それがトラウマみたいになってしまって、掃除機の音が苦手)
私が掃除をする時は、拭き掃除だ。
それで十分。
彼女がいなくなったら、部屋の汚れが目立たなくなるかなって思っていたけど、そんなことはなかった。
普通にホコリはたまるし、私の髪の毛だって、床にたくさん落ちてる。
掃除する頻度は結局変わらないのだと、知った。
彼女は、私の気づかないところの掃除をしてくれる。
気づいていても後回しにしてしまうところとか。
例えば、洗濯機の糸くずフィルターの掃除。
私は、彼女がそこを掃除するまで、存在すら気づいていなかった。
いつも彼女がお風呂場に、綺麗にした糸くずフィルターを並べて乾かしていた。
私は何故か、その光景が好きだった。
糸くずフィルターが並んでいるのを見ると、いつも頬が緩んだ。
「これが誰かと生活するってことだよね」って、思えたからかもしれない。
私はいつも靴を適当に脱ぐ。
もちろん、親しくない人の家にお邪魔する時とかは気をつけるようにしているけれど、親しい間柄の人の家では、適当に脱ぐ。
当然、自分の家なんか適当に決まってる。
それを彼女が、いつも整えてくれた。
スリッパもそうだ。
家ではスリッパを履いているのだけれど、私が乱雑に脱いでいると、いつも彼女が整えてくれた。
それが、どうしようもなく嬉しかった。
乱雑に脱いだ物が、次見た時には綺麗に揃えられている。
これが私の理想の、“丁寧な暮らし”だった。
毎回必ず彼女がしてくれるから、それが彼女から私への愛情だと思った。
いつも、愛を感じていた。
よく、彼女が私のスリッパを履いた。
私は、足の感覚で、自分のスリッパじゃないと履き心地が悪かったから、彼女のスリッパを履くことはなかった。
でも彼女は何も気にならなかったらしく、私のを履いていることにも気づかず過ごす。
「私の履いてるよ!」って言うと「あれー!?ホントだー!」って、慌てて彼女は自分のスリッパに履き替える。
いつも揃えてくれるのに、なんで気づかないんだろうね?
スリッパの色だって、全然違うのに。
そういう矛盾が、可笑しかった。一緒にいて、心地よかった。
本当に、そういう些細な…けれども丁寧な日常が、大好きだった。
「こんなに幸せなことない」って、毎日思ってた。
だから、ずっと大事にしてきた。
大事だった。
大事だったんだ、何よりも。
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