524 / 595
8.閑話
39.永那 中2 夏《野々村風美編》
しおりを挟む
「ふ~みっ」
席について授業の準備をしていると、友人に後ろから抱きつかれた。
毎日のようにされているから、驚くこともない。
「おはよ」
「おはー。今日どしたん?珍しいじゃん、遅刻ギリギリなんて」
苦笑する。
「昨日あんまり眠れなくて…寝坊しちゃったの」
「へー、超珍しい」
彼女が私の首筋に顔をうずめて、鼻息を荒くする。
「くすぐったいよ」
「風美は相変わらず良い匂いですな~」
「やーめーて」
「なんで彼氏できないんですかねー?」
彼氏ね…。
筆箱のジッパーを開けて、シャープペンを出す。
小さく息を吐く。
「そういう君は、恋人いるんですかー?」
「えへへ~、いません!生まれてこのかた、告白されたこともしたこともありません!」
3年生になってから、恒例のやり取り。
「いいな~、風美はモテて。ウチにも、そのモテを分けてくんないかな~」
「モテてないってば」
「またまた~謙遜しちゃって」
私は1度だけ、告白されたことがある。
中学2年生、最後の授業が終わった日の放課後。
全然話したこともない男子で驚いたけど、もっと驚いたのは、実は友人がその男子のことを好きだったのだと知ったこと。
…実際に彼を好きなのか聞いたわけじゃないから確証はないけど、ただ、なんとなく、そう思った。
だって彼女が、泣いていたから。
お断りした後、メッセージが送られてきた。
『さっき聞いたんだけど、告られたって、マジ?』
『え、誰に聞いたの?』
告白してくれた男子本人から聞いたのだと返事が来た。
実は前から恋愛相談に乗っていたのだと。
元々友人には告白されたことを話すつもりだったから、校内を探した。
どうせ話すなら、メッセージじゃなくて直接話したかった。
話して、笑い合いたかった。
教室にはいなかった。
クラスメイトに聞いたら“トイレに行った”と言われ、トイレを覗いてみたけど、いなかった。
当てがあったわけではないけれど、なんとなく、1階のトイレに行ってみた。
鼻を啜る音が聞こえた。
1番奥の個室のドアが閉まっていた。
壁に寄りかかって、試しにメッセージを送る。
バイブ音がトイレに鳴り響いて、彼女がそこにいるのだと確信した。
彼女が嗚咽を漏らす。
その声で、やっぱり彼女がそこにいて、泣いているのだとわかった。
そして、初めて知ったんだ。
私の友人は、彼が好きだったのだと。
結局私はトイレから立ち去って、知らないフリをした。
翌日の終業式、友人は普段通りのお調子者だった。
肩を組まれて「よっ、ウチらのスター!」なんて言われた。
いつも4人で行動してたから、他の2人は最初、なんのことか全くわかっていなかった。
彼女が説明すると、3人で騒いだ。
なにしろ3人とも、1度もそういった恋愛ごとには縁がなかったから。
芽衣がよく、私に話しにクラスに来た。
芽衣はモテるから、その度に男子に話しかけられていた。
その様子を見て、いつも4人で“どうしてこうも、モテる人と非モテで差がつくんだろうね?”なんて傷を舐め合って笑った。
私達が恋愛話をするのはその時くらいで、好きな人がいるのかどうかなんて、お互いに聞いたことはなかった。
だから、彼女が泣いた時、後悔した。もっと話しておけばよかったって。
“私、好きな人いるよ”って、言っておけばよかったって、後悔した。
でも…私が永那を好きだと初めて自覚した時、“言えない”と思ってしまった。
理由はいろいろあった。
後輩であること、永那が女の子であること、なにより、初めての恋を茶化されるのではないかと恐れてしまったこと。
永那と芽衣が触れ合えば触れ合うほど、胸が苦しくて、痛くて仕方なかった。
ある時から、軽音部の男子が永那と仲良くしようとすると、明らかに芽衣は邪魔するように割って入るようになった。
“芽衣も永那が好きなの…?”って思ったけど、“いや、まさか…”とも思った。
でも、2人を見れば見るほど、まるで恋人みたいで、もっと苦しくなった。
その苦しみを、笑われたくないと思った。
友人達が、悪気なく笑う姿が想像できてしまった。
4人でいる時はいつも、私はいじられる側だったから、鮮明にイメージできてしまった。
だから言えなかった。
もしかしたら友人も、同じように、そう思ったのかもしれない。
だから私に“好きな人がいる”と、言えなかったのかもしれない。
修了式が終わって、春休みが来て、何日か4人で遊んだけど、真面目に恋愛の話をする機会なんてなかった。
だっていつも4人で集まると好きなバンドの話になるし、それ以外はひたすらふざけ倒しているから。
3年生になって、友人が冗談半分に私のモテいじりを始めて、余計、話せなくなった。
だけど、もう、いい加減話さないと。
この中途半端ないじりも、いい加減やめてほしい。
「ねえ」
「ん~?」
「今日、帰りになんか食べてかない?」
「お!いいねえ!2人も誘う?」
「たまには2人きりでもいいんじゃない?」
「お!?デートか!?」
つい、口元が緩む。
「そ。デート」
「おっけ~」
席について授業の準備をしていると、友人に後ろから抱きつかれた。
毎日のようにされているから、驚くこともない。
「おはよ」
「おはー。今日どしたん?珍しいじゃん、遅刻ギリギリなんて」
苦笑する。
「昨日あんまり眠れなくて…寝坊しちゃったの」
「へー、超珍しい」
彼女が私の首筋に顔をうずめて、鼻息を荒くする。
「くすぐったいよ」
「風美は相変わらず良い匂いですな~」
「やーめーて」
「なんで彼氏できないんですかねー?」
彼氏ね…。
筆箱のジッパーを開けて、シャープペンを出す。
小さく息を吐く。
「そういう君は、恋人いるんですかー?」
「えへへ~、いません!生まれてこのかた、告白されたこともしたこともありません!」
3年生になってから、恒例のやり取り。
「いいな~、風美はモテて。ウチにも、そのモテを分けてくんないかな~」
「モテてないってば」
「またまた~謙遜しちゃって」
私は1度だけ、告白されたことがある。
中学2年生、最後の授業が終わった日の放課後。
全然話したこともない男子で驚いたけど、もっと驚いたのは、実は友人がその男子のことを好きだったのだと知ったこと。
…実際に彼を好きなのか聞いたわけじゃないから確証はないけど、ただ、なんとなく、そう思った。
だって彼女が、泣いていたから。
お断りした後、メッセージが送られてきた。
『さっき聞いたんだけど、告られたって、マジ?』
『え、誰に聞いたの?』
告白してくれた男子本人から聞いたのだと返事が来た。
実は前から恋愛相談に乗っていたのだと。
元々友人には告白されたことを話すつもりだったから、校内を探した。
どうせ話すなら、メッセージじゃなくて直接話したかった。
話して、笑い合いたかった。
教室にはいなかった。
クラスメイトに聞いたら“トイレに行った”と言われ、トイレを覗いてみたけど、いなかった。
当てがあったわけではないけれど、なんとなく、1階のトイレに行ってみた。
鼻を啜る音が聞こえた。
1番奥の個室のドアが閉まっていた。
壁に寄りかかって、試しにメッセージを送る。
バイブ音がトイレに鳴り響いて、彼女がそこにいるのだと確信した。
彼女が嗚咽を漏らす。
その声で、やっぱり彼女がそこにいて、泣いているのだとわかった。
そして、初めて知ったんだ。
私の友人は、彼が好きだったのだと。
結局私はトイレから立ち去って、知らないフリをした。
翌日の終業式、友人は普段通りのお調子者だった。
肩を組まれて「よっ、ウチらのスター!」なんて言われた。
いつも4人で行動してたから、他の2人は最初、なんのことか全くわかっていなかった。
彼女が説明すると、3人で騒いだ。
なにしろ3人とも、1度もそういった恋愛ごとには縁がなかったから。
芽衣がよく、私に話しにクラスに来た。
芽衣はモテるから、その度に男子に話しかけられていた。
その様子を見て、いつも4人で“どうしてこうも、モテる人と非モテで差がつくんだろうね?”なんて傷を舐め合って笑った。
私達が恋愛話をするのはその時くらいで、好きな人がいるのかどうかなんて、お互いに聞いたことはなかった。
だから、彼女が泣いた時、後悔した。もっと話しておけばよかったって。
“私、好きな人いるよ”って、言っておけばよかったって、後悔した。
でも…私が永那を好きだと初めて自覚した時、“言えない”と思ってしまった。
理由はいろいろあった。
後輩であること、永那が女の子であること、なにより、初めての恋を茶化されるのではないかと恐れてしまったこと。
永那と芽衣が触れ合えば触れ合うほど、胸が苦しくて、痛くて仕方なかった。
ある時から、軽音部の男子が永那と仲良くしようとすると、明らかに芽衣は邪魔するように割って入るようになった。
“芽衣も永那が好きなの…?”って思ったけど、“いや、まさか…”とも思った。
でも、2人を見れば見るほど、まるで恋人みたいで、もっと苦しくなった。
その苦しみを、笑われたくないと思った。
友人達が、悪気なく笑う姿が想像できてしまった。
4人でいる時はいつも、私はいじられる側だったから、鮮明にイメージできてしまった。
だから言えなかった。
もしかしたら友人も、同じように、そう思ったのかもしれない。
だから私に“好きな人がいる”と、言えなかったのかもしれない。
修了式が終わって、春休みが来て、何日か4人で遊んだけど、真面目に恋愛の話をする機会なんてなかった。
だっていつも4人で集まると好きなバンドの話になるし、それ以外はひたすらふざけ倒しているから。
3年生になって、友人が冗談半分に私のモテいじりを始めて、余計、話せなくなった。
だけど、もう、いい加減話さないと。
この中途半端ないじりも、いい加減やめてほしい。
「ねえ」
「ん~?」
「今日、帰りになんか食べてかない?」
「お!いいねえ!2人も誘う?」
「たまには2人きりでもいいんじゃない?」
「お!?デートか!?」
つい、口元が緩む。
「そ。デート」
「おっけ~」
0
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる