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7.向
429.期待
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「午後もあるんだよね?スケジュール、いきなりハードだなあ」
「永那ちゃん、ギブアップする?」
「しないよ?」
彼女が左眉を上げながら言う。
パスタをテーブルに置くと、「わ!うまそ!」と反応してくれる。
「市販のソースだけど」
「いいよいいよ!嬉しい!ありがとう!」
「うん。いただきます」
「いただきまーす!」
口の周りがソースで赤くなっているから、ティッシュで拭いてあげる。
「ありがと」
嬉しそうに彼女が笑って、抱きしめられた。
「あ~!幸せ!今日から穂と毎日一緒にいられる!めちゃくちゃ幸せ!」
「私も」
午後の授業が始まり、かなり耐えていたけれど、永那ちゃんは眠気に勝てそうになかった。
4時頃授業が終わり、片付けをしていると、彼女が目を覚ました。
そんなに大きな音を出しているつもりはない…むしろ、永那ちゃんを起こさないようにそーっと動いているつもりなのに、お昼の時も今も、少しの音で彼女は起きる。
「ごめんね、起こしちゃって」
「ううん。また寝ちゃってた…」
「しょうがないよ。昨日眠れなかったんでしょ?」
「うん…」
彼女が落ち込んでいるから、そっと口づけした。
キラキラと彼女の目が輝く。
「…する?」
「え!?」
永那ちゃんは歯を見せるように口角を上げ、鼻の穴を膨らませる。
「穂~!!可愛い!!好き!!」
抱きつかれて、2人して床に倒れる。
チュッチュッとそこかしこにキスの雨が降らされ、くすぐったくて身を捩る。
「永那ちゃんっ、くすぐったいっ」
「だって可愛すぎんだもん」
“だって”はよくわからないけど、やめてくれる気配はない。
「好き、穂…好き、大好き」
「私も、永那ちゃん大好き」
彼女にギュッと抱きしめられる。
私も背に手を回して、抱きしめる。
「ハァ、ハァ」と彼女の熱い吐息が首筋にかかる。
これも少しくすぐったい。
「好き」
「私も」
「穂、舐めて?」
「うん」
永那ちゃんからなんて、私の生理の時以外、初めてだ。
「あ」
「ん?」
「その前に、キスしよ」
「うん」
少し戸惑いつつ、彼女に言われるまま、する。
舌が入ってくるけど、カチカチと歯が当たる。
歯が当たりすぎて、全然集中できない。
彼女の呼吸が荒い。
「え、永那ちゃん…?大丈夫?」
「なにが?」
「熱、ないよね?」
額に手を当てるけど、熱はなさそう。
「なに?」
「な、なんか、いつもの永那ちゃんと違う気がして」
彼女の左の口角が、上がりきらずに、ピクピクと動く。
「別の人格が乗り移ってるのかも」
「誰が入ってるの?」
ニィッと彼女が笑う。
「怪獣」
「怪獣さんですか」
「好き」
「私も好きだよ、永那ちゃん」
「永那じゃないよ?」
「怪獣さん」
首筋を噛まれる。
ちょっとだけ痛い…。
怪獣だから仕方ないのかな…?
「バンパイアかも」
「えーっと、吸血鬼?」
どんなだったっけ?
人の血を吸う妖怪?
「私、血、吸われるの?」
「穂の血、飲みたい」
「大変だ」
「穂の瞳、舐めたい」
「ダメ」
ガブッと首を噛まれて、目を瞑る。
チューッと吸う音がする。
これは…痕がつきそうだ…。
「穂」
彼女が上半身を起こして、潤んだ瞳を私に向ける。
「どうしたの?」
「寂しい…」
「どうして?」
「穂と…一緒に…いたい…」
「いるよ?」
「前に、戻りたい…」
「お母さんが、帰ってくる前?」
コクリと頷く。
…永那ちゃん、本当に、疲れちゃったんだろうな。
昨日のお母さんの感じが、毎日のようにあったのだとすれば、辛いに決まってる。
前はもっと酷かったのだと思うと、永那ちゃんの苦労が計り知れなくて、どうしてあげればいいのか、わからない。
彼女の太ももの傷、お母さんに包丁で刺されたと言っていた。
どれだけ暴れたら、そんなことになるのだろう…。
ポタッポタッと彼女の涙が私に落ちてきた。
手を伸ばして、彼女の頭を抱く。
「春休みは、毎日一緒にいよう?ね?…私、帰る時、永那ちゃんの家まで一緒に行くよ?」
彼女が首を横に振る。
「そんなの、申し訳ないから、しなくていい」
「私が一緒にいたいんだよ?初めてデートした日、覚えてる?」
今度は縦に振る。
「あの日、もう遅かったのに、永那ちゃん、わざわざ私の家まで送ってくれたんだよ?後で私が謝ったら、“私が一緒にいたかったから”って言ってくれた。それと同じ」
「でも…もし穂に何かあったら…」
心配性だなあ…。
「大丈夫だよ。そんなに遅い時間なわけでもないんだから」
「ただいまー」
「お、おかえり!」
時計を見ると、まだ5時前だった。
永那ちゃんがどいてくれないので、床に寝転んだままの状態を誉に見られる。
「…ごめん」
誉が目をそらし、頭をポリポリ掻いた。
「な、なんで謝るの!?べ、べつに…謝る必要なんて…」
「雨降ってきちゃってさ?公園にいたんだけど、解散するかってなって、帰ってきた」
「雨?」
薄い灰色の雲が窓から見えた。
雨までは見えない。
「どっかで時間潰そうかと思ったんだけど、今金欠で…」
月末だから、月初めに渡されたお小遣いはほとんど残ってないか…。
「永那ちゃん、ギブアップする?」
「しないよ?」
彼女が左眉を上げながら言う。
パスタをテーブルに置くと、「わ!うまそ!」と反応してくれる。
「市販のソースだけど」
「いいよいいよ!嬉しい!ありがとう!」
「うん。いただきます」
「いただきまーす!」
口の周りがソースで赤くなっているから、ティッシュで拭いてあげる。
「ありがと」
嬉しそうに彼女が笑って、抱きしめられた。
「あ~!幸せ!今日から穂と毎日一緒にいられる!めちゃくちゃ幸せ!」
「私も」
午後の授業が始まり、かなり耐えていたけれど、永那ちゃんは眠気に勝てそうになかった。
4時頃授業が終わり、片付けをしていると、彼女が目を覚ました。
そんなに大きな音を出しているつもりはない…むしろ、永那ちゃんを起こさないようにそーっと動いているつもりなのに、お昼の時も今も、少しの音で彼女は起きる。
「ごめんね、起こしちゃって」
「ううん。また寝ちゃってた…」
「しょうがないよ。昨日眠れなかったんでしょ?」
「うん…」
彼女が落ち込んでいるから、そっと口づけした。
キラキラと彼女の目が輝く。
「…する?」
「え!?」
永那ちゃんは歯を見せるように口角を上げ、鼻の穴を膨らませる。
「穂~!!可愛い!!好き!!」
抱きつかれて、2人して床に倒れる。
チュッチュッとそこかしこにキスの雨が降らされ、くすぐったくて身を捩る。
「永那ちゃんっ、くすぐったいっ」
「だって可愛すぎんだもん」
“だって”はよくわからないけど、やめてくれる気配はない。
「好き、穂…好き、大好き」
「私も、永那ちゃん大好き」
彼女にギュッと抱きしめられる。
私も背に手を回して、抱きしめる。
「ハァ、ハァ」と彼女の熱い吐息が首筋にかかる。
これも少しくすぐったい。
「好き」
「私も」
「穂、舐めて?」
「うん」
永那ちゃんからなんて、私の生理の時以外、初めてだ。
「あ」
「ん?」
「その前に、キスしよ」
「うん」
少し戸惑いつつ、彼女に言われるまま、する。
舌が入ってくるけど、カチカチと歯が当たる。
歯が当たりすぎて、全然集中できない。
彼女の呼吸が荒い。
「え、永那ちゃん…?大丈夫?」
「なにが?」
「熱、ないよね?」
額に手を当てるけど、熱はなさそう。
「なに?」
「な、なんか、いつもの永那ちゃんと違う気がして」
彼女の左の口角が、上がりきらずに、ピクピクと動く。
「別の人格が乗り移ってるのかも」
「誰が入ってるの?」
ニィッと彼女が笑う。
「怪獣」
「怪獣さんですか」
「好き」
「私も好きだよ、永那ちゃん」
「永那じゃないよ?」
「怪獣さん」
首筋を噛まれる。
ちょっとだけ痛い…。
怪獣だから仕方ないのかな…?
「バンパイアかも」
「えーっと、吸血鬼?」
どんなだったっけ?
人の血を吸う妖怪?
「私、血、吸われるの?」
「穂の血、飲みたい」
「大変だ」
「穂の瞳、舐めたい」
「ダメ」
ガブッと首を噛まれて、目を瞑る。
チューッと吸う音がする。
これは…痕がつきそうだ…。
「穂」
彼女が上半身を起こして、潤んだ瞳を私に向ける。
「どうしたの?」
「寂しい…」
「どうして?」
「穂と…一緒に…いたい…」
「いるよ?」
「前に、戻りたい…」
「お母さんが、帰ってくる前?」
コクリと頷く。
…永那ちゃん、本当に、疲れちゃったんだろうな。
昨日のお母さんの感じが、毎日のようにあったのだとすれば、辛いに決まってる。
前はもっと酷かったのだと思うと、永那ちゃんの苦労が計り知れなくて、どうしてあげればいいのか、わからない。
彼女の太ももの傷、お母さんに包丁で刺されたと言っていた。
どれだけ暴れたら、そんなことになるのだろう…。
ポタッポタッと彼女の涙が私に落ちてきた。
手を伸ばして、彼女の頭を抱く。
「春休みは、毎日一緒にいよう?ね?…私、帰る時、永那ちゃんの家まで一緒に行くよ?」
彼女が首を横に振る。
「そんなの、申し訳ないから、しなくていい」
「私が一緒にいたいんだよ?初めてデートした日、覚えてる?」
今度は縦に振る。
「あの日、もう遅かったのに、永那ちゃん、わざわざ私の家まで送ってくれたんだよ?後で私が謝ったら、“私が一緒にいたかったから”って言ってくれた。それと同じ」
「でも…もし穂に何かあったら…」
心配性だなあ…。
「大丈夫だよ。そんなに遅い時間なわけでもないんだから」
「ただいまー」
「お、おかえり!」
時計を見ると、まだ5時前だった。
永那ちゃんがどいてくれないので、床に寝転んだままの状態を誉に見られる。
「…ごめん」
誉が目をそらし、頭をポリポリ掻いた。
「な、なんで謝るの!?べ、べつに…謝る必要なんて…」
「雨降ってきちゃってさ?公園にいたんだけど、解散するかってなって、帰ってきた」
「雨?」
薄い灰色の雲が窓から見えた。
雨までは見えない。
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