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8.閑話
39.永那 中2 夏《野々村風美編》
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「ふ~みっ」
席について授業の準備をしていると、友人に後ろから抱きつかれた。
毎日のようにされているから、驚くこともない。
「おはよ」
「おはー。今日どしたん?珍しいじゃん、遅刻ギリギリなんて」
苦笑する。
「昨日あんまり眠れなくて…寝坊しちゃったの」
「へー、超珍しい」
彼女が私の首筋に顔をうずめて、鼻息を荒くする。
「くすぐったいよ」
「風美は相変わらず良い匂いですな~」
「やーめーて」
「なんで彼氏できないんですかねー?」
彼氏ね…。
筆箱のジッパーを開けて、シャープペンを出す。
小さく息を吐く。
「そういう君は、恋人いるんですかー?」
「えへへ~、いません!生まれてこのかた、告白されたこともしたこともありません!」
3年生になってから、恒例のやり取り。
「いいな~、風美はモテて。ウチにも、そのモテを分けてくんないかな~」
「モテてないってば」
「またまた~謙遜しちゃって」
私は1度だけ、告白されたことがある。
中学2年生、最後の授業が終わった日の放課後。
全然話したこともない男子で驚いたけど、もっと驚いたのは、実は友人がその男子のことを好きだったのだと知ったこと。
…実際に彼を好きなのか聞いたわけじゃないから確証はないけど、ただ、なんとなく、そう思った。
だって彼女が、泣いていたから。
お断りした後、メッセージが送られてきた。
『さっき聞いたんだけど、告られたって、マジ?』
『え、誰に聞いたの?』
告白してくれた男子本人から聞いたのだと返事が来た。
実は前から恋愛相談に乗っていたのだと。
元々友人には告白されたことを話すつもりだったから、校内を探した。
どうせ話すなら、メッセージじゃなくて直接話したかった。
話して、笑い合いたかった。
教室にはいなかった。
クラスメイトに聞いたら“トイレに行った”と言われ、トイレを覗いてみたけど、いなかった。
当てがあったわけではないけれど、なんとなく、1階のトイレに行ってみた。
鼻を啜る音が聞こえた。
1番奥の個室のドアが閉まっていた。
壁に寄りかかって、試しにメッセージを送る。
バイブ音がトイレに鳴り響いて、彼女がそこにいるのだと確信した。
彼女が嗚咽を漏らす。
その声で、やっぱり彼女がそこにいて、泣いているのだとわかった。
そして、初めて知ったんだ。
私の友人は、彼が好きだったのだと。
結局私はトイレから立ち去って、知らないフリをした。
翌日の終業式、友人は普段通りのお調子者だった。
肩を組まれて「よっ、ウチらのスター!」なんて言われた。
いつも4人で行動してたから、他の2人は最初、なんのことか全くわかっていなかった。
彼女が説明すると、3人で騒いだ。
なにしろ3人とも、1度もそういった恋愛ごとには縁がなかったから。
芽衣がよく、私に話しにクラスに来た。
芽衣はモテるから、その度に男子に話しかけられていた。
その様子を見て、いつも4人で“どうしてこうも、モテる人と非モテで差がつくんだろうね?”なんて傷を舐め合って笑った。
私達が恋愛話をするのはその時くらいで、好きな人がいるのかどうかなんて、お互いに聞いたことはなかった。
だから、彼女が泣いた時、後悔した。もっと話しておけばよかったって。
“私、好きな人いるよ”って、言っておけばよかったって、後悔した。
でも…私が永那を好きだと初めて自覚した時、“言えない”と思ってしまった。
理由はいろいろあった。
後輩であること、永那が女の子であること、なにより、初めての恋を茶化されるのではないかと恐れてしまったこと。
永那と芽衣が触れ合えば触れ合うほど、胸が苦しくて、痛くて仕方なかった。
ある時から、軽音部の男子が永那と仲良くしようとすると、明らかに芽衣は邪魔するように割って入るようになった。
“芽衣も永那が好きなの…?”って思ったけど、“いや、まさか…”とも思った。
でも、2人を見れば見るほど、まるで恋人みたいで、もっと苦しくなった。
その苦しみを、笑われたくないと思った。
友人達が、悪気なく笑う姿が想像できてしまった。
4人でいる時はいつも、私はいじられる側だったから、鮮明にイメージできてしまった。
だから言えなかった。
もしかしたら友人も、同じように、そう思ったのかもしれない。
だから私に“好きな人がいる”と、言えなかったのかもしれない。
修了式が終わって、春休みが来て、何日か4人で遊んだけど、真面目に恋愛の話をする機会なんてなかった。
だっていつも4人で集まると好きなバンドの話になるし、それ以外はひたすらふざけ倒しているから。
3年生になって、友人が冗談半分に私のモテいじりを始めて、余計、話せなくなった。
だけど、もう、いい加減話さないと。
この中途半端ないじりも、いい加減やめてほしい。
「ねえ」
「ん~?」
「今日、帰りになんか食べてかない?」
「お!いいねえ!2人も誘う?」
「たまには2人きりでもいいんじゃない?」
「お!?デートか!?」
つい、口元が緩む。
「そ。デート」
「おっけ~」
席について授業の準備をしていると、友人に後ろから抱きつかれた。
毎日のようにされているから、驚くこともない。
「おはよ」
「おはー。今日どしたん?珍しいじゃん、遅刻ギリギリなんて」
苦笑する。
「昨日あんまり眠れなくて…寝坊しちゃったの」
「へー、超珍しい」
彼女が私の首筋に顔をうずめて、鼻息を荒くする。
「くすぐったいよ」
「風美は相変わらず良い匂いですな~」
「やーめーて」
「なんで彼氏できないんですかねー?」
彼氏ね…。
筆箱のジッパーを開けて、シャープペンを出す。
小さく息を吐く。
「そういう君は、恋人いるんですかー?」
「えへへ~、いません!生まれてこのかた、告白されたこともしたこともありません!」
3年生になってから、恒例のやり取り。
「いいな~、風美はモテて。ウチにも、そのモテを分けてくんないかな~」
「モテてないってば」
「またまた~謙遜しちゃって」
私は1度だけ、告白されたことがある。
中学2年生、最後の授業が終わった日の放課後。
全然話したこともない男子で驚いたけど、もっと驚いたのは、実は友人がその男子のことを好きだったのだと知ったこと。
…実際に彼を好きなのか聞いたわけじゃないから確証はないけど、ただ、なんとなく、そう思った。
だって彼女が、泣いていたから。
お断りした後、メッセージが送られてきた。
『さっき聞いたんだけど、告られたって、マジ?』
『え、誰に聞いたの?』
告白してくれた男子本人から聞いたのだと返事が来た。
実は前から恋愛相談に乗っていたのだと。
元々友人には告白されたことを話すつもりだったから、校内を探した。
どうせ話すなら、メッセージじゃなくて直接話したかった。
話して、笑い合いたかった。
教室にはいなかった。
クラスメイトに聞いたら“トイレに行った”と言われ、トイレを覗いてみたけど、いなかった。
当てがあったわけではないけれど、なんとなく、1階のトイレに行ってみた。
鼻を啜る音が聞こえた。
1番奥の個室のドアが閉まっていた。
壁に寄りかかって、試しにメッセージを送る。
バイブ音がトイレに鳴り響いて、彼女がそこにいるのだと確信した。
彼女が嗚咽を漏らす。
その声で、やっぱり彼女がそこにいて、泣いているのだとわかった。
そして、初めて知ったんだ。
私の友人は、彼が好きだったのだと。
結局私はトイレから立ち去って、知らないフリをした。
翌日の終業式、友人は普段通りのお調子者だった。
肩を組まれて「よっ、ウチらのスター!」なんて言われた。
いつも4人で行動してたから、他の2人は最初、なんのことか全くわかっていなかった。
彼女が説明すると、3人で騒いだ。
なにしろ3人とも、1度もそういった恋愛ごとには縁がなかったから。
芽衣がよく、私に話しにクラスに来た。
芽衣はモテるから、その度に男子に話しかけられていた。
その様子を見て、いつも4人で“どうしてこうも、モテる人と非モテで差がつくんだろうね?”なんて傷を舐め合って笑った。
私達が恋愛話をするのはその時くらいで、好きな人がいるのかどうかなんて、お互いに聞いたことはなかった。
だから、彼女が泣いた時、後悔した。もっと話しておけばよかったって。
“私、好きな人いるよ”って、言っておけばよかったって、後悔した。
でも…私が永那を好きだと初めて自覚した時、“言えない”と思ってしまった。
理由はいろいろあった。
後輩であること、永那が女の子であること、なにより、初めての恋を茶化されるのではないかと恐れてしまったこと。
永那と芽衣が触れ合えば触れ合うほど、胸が苦しくて、痛くて仕方なかった。
ある時から、軽音部の男子が永那と仲良くしようとすると、明らかに芽衣は邪魔するように割って入るようになった。
“芽衣も永那が好きなの…?”って思ったけど、“いや、まさか…”とも思った。
でも、2人を見れば見るほど、まるで恋人みたいで、もっと苦しくなった。
その苦しみを、笑われたくないと思った。
友人達が、悪気なく笑う姿が想像できてしまった。
4人でいる時はいつも、私はいじられる側だったから、鮮明にイメージできてしまった。
だから言えなかった。
もしかしたら友人も、同じように、そう思ったのかもしれない。
だから私に“好きな人がいる”と、言えなかったのかもしれない。
修了式が終わって、春休みが来て、何日か4人で遊んだけど、真面目に恋愛の話をする機会なんてなかった。
だっていつも4人で集まると好きなバンドの話になるし、それ以外はひたすらふざけ倒しているから。
3年生になって、友人が冗談半分に私のモテいじりを始めて、余計、話せなくなった。
だけど、もう、いい加減話さないと。
この中途半端ないじりも、いい加減やめてほしい。
「ねえ」
「ん~?」
「今日、帰りになんか食べてかない?」
「お!いいねえ!2人も誘う?」
「たまには2人きりでもいいんじゃない?」
「お!?デートか!?」
つい、口元が緩む。
「そ。デート」
「おっけ~」
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