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8.閑話
54.永那 中3 夏《如月梓編》
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お母さんに「いい加減、塾に行きなさい!」と言われて、駅前の塾を眺めていた。
友達に相談したら「入塾体験してるところもあるよ」と教えてもらったから、勇気を出して申し込んでみた。
自分の勉強の出来なさが恥ずかしくて、友達と同じ塾は避けたかった。
だから、少し離れた…でも、なんとか自転車で行ける距離にある駅の塾に申し込んだ。
ボーッと突っ立っていたから、人と肩がぶつかった。
「すみません!」
「わ、ごめんなさい」
見た瞬間、綺麗な人だと思った。
制服を着ていたから、きっと私と同じ中学生なんだろうけど…すごく大人っぽくて、私とは全然違う世界の人に見えた。
その人は友達と一緒にいて、後ろを歩いていくと、受付で“入塾体験に来た”と言っていた。
私と、同じ…。
すぐ後ろにいたから、受付の人に、私も2人の友達だと勘違いされてしまった。
それで…同じクラス、隣の席になって、ドキドキした。
でも授業が始まると、その人はウトウトし始めて、最後には寝てしまった。
「永那!なんで寝るの!?ウチが恥ずかしいじゃん!」
“永那”と呼ばれたその人は、「ごめんごめん」と笑った。
「あ、ごめんね?」
私を見て、へへへと彼女が笑った。
「い、いえ!私は…全然…」
授業後、私達は授業の感想を聞かれたり、入塾するための資料をもらったり、説明をされたりしてから塾を出た。
「あ~、塾とかダルい~めんどい~」
「んじゃ行かなきゃいいじゃん」
「“行かなきゃいいじゃん”で行かずに済むなら、ウチだってそうしたいよ!」
「ふーん」
「ハァ…永那はなんで成績良いの…バカなのに…」
「そもそも人間の出来が違うんだよ」
「うざ…」
「入塾体験なんかに付き合ってあげた私に向かって“うざ”とはなんだ!!感謝の一言くらい言え!バカたれ!」
「あーはいはい、どうもありがとうございます」
2人の会話が面白くて、私はつい笑った。
「あ、えーっと…」
「如月 梓ちゃん、だよ…ね?」
急に名前を呼ばれて、微笑まれて、ドキッとした。
「永那…なんで名前知ってんの…」
「さっき受付で言ってたじゃん」
「ハァ…これだから無駄に記憶力良い奴は…」
「無駄って言うな!私は天才なんだ!」
「はいはい。…それで、梓?は、どこ中なの?」
私が中学校を言うと、2人も教えてくれた。
自己紹介もしてくれて、私は自転車を押して、途中まで一緒に歩いた。
「梓は、あの塾行くー?」
「ど、どうかな…?2人は?」
「私は行かないよ」
永那が即答する。
「こいつの付き合いで来ただけだからね」
ちょっと…残念…。
「ウチはどうしよっかな~…行ったってどうせ出来ないっつーの」
「じゃあやめとけやめとけ~!」
「なんだと!コラ!」
2人が絡み合って、楽しそうに笑ってる。
「あの…私、こっちだから…」
「おー!じゃあねー、梓!」
“ちゃん”付けがなくなって、永那に呼ばれると、ドキドキした。
それからしばらく、永那のことが忘れられなかった。
お母さんには怒られたけど、私は結局入塾しなかった。
「図書館に行ってくる」と言って、永那達の中学校の近くまで何度か行って、永那を探した。
永那は…すぐに見つかった。
すごく目立っていたし、隣に、芸能人みたいに綺麗な子を連れていたから。
その子は永那の腕に抱きついて、楽しそうに笑っていた。
あの2人を、お似合いだと思わないほうがおかしい。
彼女達を見ていたくて、つい後をつけた。
自転車で行ける距離に、こんな人達がいたなんて思うと、興奮した。
ある日「誰?」と永那が振り向いた。
咄嗟に電柱の裏に隠れたけど、永那の足音が聞こえて、体が強張った。
「おい、いい加減に…って…あれ?」
恐る恐る顔を上げると、永那が目を見開いていた。
「えっと…あ!梓、だっけ?」
「…あ、うん」
名前を覚えていてもらえたことが嬉しい。
「千陽、ストーカーじゃなかった!知り合いだった!」
ストーカー!?
あ…そっか…。
私、ストーカーみたいなことしてたんだ…。
冷や汗がタラタラと落ちていく。
“千陽”と呼ばれた子が永那の隣に立つ。
「どんな知り合い?」
「ほら、前に入塾体験行くって言ったじゃん?そのとき知り合った子」
「ふーん」
千陽は、永那と2人きりのときに見せる笑顔なんて全く見せず、冷え切った視線が私に突き刺さる。
「梓、どうしたの?こんなところで。ビビるじゃん」
「あっ、ご、ごめんね!…あの、永那に…会いたくて」
カーッと顔が熱くなっていく。
「私に?」
永那が優しく笑う。
「永那のストーカーじゃん」
千陽が冷たく言い放つ。
ドキッとした。
…たしかに、ここ最近、ずっと永那を見に来ていた。
でも、ストーカーのつもりなんか全然なくて…。
「いやいや、千陽?たまたま今日は梓だったけど、昨日までのは違う人でしょ」
あ、れ…?昨日…。昨日も…私…。
「どうだか…」
「ねえ?」
永那に聞かれて、「あ…うん…」としか答えられなかった。
「それで、私に何か用あった?」
「よ、用事は…特に、ないんだけど…」
頭が真っ白になる。
私、なんてことしていたんだろう!?って、今更思う。
ただ、永那に会いたくて…永那を、見ていたくて…。
友達に相談したら「入塾体験してるところもあるよ」と教えてもらったから、勇気を出して申し込んでみた。
自分の勉強の出来なさが恥ずかしくて、友達と同じ塾は避けたかった。
だから、少し離れた…でも、なんとか自転車で行ける距離にある駅の塾に申し込んだ。
ボーッと突っ立っていたから、人と肩がぶつかった。
「すみません!」
「わ、ごめんなさい」
見た瞬間、綺麗な人だと思った。
制服を着ていたから、きっと私と同じ中学生なんだろうけど…すごく大人っぽくて、私とは全然違う世界の人に見えた。
その人は友達と一緒にいて、後ろを歩いていくと、受付で“入塾体験に来た”と言っていた。
私と、同じ…。
すぐ後ろにいたから、受付の人に、私も2人の友達だと勘違いされてしまった。
それで…同じクラス、隣の席になって、ドキドキした。
でも授業が始まると、その人はウトウトし始めて、最後には寝てしまった。
「永那!なんで寝るの!?ウチが恥ずかしいじゃん!」
“永那”と呼ばれたその人は、「ごめんごめん」と笑った。
「あ、ごめんね?」
私を見て、へへへと彼女が笑った。
「い、いえ!私は…全然…」
授業後、私達は授業の感想を聞かれたり、入塾するための資料をもらったり、説明をされたりしてから塾を出た。
「あ~、塾とかダルい~めんどい~」
「んじゃ行かなきゃいいじゃん」
「“行かなきゃいいじゃん”で行かずに済むなら、ウチだってそうしたいよ!」
「ふーん」
「ハァ…永那はなんで成績良いの…バカなのに…」
「そもそも人間の出来が違うんだよ」
「うざ…」
「入塾体験なんかに付き合ってあげた私に向かって“うざ”とはなんだ!!感謝の一言くらい言え!バカたれ!」
「あーはいはい、どうもありがとうございます」
2人の会話が面白くて、私はつい笑った。
「あ、えーっと…」
「如月 梓ちゃん、だよ…ね?」
急に名前を呼ばれて、微笑まれて、ドキッとした。
「永那…なんで名前知ってんの…」
「さっき受付で言ってたじゃん」
「ハァ…これだから無駄に記憶力良い奴は…」
「無駄って言うな!私は天才なんだ!」
「はいはい。…それで、梓?は、どこ中なの?」
私が中学校を言うと、2人も教えてくれた。
自己紹介もしてくれて、私は自転車を押して、途中まで一緒に歩いた。
「梓は、あの塾行くー?」
「ど、どうかな…?2人は?」
「私は行かないよ」
永那が即答する。
「こいつの付き合いで来ただけだからね」
ちょっと…残念…。
「ウチはどうしよっかな~…行ったってどうせ出来ないっつーの」
「じゃあやめとけやめとけ~!」
「なんだと!コラ!」
2人が絡み合って、楽しそうに笑ってる。
「あの…私、こっちだから…」
「おー!じゃあねー、梓!」
“ちゃん”付けがなくなって、永那に呼ばれると、ドキドキした。
それからしばらく、永那のことが忘れられなかった。
お母さんには怒られたけど、私は結局入塾しなかった。
「図書館に行ってくる」と言って、永那達の中学校の近くまで何度か行って、永那を探した。
永那は…すぐに見つかった。
すごく目立っていたし、隣に、芸能人みたいに綺麗な子を連れていたから。
その子は永那の腕に抱きついて、楽しそうに笑っていた。
あの2人を、お似合いだと思わないほうがおかしい。
彼女達を見ていたくて、つい後をつけた。
自転車で行ける距離に、こんな人達がいたなんて思うと、興奮した。
ある日「誰?」と永那が振り向いた。
咄嗟に電柱の裏に隠れたけど、永那の足音が聞こえて、体が強張った。
「おい、いい加減に…って…あれ?」
恐る恐る顔を上げると、永那が目を見開いていた。
「えっと…あ!梓、だっけ?」
「…あ、うん」
名前を覚えていてもらえたことが嬉しい。
「千陽、ストーカーじゃなかった!知り合いだった!」
ストーカー!?
あ…そっか…。
私、ストーカーみたいなことしてたんだ…。
冷や汗がタラタラと落ちていく。
“千陽”と呼ばれた子が永那の隣に立つ。
「どんな知り合い?」
「ほら、前に入塾体験行くって言ったじゃん?そのとき知り合った子」
「ふーん」
千陽は、永那と2人きりのときに見せる笑顔なんて全く見せず、冷え切った視線が私に突き刺さる。
「梓、どうしたの?こんなところで。ビビるじゃん」
「あっ、ご、ごめんね!…あの、永那に…会いたくて」
カーッと顔が熱くなっていく。
「私に?」
永那が優しく笑う。
「永那のストーカーじゃん」
千陽が冷たく言い放つ。
ドキッとした。
…たしかに、ここ最近、ずっと永那を見に来ていた。
でも、ストーカーのつもりなんか全然なくて…。
「いやいや、千陽?たまたま今日は梓だったけど、昨日までのは違う人でしょ」
あ、れ…?昨日…。昨日も…私…。
「どうだか…」
「ねえ?」
永那に聞かれて、「あ…うん…」としか答えられなかった。
「それで、私に何か用あった?」
「よ、用事は…特に、ないんだけど…」
頭が真っ白になる。
私、なんてことしていたんだろう!?って、今更思う。
ただ、永那に会いたくて…永那を、見ていたくて…。
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