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7.向
412.舞う
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「新しいマスカラ買ったの」
「へえ…」
私には、よくわからない。
とりあえずメイク道具一式は、千陽に教えてもらって揃えた。
何度か練習してみたけど、アイラインもまだ全然上手く引けないし、眉毛も千陽みたいに綺麗に描けない。
カットして整えるくらいは、なんとか出来るようになった。
千陽によれば、アイラインが引けるようになることよりも、眉毛が大事なのだという。
“眉毛で全然印象変わるから”と教わった。
千陽がポーチからメイク道具を出して、私の物と一緒に並べる。
千陽にメイクをしてもらう時は、なるべくじっとしている。
千陽の指示に従って動き、完成するのを待つ。
彼女に言われて、ヘアアイロンも買った。
これはまだまだ全然上達しない…。
今はいろんな髪型を動画で見て、必死に練習中だ。
メイクをしている間、ヘアアイロンを温めておく。
そしてメイクが終わったらすぐに髪のセットに移行する。
私はまだ、上手にゆるく巻く…というのができない。
しっかり巻かれるか、ゆるすぎてすぐに取れてしまうか…。
バランスが難しい。
「はい、終わり」
鏡を渡されて、見る。
「わあ…すごい…」
「マスカラがピンクで可愛いでしょ?」
「うん。なんか、透明感があるね…」
「あたしのはオレンジ」
彼女に顔を近づけて観察する。
「本当だ。可愛い」
チュッとキスをされて、心臓が飛び跳ねた。
「ち、千陽…」
フフッと笑って、彼女はメイク道具を手際よくしまっていく。
私は慌てて立ち上がって、服を着替えた。
早々に片付け終えた千陽に見つめられるのが恥ずかしくて、急いで着替える。
「誉、行ってくるね」
「いってらっしゃーい」
漫画を片手に、誉がお見送りしてくれた。
エレベーターで、手を繋ぐ。
「春休みまでに、メイク上手になってたいな」
「試験も終わったし、練習時間はあるんじゃない?」
「そうだね」
今日は買い物をすると言われているから、お金を多めに持ってきた。
月のお小遣いが8千円で、高校生にしては多く貰っているのかな?と思うけれど、それでも、こうして遊びに行くことが増えてからは、少し足りないなと思うことも多い。
千陽は例外だけれど、みんなどうやってやりくりしてるんだろう?と疑問だ。
友達の誕生日プレゼントや、ファッション、飲食代、カラオケとかに行く場合はその料金もかかる。
趣味がある人は、趣味にもお金がかかるだろう。
私は本を買うから、月に千円か2千円は本代として消える。
なかにはアルバイトをしている子もいるから、お小遣い以外の収入がある人は多いのかもしれない。
私はずっと使わずに貯めていた分があるから良かったけど…もし貯めていなかったら、全然足りなかったと思う。
駅に向かう。
春らしい陽気になってきたとは言え、まだ風は肌寒い。
「来週には桜、咲くかな?」
「かもね」
「卒業式にも入学式にも桜って咲いてるイメージがないけど、どうして咲くシーズンにそういうイベントがないんだろうね?」
「地域によりけりじゃない?ちょうど咲く頃にそういうイベントがある地域もあるでしょ」
「そっか…。そうだよね。いいなあ、卒業式に桜が舞ってたら、否が応にも泣いちゃうよね」
千陽の口元が緩む。
「入学式だったら、新しい恋の予感…とか?」
「そうかも!ワクワクする感じかな?」
笑い合う。
「修了式の日とか、みんなでお花見したら楽しそう」
「きっと桜が満開の頃だね。優里ちゃんと森山さん、誘ってみよっか」
「永那は誘わないの?」
「も、もちろん!永那ちゃんは誘うよ!当たり前でしょ」
唇を突き出すと、千陽が楽しそうに笑う。
「あたしが飲み物とお菓子用意するから、穂と優里は手作りのお弁当ね?」
「いいよ」
「桜には、紙皿とかシートとか用意してもらお」
「永那ちゃんは?」
「盛り上げ係?」
「なにそれっ、永那ちゃん拗ねるんじゃない?」
千陽は永那ちゃんのことが大好きなのに、変なところで永那ちゃんをいじるから面白い。
「じゃあ、飲み物は永那に用意させる」
「うん」
電車に乗り込むと、結構人がいて、座れなかった。
2人で手すりのそばに立つ。
「そういえば、春休み…パパ、出張ないって」
「え!?…そ、そっか」
「ホント、最低」
「さ、最低ではないよ?千陽のお父さんだってお仕事なんだから」
「最低なの」
千陽がそっぽを向いて、窓の外を眺めた。
「でも、まあ…“友達と騒ぎたいのに”って言ったら、おすすめのホテル教えてくれて」
「ホテル?」
「そ。パパが全額払ってくれるって言ってるんだけど、どう?」
「え!?い、いや…さすがに払ってもらうのは申し訳ないよ」
「でもそこのホテル、たぶん穂と永那じゃ払えない」
「どんなホテルなの…」
項垂れると、千陽が歯を見せて笑った。
窓から射し込む光が微かに当たって、彼女の白い肌が艶めく。
「あたし、ずっと楽しみにしてた。良い子に待ってたんだよ?…なのに、場所が確保できないから無しなんて、絶対嫌」
彼女の大きな瞳が、まっすぐ私を捕らえる。
「へえ…」
私には、よくわからない。
とりあえずメイク道具一式は、千陽に教えてもらって揃えた。
何度か練習してみたけど、アイラインもまだ全然上手く引けないし、眉毛も千陽みたいに綺麗に描けない。
カットして整えるくらいは、なんとか出来るようになった。
千陽によれば、アイラインが引けるようになることよりも、眉毛が大事なのだという。
“眉毛で全然印象変わるから”と教わった。
千陽がポーチからメイク道具を出して、私の物と一緒に並べる。
千陽にメイクをしてもらう時は、なるべくじっとしている。
千陽の指示に従って動き、完成するのを待つ。
彼女に言われて、ヘアアイロンも買った。
これはまだまだ全然上達しない…。
今はいろんな髪型を動画で見て、必死に練習中だ。
メイクをしている間、ヘアアイロンを温めておく。
そしてメイクが終わったらすぐに髪のセットに移行する。
私はまだ、上手にゆるく巻く…というのができない。
しっかり巻かれるか、ゆるすぎてすぐに取れてしまうか…。
バランスが難しい。
「はい、終わり」
鏡を渡されて、見る。
「わあ…すごい…」
「マスカラがピンクで可愛いでしょ?」
「うん。なんか、透明感があるね…」
「あたしのはオレンジ」
彼女に顔を近づけて観察する。
「本当だ。可愛い」
チュッとキスをされて、心臓が飛び跳ねた。
「ち、千陽…」
フフッと笑って、彼女はメイク道具を手際よくしまっていく。
私は慌てて立ち上がって、服を着替えた。
早々に片付け終えた千陽に見つめられるのが恥ずかしくて、急いで着替える。
「誉、行ってくるね」
「いってらっしゃーい」
漫画を片手に、誉がお見送りしてくれた。
エレベーターで、手を繋ぐ。
「春休みまでに、メイク上手になってたいな」
「試験も終わったし、練習時間はあるんじゃない?」
「そうだね」
今日は買い物をすると言われているから、お金を多めに持ってきた。
月のお小遣いが8千円で、高校生にしては多く貰っているのかな?と思うけれど、それでも、こうして遊びに行くことが増えてからは、少し足りないなと思うことも多い。
千陽は例外だけれど、みんなどうやってやりくりしてるんだろう?と疑問だ。
友達の誕生日プレゼントや、ファッション、飲食代、カラオケとかに行く場合はその料金もかかる。
趣味がある人は、趣味にもお金がかかるだろう。
私は本を買うから、月に千円か2千円は本代として消える。
なかにはアルバイトをしている子もいるから、お小遣い以外の収入がある人は多いのかもしれない。
私はずっと使わずに貯めていた分があるから良かったけど…もし貯めていなかったら、全然足りなかったと思う。
駅に向かう。
春らしい陽気になってきたとは言え、まだ風は肌寒い。
「来週には桜、咲くかな?」
「かもね」
「卒業式にも入学式にも桜って咲いてるイメージがないけど、どうして咲くシーズンにそういうイベントがないんだろうね?」
「地域によりけりじゃない?ちょうど咲く頃にそういうイベントがある地域もあるでしょ」
「そっか…。そうだよね。いいなあ、卒業式に桜が舞ってたら、否が応にも泣いちゃうよね」
千陽の口元が緩む。
「入学式だったら、新しい恋の予感…とか?」
「そうかも!ワクワクする感じかな?」
笑い合う。
「修了式の日とか、みんなでお花見したら楽しそう」
「きっと桜が満開の頃だね。優里ちゃんと森山さん、誘ってみよっか」
「永那は誘わないの?」
「も、もちろん!永那ちゃんは誘うよ!当たり前でしょ」
唇を突き出すと、千陽が楽しそうに笑う。
「あたしが飲み物とお菓子用意するから、穂と優里は手作りのお弁当ね?」
「いいよ」
「桜には、紙皿とかシートとか用意してもらお」
「永那ちゃんは?」
「盛り上げ係?」
「なにそれっ、永那ちゃん拗ねるんじゃない?」
千陽は永那ちゃんのことが大好きなのに、変なところで永那ちゃんをいじるから面白い。
「じゃあ、飲み物は永那に用意させる」
「うん」
電車に乗り込むと、結構人がいて、座れなかった。
2人で手すりのそばに立つ。
「そういえば、春休み…パパ、出張ないって」
「え!?…そ、そっか」
「ホント、最低」
「さ、最低ではないよ?千陽のお父さんだってお仕事なんだから」
「最低なの」
千陽がそっぽを向いて、窓の外を眺めた。
「でも、まあ…“友達と騒ぎたいのに”って言ったら、おすすめのホテル教えてくれて」
「ホテル?」
「そ。パパが全額払ってくれるって言ってるんだけど、どう?」
「え!?い、いや…さすがに払ってもらうのは申し訳ないよ」
「でもそこのホテル、たぶん穂と永那じゃ払えない」
「どんなホテルなの…」
項垂れると、千陽が歯を見せて笑った。
窓から射し込む光が微かに当たって、彼女の白い肌が艶めく。
「あたし、ずっと楽しみにしてた。良い子に待ってたんだよ?…なのに、場所が確保できないから無しなんて、絶対嫌」
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